フィリピンでは、近年、腐敗や汚職、犯罪の増加が深刻な問題となっている。ドゥテルテ前大統領政権時には、徹底したクリーン作戦で治安維持に一定の成果があったが、マルコス政権の発足とともに、かつての極悪勢力が再び台頭し、治安悪化の懸念が高まっている。


その他の写真:セバスチャン・ドゥテルテ ダバオ市長(次期 副市長)

 そんな中、2025年5月12日に行われた中間選挙(投票率82%超え)では、マルコス政権に反発するドゥテルテ派候補が、事前予想を大幅に上回る成績を収めた。とりわけ、国際刑事裁判所(ICC)に拘束される中ながらも、前大統領自身が地元ミンダナオ島ダバオ市長選で圧勝し、焦点となる上院選(定数24の半数改選)では、従来2議席とみられていたドゥテルテ派が最終的に5議席を確保。これにより、3年後に迫る次期大統領選へ向け、求心力を失ったマルコス派と、政権復帰を狙うドゥテルテ派の攻防が熾烈になることが示唆される。

 上院選では、前大統領側近のボン・ゴー議員が開票率97%の段階で独走し、単独で2600万票以上の支持を獲得。続く3位には、前政権下で国家警察長官を務め「麻薬撲滅戦争」を指揮したロナルド・デラロサ議員。また、予想を覆す結果となったドゥテルテ派下院議員マルコレタ・ロダンテが6位に躍り上がり、さらに、マルコス派から離反しサラ氏の推薦を受けたカミール・ビリヤール下院議員や、大統領の姉・アイミー・マルコス議員がそれぞれ10位、12位で当選。

 加えて、リベラル派としてバム・アキノ元上院議員(2位)やキコ・パギリナン元副大統領候補(5位)も上位に食い込み、全体ではマルコス派5議席に対し、反対派7議席といった流れとなった。

 地元ダバオでは、ドゥテルテ家の支持基盤が圧倒的な強さを示し、前大統領は市長選で大勝、現市長セバスチャン氏が副市長に再選。長男パオロ氏は直前のスキャンダルにもかかわらず勝利し、隣区では孫が初当選を果たすなど、一族全体での支持拡大が際立った。票増加の背景には、3月11日に香港から帰国後、即逮捕・オランダハーグに送致された前大統領への同情も影響しているとみられ、下院比例区でもドゥテルテ名を冠する政党が台頭した。

 今回の選挙は、政権前半3年間の業績に対する国民審判だ。マルコス派は前大統領逮捕以降の支持急落を受け、今後の政局運営に大きなダメージを与える可能性が高い。
一方、次期大統領候補として注目されるのは、ドゥテルテ前大統領の長女サラ氏である。サラ氏は、上院議員の3分の2が賛成すれば有罪となる弾劾裁判の危機に直面しているが、今回の選挙で獲得した票は、彼女が国民から強固な支持を得ている証だ。もしサラ氏が次期大統領に就任すれば、親の仇に対する復讐心を背景に、マルコス派に対して徹底した強硬措置―逮捕や財産没収といった対抗策―を講じる懸念がある。また、与党連合の顔として出馬したマニー・パッキャオ氏が惨敗したことも、現政権の不振を如実に物語っている。

 国民が示したのは、旧態依然とするマルコス支持から、政治刷新を求めるドゥテルテ派へとシフトする強い意思であり、今後の大統領選や政治情勢の行方が、フィリピンの未来を大きく左右する転換点となりそうだ。
【編集:Eula Casinillo】
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