犯行に結び付く新たな直接証拠は示されず、検察側が「何らかの方法で覚醒剤を摂取させた」と繰り返していた「具体的な方法」は明らかにされないまま、またも無罪判決となった。


 2018年5月、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が、自宅で急性覚醒剤中毒により死亡。

殺人罪などに問われ、24年12月、和歌山地裁の裁判員裁判で無罪を言い渡された元妻、須藤早貴被告(30)の控訴審判決が23日あり、大阪高裁は1審判決を支持し、検察の控訴を棄却した。


■1審判決を「重大な事実誤認」と主張


 検察側は昨年12月の控訴審初公判で1審判決について「重大な事実誤認がある」「動機や計画性を推認できる間接証拠を個別的、分断的に評価している。偶然が重なることはあり得ず、総合的に判断するべきだ」として、新たな証拠調べや証人尋問を請求したが、いずれも高裁に退けられ、即日結審した。


 逮捕から5年という時間をかけたにもかかわらず、検察は野崎さんが自ら覚醒剤を飲んでいないことや、元妻以外に飲ませた人物がいないことを証明できず、自白も取れなかった。


 検察にとって誤算だったのは、出廷したシャブの密売人の1人が「被告に売ったのは覚醒剤ではなく、砕いた氷砂糖3グラムだった。当時、覚醒剤を入手する人脈はなかった」と、もう1人の密売人と異なる証言をしたこと。


 これに対し、元妻は被告人質問で「セックスの時、勃たなかったので社長から『覚醒剤でも買ってきてくれないか』と頼まれた。渡した翌日、『使い物にならん。偽物や。もうおまえには頼まん』と言われた」と答えた。地裁はこの供述について信用できないとしたものの、元妻が密売人から受け取ったブツは、氷砂糖だった可能性があると指摘していた。


 元妻のスマホには「完全犯罪」「覚醒剤 死亡」「過剰摂取」といった検索履歴が残っていたが、致死量や覚醒剤を飲ませる「具体的な方法」を検索した履歴はなかった。


■1審の無罪に控訴した検察には思惑が


 一方、野崎さんと長年交際していた女性は「亡くなる前、野崎さんから電話があり、『覚醒剤やってるで』と話していた」と証言。高裁は「野崎さんが自殺以外の目的で覚醒剤を使用した際、誤って過剰摂取した可能性がないとは言い切れない」とした。


「検察側は1審で『覚醒剤を飲ませたのは早貴被告以外にいない』と決めつけていたが、裁判員を務めた20代の男性は判決後、『判決を出す上で悩みはなかった』と吐露していた。裁判官が一般市民の判断を尊重したともとれます。検察としたら控訴して審理の場が高裁に移れば、裁判員裁判ではなくなり、裁判官も代わることから、別の結果になる可能性もあるとみたのかもしれません」(司法記者)


 意地や無罪判決を認めたくないプライドからなのか、検察側は控訴に踏み切ったものの、高裁に新たな証拠集めや証人尋問を認められず、2度の無罪判決で恥の上塗りとなった。


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