2025年8月8日、警視庁生活経済課は、無登録で社債を購入するよう勧誘したとして、フィリピンの投資会社「S・ディビジョン・ホールディングス(SDH社)」の実質的経営者、須見一(はじめ)容疑者(45)ら男女9人を金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで逮捕した。2021年5月~2023年6月の間に約2400人に社債を販売し、計約400億円を集めたと見られている。


その他の写真:イメージ マニラ空港

 フィリピンを拠点に、日本人を対象とした大規模な投資詐欺事件の全貌が、逮捕者や関連報道を通じて次第に明らかになってきた。この事件は、フィリピンの邦字紙として長い歴史を持つ「日刊まにら新聞」が詐欺グループの信用獲得に利用されていたことから、現地の日本人社会に大きな衝撃を与えている。

 ◆歴史ある邦字紙、詐欺グループの広告塔に

 2024年1月、フィリピン入国管理局は「日刊まにら新聞」の社長である池田葵(38)容疑者を、マニラ空港で身柄拘束した。これは池田氏がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイへ向かう直前に起きた出来事だった。同局によると、池田容疑者はマニラ首都圏マカティ市を拠点とした詐欺行為に関与した疑いが持たれており、複数の被害届が提出されていたとされている。

 池田容疑者逮捕に先立ち、日本の捜査当局も捜査を進めていた。「フィリピンの事業は伸びる」「年利最大24%の利息が得られる」などと謳い、無登録で外国社債を販売していたとされる詐欺グループに対し、日本の金融庁は2023年6月に裁判所へ違法行為停止の申立てを行っている。

 須見一容疑者らは2020年、「日刊まにら新聞」を買収し、自社グループ事業に組み込んでいたことが判明している。「日刊まにら新聞」は、フィリピン在住の日本人向けに発行される邦字紙として一定の信頼性を築いていたが、この信頼性を詐欺グループは巧妙に悪用している。新聞の看板を掲げ、投資勧誘時には「健全な新聞事業も手掛ける企業」として説明を行い、投資家の信用を獲得した。

 ◆元消防士という経歴、信頼獲得のツールか

 池田容疑者の過去の経歴も詐欺グループの信用獲得に活用されていた可能性がある。池田容疑者がYouTube動画(まにら新聞社とぼくから大切なお知らせ。
アキラ先輩フィリピン)で「フィリピンに来る前は広島で6年間消防士を務めていた」と語っていた。

 「元消防士」という経歴は、公務員としての堅実性や誠実さを印象付けるものであり、詐欺事件において、被害者の警戒心を解く手段として利用されることが多い。この公表された経歴も投資家が詐欺グループを信頼する一因となっている可能性がある。

 ◆当局の警告を無視し、拡大した被害

 この詐欺事件では、2021年から2023年にかけて、約2400人の投資家から計約400億円もの資金を集めたとされている。日本の金融庁が警告を発していたにもかかわらず、多くの被害者がその事実を知らないまま、魅力的な高利回りの誘いに乗った。

 2024年1月頃から、投資家への配当が滞り始め、詐欺の実態が露呈している。この一連の出来事は、現地のメディアを装った海外企業による投資勧誘について、その実態を慎重に見極める必要性を示している。

 まにら新聞はFBページで、「お知らせ 現在日本の一部マスコミにおいて、まるでまにら新聞が違法な資金集めに意図的に加担していたかのような報道がなされていますが、まにら新聞はこのような行為に一切関わっておらず、そもそも報道にある「S DIVISION HOLDINGS INC.」とはすでに関係がありません。購読者、関係者の方々にはご心配をお掛けして申し訳ありません。」と掲載している。
【編集:Eula Casinillo】
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