【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#283


 今井らいぱち


  ◇  ◇  ◇


「これで妻子を東京に呼べます!」


 先日の「R-1グランプリ」で優勝を果たした今井らいぱち君。大阪に残している奥さんに「決勝」に進出すると約束し、苦節15年。

電話すると「うれしいです! 子供の幼稚園の関係とかもあるんで、すぐに一緒は無理かもしれませんが、誕生したばかりの双子の子供とも住めるんで、ホンマにうれしいです!」と大喜びでした。


 NSC入学時は「ヒガシ逢ウサカ」というコンビを組んでいて、コントではありふれた日常のテーマから、今井君が舞台狭しと動き回る予想外の展開が持ち味でした。しゃべりも“雰囲気のある”いいコンビで、私は選抜クラスに推薦しました。翌年は今井君が私の授業のアシスタントをしてくれ、礼儀正しく、とにかく一生懸命でした。


 ヒガシ逢ウサカは、大阪でそこそこ人気はありましたが、10年目に東京に進出したい今井君と相方の方向性の違いから解散。今井君は家族を残して単身上京。


「優勝はホンマにみんなのおかげです! 感謝でいっぱいです!」と何度も感謝を口にしていました。今回のネタも「ああしたらどうや?」「これもいけるぞ!」と仲間からアドバイスをもらってブラッシュアップしたそう。


 いくら芸人仲間とはいえ、そう簡単にはアドバイスはしないもの。「らいぱち」という名前も学生時代に野球をやっていて「ライトで8番」と聞いた見取り図の盛山君が「今井らいぱち」と芸名を決めてくれたそう。先輩にも可愛がられ、彼の人柄あっての勝利でした。


 人の良さと、思い切ってどんな役でもやり切れる“小さな狂気”が同居しているのが今井君の強み。

かまいたちの山内君のような「大きな狂気」に近づいていければ、より独創的なネタをつくり上げると期待しています。


 本人的にはデキのいいネタが2本揃ったと言ってましたが、考える余地があるネタを、思いつきと勢いでやってしまってもったいないことが多々あります。裏を返せば、まだまだ伸びしろがある。家族が上京し、心の余裕と、目の前の家族を養わなければならないという、いい意味のハングリー精神が生まれた時、この伸びしろが生きてくると思います。


「名前が世間に出たことで有名人にも会えるで。誰に会いたい?」と聞くと、即答で「ジャッキー・チェンさんにお会いしたいです。大好きなんです! 無理ですかねぇ?」と熱望していました。


 15年念じて、岩をも通した今井らいぱち君ですから、実現する日もそう遠くはないでしょう。


(本多正識/漫才作家)


編集部おすすめ