【その他の写真:(C)フィリピン沿岸警備隊[2025年8月11日、フィリピン沿岸警備隊は、南シナ海での領有権をめぐる緊張が高まる中、スカボロー礁付近で、中国海軍の軍艦と中国海警局の船が衝突する事故が発生したと発表]】
近年、中国経済はかつてのような勢いを失い、不動産バブルの崩壊、若年層の高い失業率、地方政府の債務問題など、多くの課題が表面化している。成長の鈍化は、中国共産党の正当性を支えてきた「経済発展」という大義名分を揺るがしかねない。こうした状況下で、中国政府は国民の不満を逸らすため、対外的な強硬姿勢を強める傾向にある。ナショナリズムを鼓舞することで、国内の結束を固めようとするのだ。
今回のフィリピン機への異常接近は、この内政的な圧力と無関係ではないだろう。フィリピン当局は、この異常接近に先立ち、中国の船が自滅的な衝突事故を起こしたことを報じている。権威主義体制を維持する中国にとって、このような失態は「面子」を潰す行為であり、決して容認できるものではない。異常接近は、この面子を取り戻すための、意図的な威嚇攻撃として計画された可能性が高い。
中国が南シナ海や東シナ海で展開している「グレーゾーン戦術」は、軍事力行使には至らないまでも、他国の主権を徐々に侵食する手法である。
ベトナムやフィリピンは、中国海警局や海上民兵による妨害行為に常に晒されている。自国の排他的経済水域(EEZ)内での資源開発や漁業活動が妨害され、国民の生命と財産が脅かされているのが現状だ。最近では、中国海軍の軍艦がこれらの活動に加わるケースも確認され、事態の軍事化が懸念されている。これらの国々は、中国の圧力に屈することなく、国際法廷への提訴や国際世論への訴えを通じて対抗している。中国の横暴は、ASEAN諸国の結束をかえって強め、対中包囲網を形成する要因となっている。
日本も例外ではない。尖閣諸島周辺での中国海警船による領海侵入が常態化し、海上保安庁の巡視船や日本の漁船に対する執拗な追尾や威嚇行為は、日本の主権を侵害するだけでなく、地域の緊張を高める行為だ。中国はこれらの行為を「自国の領土保全」と主張するが、国際法を無視した一方的な現状変更の試みとして、国際社会から強い批判を浴びている。
中国のグレーゾーン戦術は、海上での直接的な行動にとどまらない。経済力を背景にしたインフラ支配も、他国の主権を侵食する「見えないグレーゾーン」として機能している。
一例として、フィリピンの電力網が挙げられる。
今回の異常接近事件は、南シナ海における緊張の継続と深化を示すものだ。フィリピン当局が、当時、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦が航行していたことを明らかにしたことは、この地域における米中の対立構造を改めて浮き彫りにしている。国際社会は、中国の行動を注視しており、もし事態がエスカレートすれば、中国はさらなる国際的な非難と孤立を招くことになるだろう。
中国は、建国以来、平和共存五原則を掲げてきた。しかし、今日のグレーゾーン戦術は、この原則とは真逆の行動であり、中国の国際的な信用を失墜させている。世界の大国として、中国が取るべき道は、力の行使ではなく、対話と国際法に基づく紛争解決だ。経済的な軟化や内政的な課題を理由に、対外的な緊張を高めることは、自滅行為に他ならない。この事態が、中国が国際社会の一員としての責任を自覚し、行動を改めるきっかけとなることを期待したい。
【編集:YOMOTA】