バブル崩壊からウィンドウズ95の発売まで、今につながる変化が起きていた1990年代。どこか投げやりな気分が蔓延していた世紀末ニッポンに飯島愛は突如として現れた。

没後18年。「飯島愛と90年代という時代は驚くほどリンクしている」と話すのは、「飯島愛のいた時代」(太田出版)を上梓したアダルトメディア研究家の安田理央氏だ。


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 飯島愛が登場したのは1992年。最初はAV女優としてデビューした、と思われているが、実はAVが発売されるよりも先にテレビ番組「ギルガメッシュないと」に出演している。AVの撮影自体は、放映よりも前だったが、発売が前後したために、当時は「ギルガメに出ているあの子がAVに!」という驚きをもって受け止められ、いわば、芸能人AV的な売り出し方となっていた。


 もともとはAVのプロモーションのつもりでの出演だったようだが、評判がよかったため、プロダクションも本人もタレント的な活動を中心に考えるようになっていく。


 当時のAV業界では飯島愛の評判は決してよいものではなかった。現場に遅刻してくるのに撮影は早く終わらせないと機嫌が悪くなる。面倒くさい演技などは嫌がる。あからさまにAVをバカにした態度だったという。


 それをプロダクションも黙認していた。テレビの仕事は時間厳守だが、AVはわがままにやってかまわない、と。


 しかし、彼女のそんな態度を受け入れなければならないほどに、飯島愛のAVは売れていた。92年のAV売り上げランキングでは彼女の出演作は上位を独占し、圧倒的な人気を見せつけたが、AV雑誌の92年の「年間女優ランキング」には飯島愛の名前はなかった。


 彼女の人気が爆発した頃から、エロ本では飯島愛を扱うことは禁じられた。週刊誌などでも、AV出演は伏せ、セクシーなタレントであると書かないと、プロダクションから抗議が入ったという。


 AV女優撮影会のイベントを取材した週刊誌が、出演していた飯島愛のヌードを掲載しようとしたら、事務所から100万円を要求されて断念したという「事件」もあった。


 筆者は90年代初頭からAV業界に関わっていたため、彼女のそんな「悪評」は漏れ聞いていた。そのため印象は悪く、基本的には無視を決め込んでいた。それは彼女がタレントとして成功し、突如引退し、そして急死した時も変わらなかった。



90年代のスター

 しかし、彼女の本を書かないか、と提案された時に、妙に興味を持った。彼女を通して、90年代という時代を描けるかもしれない。そう考えたのだ。


 それから飯島愛に関する資料を集め、彼女の活動の軌跡を追った。

飯島愛という女性がどのように報道されていたかに焦点を絞って調べていった。


 すると彼女を通して、90年代から2000年代にかけての時代の背景がくっきりと浮かび上がってきたのだ。AV女優、Tバックタレント、コギャルのカリスマ、人気テレビタレント、そしてベストセラー作家……。飯島愛のおかれた立場の変化は、そのまま時代の変化でもあった。そして、飯島愛という人は、常に「主流じゃない人たち」の代弁者であったのだな、と気づいた。主流と非主流がはっきりしていた時代、彼女は後者のスタンスを崩さなかった。


 そして08年末に突然の死を迎えた後、日本の社会は主流も非主流も渾然としたカオスのような状況へと向かっていったのである。もしも今、彼女が生きていたとしたら、どんなスタンスに立っているだろうか?


(安田理央/アダルトメディア研究家)


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