2025年6月11日、カンタス航空グループ傘下の格安航空会社(LCC)、ジェットスター・アジア航空(JSA/3K)が、7月31日をもって全路線の運航を停止し、会社を閉鎖することが発表された。シンガポールを拠点とする同社は、コストの高騰とアジア域内における競争激化に直面し、低運賃を売りにするビジネスモデルの維持が困難になったと説明している。


その他の写真:ジェットスター・アジア航空

 この閉鎖は、ジェットスター・アジアが運航するアジア域内の16路線に影響を及ぼす。同社は声明の中で、「仕入れ先のコスト、空港使用料、運賃の高騰に加え、便数の増加や域内競争の激化といった課題を抱えていた」と述べ、今後もコスト上昇が続くと予測されることから、事業の継続は不可能と判断したとしている。

 利用客への影響については、運航終了日までの7週間は規模を縮小して運航を続け、8月1日以降の便を予約した利用者には全額払い戻しを行う。また、一部路線ではカンタスグループの代替便が用意される場合もある。

 かつて日本とクラークを結んだパイオニア

 ジェットスター・アジア航空は、2004年12月13日に就航し、これまで5000万人以上の利用者を獲得してきた。特に、2018年3月27日には、日本からフィリピン・クラーク国際空港への初の直行便として、関西国際空港⇒クラーク⇒シンガポール線(週3便)を開設し、注目を集めた。当時のドゥテルテ政権がハブ空港化を目指していたクラークにとって、これは待望の新路線であり、日本とフィリピンを結ぶ新たなゲートウェイとしての役割が期待された。

 しかし、この路線はすでに廃止されており、現在はセブ・パシフィック航空が成田-クラーク線をデイリー運航している。ジェットスター・アジア航空の撤退は、LCC業界の厳しい競争環境を如実に示していると言えるだろう。

 LCCビジネスモデルの限界か

 ジェットスター・アジア航空の今回の閉鎖は、近年、世界的にLCCが直面している課題を浮き彫りにしている。燃料費の高騰、人件費の上昇、そして航空会社間の熾烈な価格競争は、低運賃を武器とするLCCのビジネスモデルに持続不可能な圧力をかけている。同社が保有するエアバスA320型機13機はカンタスグループへ移管され、従業員500人以上には解雇手当の支給と転職支援が行われる。


 一方で、オーストラリアのジェットスター航空(JST/JQ)と日本のジェットスター・ジャパン(JJP/GK)は今回の影響を受けず、運航を継続するとしている。これは、ジェットスター・グループが、各地域の市場環境に応じた戦略の見直しを進めていることの表れとみられる。

 東南アジア市場の激化と今後の展望

 ジェットスター・アジア航空のステファニー・タリー最高経営責任者(CEO)は、「20年以上にわたって当社を支えてくださった献身的なお客様を支援し、ご旅行への影響を最小限に抑え、円滑な事業縮小を実現することに全力を尽くします」とコメントしている。

 今回の閉鎖は、東南アジアにおけるLCC市場の競争が、いかに激しさを増しているかを改めて認識させるものとなった。今後、他のLCCも同様の課題に直面する可能性があり、業界全体の再編が進む可能性も否定できない。低価格で空の旅を提供してきたLCCが、持続可能なビジネスモデルを確立できるのか、その行方が注目される。
【編集:Eula Casinillo】
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