【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#14
『マネー』
◇ ◇ ◇
原稿を書くために、試聴リンクからこの曲を聴いて、驚くのだ。「めっちゃ音ええやん!」。
前々回、アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』の印象として、「音がガチャガチャしている」と書いたが、それは多分に、80年代初頭、私が初めて聴いたときの印象であって、音の加工技術の進化は素晴らしく、今やもうシュッとしている。
そんな記憶の彼方の『ウィズ~』を振り返れば、もっとも音がガチャガチャしていたのがこの曲だった(同世代の賛同の声が聞こえるぞ)。
ガチャガチャした演奏、それをさらにガチャガチャさせるカセットテープのノイズの中から、ジョンの素晴らしいシャウトが際立って聴こえてくる。
それにしても、こんなにクリアな音の『マネー』を聴けるなんて、長生きはするもんだ。しかし最新の電子マネーのような『マネー』を聴くと、あの頃の「LP(レンタルレコードなので傷多し)→マクセルのノーマルテープ(ドルビーなし)」による、ガチャガチャでペチャッとしたローファイ(ハイファイの逆)サウンドを、もう一度聴きたいと思ってしまう。あの、まるで古銭のような『マネー』を。
繰り返すが、若きジョンのシャウトがとにかく素晴らしい。特に試聴リンクの再生時間「1:42」で2度目の「♪アイ・キャント・ユーズ」を「メロ(ディー)変え」(そこだけメロディーを変えること)するところは、何度聴いてもゾクゾクする。【オリジナル記事で試聴する】
前作『プリーズ・プリーズ・ミー』のラスト、『ツイスト・アンド・シャウト』での(それこそ)シャウトも素晴らしかったが、ここでは迫力が、さらに倍。
この曲もカバーで、原曲は黒人音楽。ビートルズ版で印象的なピアノ(ジョージ・マーティンによる名演)とギターの変態的リフレインは、原曲にも備わっていることが分かる。
歌詞はタイトル通り。
『ウィズ・ザ・ビートルズ』のラストに置かれて、ガチャガチャした音を生み出しているのが「ジョン・レノンとザ・ビートルズ」だったと強く印象付ける曲である。
しかし、先を急げば、翌年の次作『ア・ハード・デイズ・ナイト』からは、録音が「4トラック」(後日説明)になり、音がシュッとしてグッと前に出てくる。と同時にポール、ジョージも負けじと、少しずつ前に出て来るのだ。
▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。

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