この「職人による現地製作」は、日本国内で一般化している宅配便業者のスタッフが代行する「組み立てサービス」とは一線を画す。フィリピンでの組み立ては、電動工具と専門知識を持つプロの家具職人が現場で行うことを前提としており、購入者自身での組み立ては実質的に不可能な構造となっている。
【その他の写真:Mandaue Foam - Quimpo Branchで購入、2025年10月】
これは、物流インフラの抱える課題と、現地の労働力市場の特性が融合した、フィリピン独自の経済合理性が生んだソリューションと言える。
この現象の背景には、フィリピン特有の厳しい物流事情がある。フィリピンは7,000を超える島々からなる多島国家であり、家具が製造拠点から地方の島々へ届くには、船便やフェリーを介した複雑で高コストな域内輸送が必須となる。完成品家具は、体積の大きさから輸送コストが急騰するが、フラットパック化された組み立て家具であれば積載効率が飛躍的に高まり、コストを大幅に抑制できる。
さらに深刻なのが、物流における荷扱いの荒さと、それに伴う輸送時の損傷リスクの高さだ。フィリピン国内の道路状況や、島間の輸送における頻繁な荷役作業を考慮すると、完成品家具は角の欠けや表面の傷のリスクが高い。メーカー側は、顧客からのクレームや返品を避けるため、損傷リスクを最小限に抑える必要がある。箱詰めのフラットパックは、外箱が緩衝材の役割を果たすものの、それでも一定数の破損は避けられないのが現実だ。
洋服ダンスの鏡付き部材が輸送中に大きく割れていることもある。プロの職人による設置作業をもってしても、製品の一部が使用できず、後日対応となるなど、物流トラブルの多さが浮き彫りとなった。
セルフアセンブリー家具を「職人が組み立てる」という行為は、フィリピンの労働力市場の特性にも深く根ざしている。人件費が比較的安価なため、購入者は家具の「低価格」というメリットを享受しつつ、手間のかかる「組み立て」作業は外部のプロに任せることに抵抗がない。
電動ドリルなどの専門工具が必要となる構造も相まって、消費者は自分で組み立てて失敗するリスクや手間を避け、料金を支払ってでも確実かつ迅速に完成させてくれる職人を選ぶ。これは、先進国で一般的な「DIY(Do It Yourself)」から、「DIFM(Do It For Me:誰かにやってもらう)」へのシフトと見ることができる。
グローバルメーカーのコスト効率重視の設計と、フィリピンの物流の課題、そして安価な労働力という資源が融合したこの「職人による組み立て」システムは、フィリピンの経済環境に最適化された現地特化型サプライチェーンの姿であり、物流インフラの抜本的な改善がない限り、今後も同国の家具市場における標準的な形態として維持される可能性が高い。
【編集:Eula】








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