2025年8月、中国文化と観光部国際交流局の主催で「アジア旅游商大会2025」および「ニーハオ! 中国アジア旅游商大会FAMツアー2025」が開催された。視察ツアー3日目、4日目で圧倒されたのが、中国西部・甘粛省の敦煌。
北京大興空港から敦煌空港までは、飛行機でおよそ3時間半。ゴビ砂漠の広がるオアシス都市・敦煌は、古代シルクロードの重要な中継地として栄えた街である。

その他の写真:莫高窟は南北約1,600メートルにわたる断崖に並ぶ石窟

 敦煌は甘粛省の北西部に位置し、砂漠とオアシスに囲まれた都市だ。かつて東西貿易の拠点として栄え、宗教や文化が交差する場所としても知られている。小説家・井上靖は、その美しさを「砂漠の大画廊」と称え、後に日本と中国の合作映画「敦煌」の原作となる小説を執筆。この映画は日本アカデミー賞を複数受賞し、日本における敦煌ブームのきっかけとなった。世界中から観光客を惹きつける文化と自然の宝庫ともいえる今日の敦煌。その象徴ともいえるのが、世界遺産「敦煌莫高窟」だ。

 敦煌市の南東に位置する莫高窟は、4世紀から14世紀にかけて造営された仏教石窟群。まさに「仏教美術の宝庫」であり、東西文化の融合を示す歴史的遺産だ。1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されて以来、「シルクロードの宝石」と呼ばれている。この莫高窟で目にするのは、歴史を物語る壁画たち。
仏教説話、菩薩像、飛天(アプサラス)など、多彩なモチーフが壁一面を彩り、古代人の信仰と美意識を今に伝えている。唐代の壁画は特に美しく、豊かな色彩と繊細な筆致で観る者を圧倒する。さらに、シルクロードを通じてもたらされたペルシャや中央アジアの文化的要素も随所に見られ、交易都市としての歴史を感じさせる。中でも注目すべきは、第96窟にある「九層楼(きゅうそうろう)」。中国国内でも屈指の大きさを誇るこの仏像は、莫高窟の象徴として世界中から訪れる人々を魅了している。なお、石窟内の撮影は禁止されており、入場には人数制限があるため、事前の予約が推奨される。夏休みや国慶節など繁忙期には特に注意が必要だ。

 日が暮れると、敦煌の街にもう一つの魅力が姿を現す。それが「沙洲夜市」だ。敦煌夜市とも呼ばれるこの場所は、陽関東路に位置し、シルクロードの食文化と民俗風情が集まる活気あふれるスポットである。さらに、夜市では工芸品や、地元名産のドライフルーツといった旅の土産も手に入る。買い物や食べ歩きを楽しみながらの散策は、深夜0時を過ぎても賑わいが絶えないのだとか。
夜の砂漠の街に広がる明かりと喧騒は、敦煌のもう一つの顔を映し出していた。

 敦煌の新たな文化体験として注目されているのが、イマーシブシアター「楽動敦煌」。2023年にオープンしたこの施設は、前半に洞窟型の没入体験ゾーンを巡り、後半にホログラムや3Dワイヤーアクションを駆使したショーを鑑賞するという二部構成になっている。ストーリーは、西域の少年が芸術を追求する過程を描き、観客を千年の歴史へと誘う。ショーを観終えた後には、まるで時空を超えてシルクロードを旅したような感覚が残るだろう。

 敦煌を語るうえで欠かせないのが「鳴沙山」と「月牙泉」である。夕暮れ時、黄金色に染まる砂丘の絶景は、まさに自然が描く絵画だ。その麓に、神秘的な泉「月牙泉」がある。三日月の形をしたこの泉は、2000年以上もの間、涸れることなく湧き続けてきたという。砂漠の中にぽっかりと現れる水面と、周囲の砂丘とのコントラストは必見。移動も、電動カートまたはラクダに乗って砂丘を進むことができるため、幅広い世代が観光を楽しむ様子が見られた。

 世界遺産の莫高窟に象徴される仏教美術の宝庫であり、シルクロードの歴史を体感できる敦煌。
そして、夜市の賑わい、最新の文化体験「楽動敦煌」、さらには砂漠とオアシスの絶景が、訪れる人々の五感を刺激する。砂漠に沈む夕日を眺め、夜市で地元の味を楽しみ、莫高窟の壁画に歴史を垣間見る。時空を超える世界遺産は、今後ますます注目を集めそうだ。
【撮影/取材:小川いずみ】
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