その店はきっとカジュアルなところだったのだろう。どのくらいカジュアルかと言えば、バブル時代の美容室ではじめましてなのに「彼女、休み?」と聞く男性美容師みたいなタメグチ感が合っているだろうか。


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 韓国で「ありがとうございます」感謝の意を伝える場合、二つの言葉がある。天童よしみさんの「珍島物語」で有名な『カムサハムニダ』とカジュアルな『コマプスムニダ』。
一般的には、前者が使われることが多い。

 「カムサハムニダ」は改まった感じでフォーマル、深い感謝の意味を持つ。
「コマプスムニダ」はカジュアルで、やわらかい。
ありがとうございましたと、どうもね~くらい違うのだろうか。

 そのカジュアルな店で、女性客は買い物をした。店主は「コマプスムニダ」と送り出した。ところが、その「どうもね~」が地雷を踏んでしまったようだ。女性客は踵を返して見せに戻た。「なんて礼儀知らずなの! 私はあなたの友達でも目下の物でもないのに、そんな感謝の仕方ってある?」とぷりぷり怒り出した。「これが、はじめてじゃないわ。
前に買い物した時も同じ、どうしてカムサハムニダが言えないの? バカなの?」。
彼女は47歳で(買い物するのに年齢を公表する必要がある韓国には行きたくない)、店主はもっと下に見える。だから「バカなの?」捨て台詞なのだそう。

 店主はのちにぼやいた。「お客さんのほうが、バカじゃないですかね」と。店を開くのも日々ためらうほどの苦しみだと言う。他のお客さんから指摘されたことはない。

 ネットにはいろんな方がいる。国際国語院で調べてくれたりもする。年上の顧客に「コマプスムニダ」は失礼ではなく、失礼ではなく、むしろ適切で礼儀正しいということだ。

 「コマプスムニダ」の方が好きだと書きこむ人もいた。典型的な高齢者の価値観と罵倒する人もいた。


 言葉というものは難しい。「どうもね~」が当たり前の店には、当たり前の客がつく。それがいやで完璧な「ありがとうございました」を求めるならば、最上級のデパートにでも行かれたらどうだろうか。
【編集:fa】
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