この連載の趣旨は、70年代の子どもたちの間で流行したオカルトネタをいまさらながら回顧してみることにあるのだが、なかでもすでにこちらの記憶が曖昧になっていて、かなりモヤモヤしてしまっているトピックにも焦点を当ててみたいと思っている。

【ムー昭和オカルト回顧録】昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎
「ムー」1980年11月号より。
1979年創刊の同誌としてはほぼ初の「ミイラ特集」。エジプトをはじめ世界各国のミイラを詳細に解説。ミイラ総論ともいえる本格的な特集だ。

超能力やコックリさん、口裂け女など、僕ら世代がブーム生成のプロセスにリアルタイムに関わることのできた大ネタだけではなく、「あの頃、コレがやけに流行っていた……ような気がする」とか、「なんでアレがあんなに話題になってたんだろう?」とか、今思えばブームの実態も、そのきっかけもわからなくなっているような、でも、確かにあの頃の僕らはソレに夢中になってたよね、といようなボンヤリとしたネタを再検証してみたいのだ。

で、連載の企画段階からやってみたいと思っていたのが、僕ら世代の幼少期にあった(ような気がする)「ミイラブーム」(のようなもの)はいったいなんだったのか?……というモンダイの解明なのである。

これは同世代でなければピンとこないかも知れないし、同世代でも「ミイラブームなんてあったっけ?」と首をかしげるかも知れない。

しかし、僕は以前からずっと気になっていたのだ。僕ら世代がものごころつく70年代初頭からなかばあたりにかけて、なんだか知らないがやたらとメディア(本と雑誌とテレビ)にミイラ、及びそれに類するエジプトのアレコレが登場していなかったか?

特にミイラは本場(?)エジプトのミイラの実像からかけ離れ、「ミイラ男」などと称されるひとつの定番モンスター、あるいは妖怪的キャラとして扱われて、ありとあらゆる子ども向けテレビ番組に登場しまくっていたではないか。なんであんなことになっていたのか?……ということが、僕には長らく謎だったのである。

「いや、ありとあらゆる子ども番組にミイラが出てきた、といのは大げさだろ?」と、同世代の読者でさえ思うかもしれない。

しかし、これは単に大仰なレトリックではないのである。童心にかえってよく思い出していただきたい。

きっとあなたは忘れているだけだ。我々が見ていたテレビ番組はミイラだらけだったはずなのだ。当時のテレビはミイラ、ミイラ、ミイラ……だったのである。すべてのテレビ局がミイラに占拠されているかのような状態だったのだ。ミイラが一度も出てこない子ども番組を探す方が大変なくらいなのだ!

……というのはさすがに言いすぎだが、しかし、そうも言いたくなるくらいにミイラは子ども文化にあれふれていた。


子ども番組を席巻していた「ミイラ男」

テレビで目にしたミイラのなかでも、僕の記憶に鮮烈に残っているのが、1972年に放映された特撮ドラマ『緊急指令10-4・10-10』のエピソード、「闇に動くミイラ」(第7話)に登場した「ミイラ男」である。5歳ごろの記憶だし、その後は見返してもいないので今見るとどうだか知らないが、とにかく超絶ホラーテイストの演出で、めちゃくちゃ怖かったのを覚えている。

同じように悪夢的な恐怖の記憶を刻みつけられたのが、再放送で見た『ウルトラマン』。「ミイラの叫び」と題された回に登場した「ミイラ人間」も、泣きたくなるくらいに怖かった。

当時、特に子ども向けの特撮番組では、こうした「ミイラ男」=生き返って動きまわる心霊的・妖怪的ミイラが続々と登場していたのだ。記憶に残っているものだけをランダムに書きだしてみると……

まずは「おまえら、どうかしてるだろ!」と制作陣に言いたくなるほどグロくて悪趣味な悪役ばかりが登場した『バロム・1』。片目がなく、肋骨が露出した「ミイラルゲ」というトラウマレベルのエグい怪人が登場した。

『恐怖劇場アンバランス』の記念すべき初回放映も『木乃伊(みいら)の恋』。生き返った即身仏をめぐるブッ飛んだストーリーで、監督はなんと鈴木清順だ。『仮面ライダー』シリーズにもミイラが何度も登場するが、印象的なのは「生き返ったミイラ怪人エジプタス」だろう。「ヒカラビーノ」というヒドい名前のミイラ怪人も記憶に残っている。また、悪の組織が人間をミイラにしてしまう陰謀を企てる回もあった。さらに『ジャイアントロボ』の悪の幹部は「ミイラーマン」だし、『タイガーセブン』の悪の親玉はエジプトモチーフの「ギル太子」で、「ミイラ原人」を操る。『キカイダー01』にも「シャドウミイラ」が登場するし、『レインボーマン』にも「ミイラシスター」が登場する。そういや『魔人ハンターミツルギ』の「魔人サソリ」も即身仏のイメージだ。

あと、そうだ、マジで怖いシーンが目白押しだったドラマ版『悪魔くん』にも「ミイラの呪い」というエピソードがあった。不気味な巨大ミイラが直視できなかった記憶がある。巨大ミイラといえば、特撮ではなくアニメだが、『ガッチャマン』の「嵐を呼ぶミイラ巨人」も忘れがたい。

そう、アニメ方面も思い出してみると、まずは当時のミイラキャラとしてはソフビ人形の人気も非常に高かった『タイガーマスク』の「エジプトミイラ」(投げやりなネーミングである)。

それから『妖怪人間ベム』にも「ミイラの沼」という陰惨なエピソードがあったし、かの『ゲゲゲの鬼太郎』のお父さんである「目玉おやじ」も、もともとは「ミイラ男」という設定である。

怖さ抑えめのギャグ的作品におても、『怪物くん』にはヌボーッとした「ミイラ男」が登場するし、『ぐるぐるメダマン』の仲間にもデップリ太った「ミイラ男」がいる。さらには米国産ギャグアニメ『ドボチョン一家』にも広川太一郎が声をアテた「ミイラ男」がレギュラーで出演していたし、それからそれから……

いや、「もういいよっ!」と言われそうなのでやめるが、とにかく列挙しているとキリがない。

というわけで、今回のコラムはなんだか単に「70年代懐かし子ども番組」の羅列みたいになってしまったが、次回以降、なぜこうまでミイラが当時の子ども文化を支配していたのかについて、我々世代が生まれる以前、60年代初頭にまでさかのぼって検証してみたい。

子ども文化におけるひとつのボンヤリとした傾向にも、たいていは発端となる文化的背景というものが存在するものなのである。この、あったのかなかったのかさえよくわらかないボンヤリとした「ミイラブーム」(のようなもの)も、かなりハッキリとした2つの要因から派生したものなのだ。

【ムー昭和オカルト回顧録】昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎
『緊急指令10-4・10-10(テンフォーテンテン)』。1972年に放映された円谷プロ製作のドラマ。無線愛好家たちのチーム(当時はCB無線が大ブームだった)がさまざまな怪事件を独自に捜査する操作する、という内容。『怪奇大作戦』のジュニア版という感じだった。

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

関連リンク

初見健一「東京レトロスペクティブ」

文=初見健一

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