2025年9月、日本とサイパンを結ぶ航空路線は、初就航から半世紀という大きな節目を迎える。かつて日本人の海外リゾートブームを牽引したこの路線は、経済状況や人々の価値観の変化を経て、今や様変わりした様相を呈している。


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 就航の歴史は、日本の高度経済成長と密接に結びついている。1976年8月、ユナイテッド航空の前身であるエア・ミクロネシア(コンチネンタルミクロネシア航空⇒コンチネンタル航空⇒ユナイテッド航空)が、羽田―サイパン直行便を初めて運航した。当時はグアム経由が一般的だった中、直行便の登場はサイパンを身近なリゾート地へと変貌させた。バブル経済期には、社員旅行や新婚旅行の定番デスティネーションとして人気が沸騰。日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)なども相次いで参入し、日本各地の地方空港からも直行便が多数運航されていた。日系ホテルも相次いで開業し、現地の経済は日本の観光需要によって大いに潤った。

 しかし、その栄華は長くは続かなかった。バブル崩壊後の「失われた20年」を通じて、日本の旅行市場は大きな転換期を迎える。団体旅行から個人旅行への志向が強まり、沖縄やハワイ、そしてLCC(格安航空会社)の台頭によって身近になった東南アジアなど、多様な旅行先との競争が激化した。サイパンへの路線は採算性の低下に直面し、大手航空会社は撤退や減便を余儀なくされていった。特に地方空港からの直行便は採算割れが顕著となり、2010年代にはその多くが姿を消した。

 そして決定的な打撃となったのが、2020年からの新型コロナウイルスの世界的なパンデミックである。
国際線の運航がほぼ停止したことで、サイパンは観光客の流入が途絶え、多くのホテルや観光施設が休業・閉鎖に追い込まれた。パンデミックが収束しつつある2025年9月現在も、航空路線の回復は道半ばである。燃料価格の高騰や航空業界の人手不足、さらに円安による旅行費用の割高感も、日本人観光客の戻りを鈍化させている。

 現在、成田―サイパン線を運航するのはユナイテッド航空1社にとどまり、便数も限られている。かつては日系ホテルが隆盛を誇ったが、その多くは韓国や中国資本へと移り、客層も大きく変化した。

 50年という節目に、サイパンは新たな変革期を迎えている。日本人観光客を再び呼び戻すには、単なる路線の再開だけでなく、円安下の旅行需要に応じた商品の開発や、新たな魅力の創出が不可欠であろう。栄枯盛衰の歴史を刻んできたこの路線は、今、時代の変化に対応する正念場に立たされている。

ユナイテッド航空 UA825便(成田 → サイパン).

出発:21:00(成田国際空港).

到着:翌日01:30(サイパン国際空港).

所要時間:約3時間30分.

運航日:火曜・木曜・日曜.

ユナイテッド航空 UA824便(サイパン → 成田).

出発:07:20(サイパン国際空港).

到着:09:55(成田国際空港).

所要時間:約3時間35分.

運航日:月曜・水曜・金曜.

ボーイング737-800型機で運航.
【編集:YOMOTA】
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