(2025年11月14日現在) フィリピン・セブ島を直撃した「史上最悪級」とされた台風25号(2025年11月3日~4日)の猛威から10日余りが経過した。前回レポートしたリロアン在住の吉田正昭氏の自宅では、電気、水道、インターネットといったライフラインが比較的早期に復旧したものの、被災地の視察と復旧作業を通じて、フィリピンのインフラの脆弱性と、災害後の生活が抱える新たな課題が浮き彫りになった。


その他の写真:SMコンソラシオン 台風直後

 備えの「盲点」と初動の対応

 吉田氏は、床上10センチの泥水浸水、停電、断水、ネット途絶という複合的な被害を経験したが、今回の最大の反省点として「懐中電灯を用意しなかったこと」を挙げた。「携帯電話のフラッシュライトで十分だろうと楽観視していたが、光も弱く、停電で充電もできなくなった。暗闇の中での行動を大きく制限された」(吉田氏)

 この「盲点」は、デジタルデバイスへの過度な依存が、非常時の備えをかえって甘くするという、現代的な教訓を示している。

復旧の「二極化」と地域社会の力

 台風通過後、吉田氏は自宅周辺の様子を見に行った。同じリロアン内でも、川沿いや山間部の集落では、多くの家が崩壊し、死者・行方不明者が出ているという悲惨な状況が確認された。

 一方で、近隣の商店や建物は、浸水被害こそあれ、建物の倒壊といった大きな被害を受けていない場所も多かった。特筆すべきは、ライフラインが止まっている中でも、夕方になると食堂や食料品店がロウソクの明かりで営業を再開していた点だ。これは、被災下においても生活維持のための自助努力と、地域社会の結束力が極めて高いことを示している。

 大規模店舗の壊滅と経済活動への影響

 友人とともに隣接するコンソラシオン町の大規模店舗(SM)を車で見に行った際、吉田氏は甚大な被害を目の当たりにした。

* SMモール:横を流れる川が氾濫し、モール1階がすべて水浸しとなり、ガラスがほとんど割れる壊滅的な状況。FB(Facebook)の情報によると、前の国道も一時的に濁流と化し、車が流される事態となっていたという。

* 沿道の店舗:オートバイ店では、新車のオートバイが泥水を被り、すべて「中古バイク」状態になるなど、壊滅的な打撃を受けていた。


 近隣の大型店も同様の状況であり、経済活動の再開には相当の時間を要する見通しだ。別の友人の自宅も腰の高さまで浸水し、異臭を避けるため家族全員が経営するバーベキュー店で3日間寝泊まりするなど、生活への影響は長期化している。

 ライフライン復旧の格差と交通網の麻痺

 吉田氏の自宅は2日後には電気、水道が復旧したが、国道から離れた地域では復旧が遅れており、地域間のインフラ格差が明確になった。

 また、ミンダナオ島在住の友人から、セブのご両親の安否確認を依頼され、現地を見にいった際も、やはり電気やインターネットが未復旧の状態であった。

 さらに予想外の事態として、国道の深刻な渋滞が発生した。

「道路沿いに随所で瓦礫やゴミが山積みされ、それをトラックに積むためのブルドーザーが車線を塞いでいる。これが各所で大渋滞を引き起こしている」(吉田氏)

 これは、災害後の復旧作業自体が新たな交通障害を生み出し、物流や生活移動に大きな負担をかけている現実を示している。

 今回の台風25号の実録レポートは、「中規模」情報への油断が命取りとなる教訓に加え、被災後の生活が、物資の不足だけでなく、情報途絶、復旧格差、そして交通麻痺という多岐にわたる課題に直面することを浮き彫りにした。

【編集:EULA】
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