【その他の写真:SNSから】
今回問題となったのは10月4日の関空発ハノイ行きVietJet Air 939便だ。
従来のフルサービス航空会社が、トラブル時に比較的容易に予備機材の投入や他社便への振替といった代替策を講じられるのに対し、LCCはコスト削減の徹底により、こうしたトラブル対応のための「余力」が少ないのが実情だ。
このトラブルにおいて、関空の搭乗カウンターで多数の乗客がグランドスタッフに怒号を浴びせかける様子を捉えた動画がSNSで急速に拡散され、議論を呼んでいる。
動画によると、乗客からは「ビデオ通話で本社につなげ」「今すぐ空港で返金しろ」といった即座の解決を求める声が上がった。これに対し、最前線で対応にあたっていた女性グランドスタッフ(ベトジェットエアから、業務委託を受け空港でのハンドリングを担当している会社のスタッフ)は、「ベトジェットの人間(社員)は日本にはいません」「申し訳ありません。いたしかねます」と、本社との連携や対応権限の限界を訴えざるを得ない状況が記録されている。
この「社員の不在」という事実は、企業側の危機管理体制に重大な課題があることを示唆するものだが、LCCで就航地の空港に社員を配置していることは稀なのが実情だ。大規模な運航トラブル発生時に、迅速な情報提供や実効性ある意思決定を現場スタッフに委ねきり、企業としての責任ある説明を欠いたことは、乗客の不満を増幅させた主要因だ。
利用者の不満が爆発し、怒りの矛先が航空会社の決定権を持たない現場の業務委託先従業員に向けられた今回の事態は、近年社会問題化しているカスタマーハラスメント(カスハラ)の一端を鮮明に浮き彫りにした。
航空会社側の対応に構造的な問題があったとしても、最前線で対応にあたるスタッフに対し、理不尽な要求や暴言を浴びせかける行為は、従業員の尊厳を傷つけ、労働環境を著しく悪化させる。
2025年6月施行の改正法で企業に対策が義務付けられるカスハラに対し、企業は、リモートでの本社社員による説明参加や、現場スタッフの権限の明確化と権限を超える要求への対応マニュアル整備など、従業員を守るための実効性ある体制構築が喫緊の課題となっている。
今回のトラブルは、低コストを追求するLCCの光の裏側にある「影」の部分、すなわちトラブル時の対応の脆さと、そのしわ寄せが現場スタッフへ集中するという、現代のサービス業が直面する構造的な問題を改めて社会に問いかけるものとなった。
【編集:saegusa】