本作の惹句は「制限時間は96分、新幹線に仕掛けられた爆弾を止められるか⁉」。列車を舞台にしたテロを描いている。

2025年の台湾映画で興行成績1位(約10億円)を獲得した注目作だ。


 3年前の台風が吹き荒れる夜、警察の爆弾処理専門家・宋康仁(林柏宏)は映画館爆破の脅威に対応していた。指揮官の李傑の指示を待たず単身現場に赴き、装置の解除に成功。しかし爆弾の脅威は続いていた。宋は知らされていなかったが、近くのデパートに隠された第2の爆弾が爆発し、多数の死者と100人以上にも及ぶ負傷者を出したのだ。


 宋康仁は起爆装置を解除したことで国家の英雄として称賛されたものの、なぜか罪悪感に苦しむ。そのあげく爆弾処理の仕事を辞し、婚約者・黄新(宋芸樺)との結婚は延期となった。


 3年後の現在。事件の追悼イベントが行われ、会場に向かう台湾新幹線の車内で犠牲者の遺族らが再会する。宋康仁、黄新、そして宋の母親は高雄行きの高速列車に乗車するが、またもや爆弾事件に巻き込まれる。列車に爆弾が仕掛けられており、終着駅まで残り96分しかない。


 宋は警察と協力し、爆発を阻止しなければならない。

刻々と時間が迫るなか、3年前に埋もれた真実が浮かび上がる。当時の彼の選択が、現在の脅威の引き金となっていたのだ。


 犯人は長年隠蔽されてきた警察の闇を暴くよう要求。真の黒幕の姿が徐々に浮かび上がる。家族と数百人の乗客の命を前に、宋康仁は自らの後悔と向き合うことに。全てを犠牲にする覚悟で、彼は悪夢のような惨事を防ぐため時間との闘いを繰り広げるのだった……。



主人公は次から次へと崖っぷちに

 猛スピードで走る乗り物に爆弾が仕掛けられる映画はこれまで数多く製作されてきた。「新幹線大爆破」(1975年)や「スピード」(94年)。爆弾ではなく、テロリストが旅客機を乗っとる「エグゼクティブ・デシジョン」(96年)など数え上げたらきりがない。


 この「96分」の特徴は爆発の恐怖にさらされる列車が2台であることだ。宋が乗る列車とその前を走る列車。ともに時速300キロ近い猛スピードで疾走する。

そのどちらも爆弾犯人の魔の手から逃れることができない。


 乗客は不安から疑心暗鬼となり、パニックに陥る。さらに宋は3年前の爆弾犯人から執拗な威圧を受ける。それでも列車を止めることは許されない。


 彼は犯人から言葉の強迫を受けつつ2台の列車の危難に立ち向かう。そうしながら、心は過去の秘密と闘っている。まさに二重、三重の苦しみ。よく「脚本作りの基本は主人公を追いつめ、苦しめること」と言うが、ここまでやるかとあきれるほど、宋は次から次へと崖っぷちに立たされる。


 彼のそばには美しい婚約者がいる。また、一緒に追悼式に向かう母親もいる。彼女たちを守るには自分の命を惜しむわけにはいかない。究極の状況の中に人と人の愛情が湧き上がる。

この作品はパニックを舞台にした“爆弾人情劇”と呼んでいいだろう。


 爆弾魔に立ち向かう宋は罪悪感を抱え、犯人も悲しみに対峙している。ここにも人情による相克がある。かくして爆弾を抱えた新幹線は烈風の中を突き進んで行くのだった。(シネマート新宿ほか全国公開中/配給:ハーク)


(文=森田健司)


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