フィリピン第3の都市ダバオ市。郊外のトリル地区の大型商業施設Gモールの家電売場では、主力商品として「炊飯器」が異例の存在感を放っている。


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 販売フロアの中央には、国内・海外ブランドの製品が箱ごと高く積み上げられており、その陳列の規模は他家電を圧倒する。

 これは、「米を愛する」フィリピン人の食生活、特にレストランなどで見られるご飯の無制限お代わりサービス(「イナサル」など)に代表される旺盛な米消費を、家電市場の構造が如実に反映しているためだ。

 コメはフィリピン国民の主食だが、国内生産だけでは需要を賄えず、ベトナムやタイ王国からの輸入に依存している部分がある。政府は米の安定供給を国家的な課題と位置づける中、炊飯器は各家庭にとって不可欠な生活基盤商品だ。

 売り場では、各メーカーが激しい競争を展開している。市場で主力を担うのは、フィリピン国内で知名度の高いブランドだ。「Dowell(ダウエル)」はマイコン式を中心とした主力モデルを展開し、陳列トップに示された価格(例:₱2,025.00)から、価格競争力のある普及価格帯を担い、国内市場で優位性を確保している。同様に「Eureka(ユーレカ)」は、ガラス蓋のベーシック機など、シンプルながら長期の保温機能に特化した高い実用性を重視する消費者ニーズに対応している。

 一方、製品の多角化も進む。「Camel(キャメル)」は蒸し器(スチーマー)機能を付加した多機能モデルを展開し、付加価値を求める購買層への訴求を強化。「Asahi(アサヒ)」はブロンズカラーなどデザイン性の高いモデルも見せ、中級層を意識したデザイン性・品質競争の兆しが見える。売り場には、フランス「Tefal(ティファール)」も並び、グローバルブランドとローカルブランドの競争構造が確認される。


 ダバオの家電市場は、機能性と価格帯において二極化の傾向を見せている。ボリュームゾーンは安価でシンプルなモデルだが、蒸し料理などにも使える多機能モデル、あるいはデザイン性を高めた中価格帯モデルも台頭し、消費者の選択肢は広がりつつある。

 これは、フィリピン経済の成長に伴う中間層の購買力向上と、単なる炊飯から一歩進んだキッチン家電への需要の高まりを示唆している。ダバオの家電市場は、フィリピン人の堅固な米食文化と、その経済発展が織りなす構造を映し出していると言える。
【編集:Eula Casinillo】
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