【その他の写真:莫高窟は南北約1,600メートルにわたる断崖に並ぶ石窟】
敦煌は甘粛省の北西部に位置し、砂漠とオアシスに囲まれた都市だ。かつて東西貿易の拠点として栄え、宗教や文化が交差する場所としても知られている。小説家・井上靖は、その美しさを「砂漠の大画廊」と称え、後に日本と中国の合作映画「敦煌」の原作となる小説を執筆。この映画は日本アカデミー賞を複数受賞し、日本における敦煌ブームのきっかけとなった。世界中から観光客を惹きつける文化と自然の宝庫ともいえる今日の敦煌。その象徴ともいえるのが、世界遺産「敦煌莫高窟」だ。
敦煌市の南東に位置する莫高窟は、4世紀から14世紀にかけて造営された仏教石窟群。まさに「仏教美術の宝庫」であり、東西文化の融合を示す歴史的遺産だ。1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されて以来、「シルクロードの宝石」と呼ばれている。この莫高窟で目にするのは、歴史を物語る壁画たち。
日が暮れると、敦煌の街にもう一つの魅力が姿を現す。それが「沙洲夜市」だ。敦煌夜市とも呼ばれるこの場所は、陽関東路に位置し、シルクロードの食文化と民俗風情が集まる活気あふれるスポットである。さらに、夜市では工芸品や、地元名産のドライフルーツといった旅の土産も手に入る。買い物や食べ歩きを楽しみながらの散策は、深夜0時を過ぎても賑わいが絶えないのだとか。
敦煌の新たな文化体験として注目されているのが、イマーシブシアター「楽動敦煌」。2023年にオープンしたこの施設は、前半に洞窟型の没入体験ゾーンを巡り、後半にホログラムや3Dワイヤーアクションを駆使したショーを鑑賞するという二部構成になっている。ストーリーは、西域の少年が芸術を追求する過程を描き、観客を千年の歴史へと誘う。ショーを観終えた後には、まるで時空を超えてシルクロードを旅したような感覚が残るだろう。
敦煌を語るうえで欠かせないのが「鳴沙山」と「月牙泉」である。夕暮れ時、黄金色に染まる砂丘の絶景は、まさに自然が描く絵画だ。その麓に、神秘的な泉「月牙泉」がある。三日月の形をしたこの泉は、2000年以上もの間、涸れることなく湧き続けてきたという。砂漠の中にぽっかりと現れる水面と、周囲の砂丘とのコントラストは必見。移動も、電動カートまたはラクダに乗って砂丘を進むことができるため、幅広い世代が観光を楽しむ様子が見られた。
世界遺産の莫高窟に象徴される仏教美術の宝庫であり、シルクロードの歴史を体感できる敦煌。
【撮影/取材:小川いずみ】