押し寄せるインバウンド需要と、それに伴う宿泊費の高騰が止まらない。都市部や有名観光地の外資系ホテルを中心に、需給バランスを口実とした「ダイナミック・プライシング」が加速している。
かつての適正価格を大幅に上回る現状に、長年日本の観光を支えてきた日本人客の「宿離れ」を懸念する声は少なくない。中国人観光客が大幅に減り、いきなり宿泊費が直近の半額以下になった京都のホテルもあった。

その他の写真:イメージ(2025年12月撮影)

 そんな中、伊東園ホテルズが運営する「大仁ホテル」に身を置くと、忘れてはならない日本の宿の「良心」を再確認させられる。ここには、流行に左右されない、日本人客を主眼に置いた確かな安らぎがある。

 客室に一歩足を踏み入れれば、そこには過度な装飾を排した、質素ながらも清潔な空間が広がる。窓外に広がるのは、夏にはプールとして賑わい、冬には静かな池となる庭園と、伊豆の山々が織りなす四季の表情だ。設備には歴史を感じさせる部分もあるが、それがかえって、背伸びをせずに過ごせる安心感を生んでいる。

 圧巻は、地元の食を大切にしたバイキング形式の食事だ。木製の蒸し器で供される「茶碗蒸し」、小鉢に美しく盛られた「海鮮丼」、そして静岡の地酒が並ぶ飲み放題。これら贅を尽くしたサービスが、極めて手頃な固定価格で提供されている事実は、驚きを通り越して信頼に近い感情を抱かせる。

 多くのホテルが外国人比率を高め、収益の最大化を狙う中で、同ホテルは一貫して日本人客が「日常の延長」として楽しめる価格帯を維持している。需給の波に乗って価格を吊り上げるのは容易だが、一度失った地元の信頼を取り戻すのは容易ではない。


 高騰する宿泊市場において、大仁ホテルが見せるような「地道な商売」は、一見すると不器用に見えるかもしれない。しかし、時代の狂騒に流されず、顧客との「暗黙の契約」を守り続ける姿勢こそが、真のブランドを築く。日本人が安心して帰れる場所を守り抜くこと。その誠実さこそが、これからの日本の観光業に最も求められる資質ではないだろうか。
【編集:fa】
編集部おすすめ