フリーライター&フォトグラファーの白石あづさ氏の新刊『逃げ続けたら世界一周していました』(岩波ジュニア新書)が9月20日に発刊された。

その他の写真:キューバの祭り(C)Azusa Shiraishi

 奇想天外な国内外の旅の出来事を通して「人生の避難訓練」としての旅をすすめるメッセージが詰まったユーモアあふれるエッセイだ。
幼いころから生きづらさを抱え、世界100か国以上を旅した著者に、逃げることの大切さや旅の楽しさを聞いた。

――印象的なタイトルですが、どうして世界一周するほど逃げ続けることになったのですか?

子供のころから要領と運動神経と物覚えが悪いことを自覚していました。皆と同じことができず、できるだけ怒られないように、目立たないようにと背中を丸めていたので中年になった今でも猫背のままです。

お金を自分で稼げない子供時代は本を読んでストレスを解消していました。しかしアルバイトができる歳になると、国内からアジア、そしてその先へと逃げ先が広がっていきました。ある日、突然、いきなり世界一周をしたわけではなく、成長にともない逃げる範囲が広がっていったんです。

――なぜ逃げるのですか?

何かにつまずいた時、どうにかして解決をしようとしますよね。しかし、時にはどうにもならないこともあります。そこでいったんその場を離れてどこかに逃げると、旅先では壮大な景色や全く違う価値観に出会うことがあります。

壮大な景色の前では「あんなに袋小路だったのに、私の悩みはたいしたことがなかった」と思えるし、全く違う価値観や習慣の前では「こんなやり方もあるんだ」と気づくことも多いのです。

――逃げることでかえって救われることがあるんですね

そうですね。子供から大人になるにつれ、世界はぐっと広がっていきます。
多くの経験ができるものの、その分、トラブルやストレスも多くなります。同世代の仲間たちは新しい世界にうまく対応できるのに、私はできませんでした。それで時々、消化不良を起こすと、バイト先から帰るなり、着替えと財布をリュックにつめて夜に家を飛び出しました。

――夜に出発するんですか?

ええ。四半世紀前はJRの「青春18きっぷ」も5枚つづりで利用しやすく、東京から関西方面に向かう夜行大垣行きや登山客専用の臨時夜行列車などが今よりも走っていました。夜行バスや夜行列車で眠っていれば、朝、目が覚めると東京とは違う景色が広がっています。そして一瞬だけ悩みが吹っ飛びます。

この「一瞬だけでも」というのが案外、私の心の健康には良くて、その後、悩みながらも山や街をぐるぐる歩きまわっているうちに少しはマシになってきます。解決まで至らなくても、歩き回って疲れるからその日は余計なことを考えずに、よく眠れるという利点もあります。

宿代を浮かせたかったというのもあるのですが、いつも逃げるのは夜だったので、「なんだか夜逃げみたいな旅だな」と思い、心の中で「夜逃げ旅」と名付けました。それからいつでも逃げられるように「夜逃げリュック」を玄関に置いて、ささやかながら「夜逃げ貯金」を始めると、海外へも出かけるようになりました。

――夜逃げリュックに夜逃げ貯金! (笑) 楽しいことばかりだけでなく、たいへんな目にも遭われていますね。


国内はともかく海外では言葉が読めないし話せないので、困ることは多かったですね。当時はスマホもないですし。道に迷ったり、ダチョウに追いかけられたり、時には無実の罪で刑務所にぶち込まれたりはしましたが……ただ、今になって旅先での出来事を振り返ると、そんなに大変だったとは思えないのです。それは仕事ではないからです。世界を旅することよりも、日本で毎日、働いてお金を稼ぐことのほうが私には難易度が高く、今でも右往左往しっぱなしです。(続)
【編集:fs】
編集部おすすめ