国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、目標5「ジェンダー平等」と目標8「働きがいも経済成長も」は、世界共通の重要課題として、その実現に向けた模索が続いている。学歴や家庭環境に左右されず、誰もが自分の力で収入を得て、真の自立を果たす社会をどう築くのか。
この根源的な問いに対し、「セラピスト」という専門職を通じて真正面から挑む一人の女性起業家がいる。13年間、業界の最前線で技術と実績を積み重ねてきた現役トップセラピスト、水川優海氏だ。彼女が2025年、東京・新宿で開講するのが、未経験者を「指名されるセラピスト」へと育成する実践特化型スクール「ルシルアカデミー」である。「女性が、自分の力で生きていける社会へ」を理念に掲げ、経済的・精神的自立を現実のものとする、新たな教育モデルが静かに胎動を始めている。

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 水川氏がセラピストの道を志した原点は、18歳の時に訪れた。大学受験の帰り道、「大学以外の道で、後悔しない人生を歩みたい」という強い思いが込み上げ、大学進学以外の道を本気で模索し始めたという。そこで改めて自身を振り返り、高校時代から足つぼマッサージに強い憧れを抱いていたこと、努力に応じて収入を伸ばせる実力主義の世界である点に魅力を感じ、「リラクゼーションセラピストとして20代でサロンを開こう」と明確な目標を定めた。高校卒業後、一度サロンに就職したものの、遠方での有料研修を重ねるという条件に直面し、起業資金を貯めることが難しいと判断して数週間で退職。その後は、フリーターとして昼夜働き続け、生活資金に加え、将来の起業資金までを2年間で貯めることに徹したという。

 十分な資金を確保した後、改めて未経験歓迎のリラクゼーションサロンに就職。そこから約4年間、現場で技術と接客を徹底的に磨き上げ、セラピストとして独り立ちを果たした。その後は全国店舗を巡回する技術研修講師として育成に携わり、さらに店舗責任者(店長)として、売上管理や人材マネジメントも経験した。
「現場、教育、経営。そのすべてを経験したからこそ、机上の空論ではない、『現場で本当に求められるセラピスト像』が見えるようになりました」。このリアルな経験知こそが、ルシルアカデミーのカリキュラム設計の土台となっている。

 このアカデミー開講の背景には、水川氏が長年抱いてきた既存のセラピスト養成スクールに対する強い問題意識がある。自身もこれまで、総額100万円以上を自己投資して学んできたが、「高いお金を払っても、『学んで終わり』のケースが非常に多い。その後、実際に仕事として続けられる人はごく一部でした」という現実に直面してきた。この課題意識から、ルシルアカデミーでは「学んだあとまで責任を持つ仕組み」を制度として組み込んだ。その象徴が、「卒業後、直営サロンで1年間勤務した場合、スクール受講料を全額返金する制度」である。これは単なる集客策ではない。「本気で育てる」「本気で雇う」「本気で続けてもらう」という、スクール側の強固な覚悟を形にした制度だ。水川氏は、「受講生もスクール側も、『続く前提』で関わるべきだと思っています。1年間しっかり現場に立てば、技術も自信も収入も必ず身につく。
その努力には、私たちが責任を持つべきだと考えました」と、教育と雇用への強い責任感を強調する。

 ルシルアカデミーの特徴は、オンライン動画による座学と、対面での実技指導を組み合わせたハイブリッド型カリキュラムにある。座学で知識を効率よく学び、対面では水川氏自身や経験豊富な講師陣が、フォーム、重心、圧のかけ方といった現場で不可欠な細部に至るまで直接指導する。学べる技術は多岐にわたるが、中でも注目されるのが体重圧を使った深層筋アプローチだ。「手の力に頼らないため、女性でも無理なく、しかも『しっかり効く施術』ができます」。この独自技術こそが、現場で高い指名率を生む最大の武器となるという。最短10時間で現場デビューを可能にする、即戦力化に特化した設計だ。卒業後の進路も、直営サロンへの就職、業務委託、自宅開業、将来的な独立など、ライフスタイルに応じた多様な選択肢を提示する。特に直営サロンは、集客、教育、フォローアップ体制が整っており、未経験者が「施術に集中できる環境」を提供している。

 「学ぶ、働く、続ける、自立する」というプロセスを、受講料全額返金制度という具体的な「仕組み」として一貫させた点で、ルシルアカデミーのモデルは既存のスクールビジネスとは一線を画す。女性が手に職をつけ、自らの人生を経済的に選べる社会という理念を、言葉だけでなく、具体的な雇用と経営設計で実現しようとする水川氏の取り組みは、ジェンダー平等を掲げる国際的な潮流の中でも、実践型の自立支援モデルとして、今後一層注目を集めることになりそうだ。
【編集:Y.U】
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