航空機の離陸前、機内のモニターで流れる「安全に関する説明ビデオ」。シートベルトの着用や緊急時の脱出方法を説くこの動画は、多くの乗客にとって「退屈なマニュアル」という印象が拭えない。
しかし今、フィリピンのナショナルフラッグ・キャリアであるフィリピン航空(PAL)が公開した最新の安全ビデオが、その常識を根底から覆す「芸術作品」として大きな注目を集めている。

その他の写真:フィリピン航空機(マニラ)2026年1月4日

 インターネット上で話題となっているのは、同社が制作した約五分間の動画だ。物語は、フィリピン伝統の豪華な邸宅「ハシエンダ・ロザリア」を舞台に幕を開ける。そこには、格式高い名家に育った令嬢と、身分違いの恋に悩む青年、そして強引に縁談を進める母親という、フィリピンの王道メロドラマさながらの世界観が広がっている。

 特筆すべきは、ドラマの展開と機内安全の説明が、見事な「ダブルミーニング(二重の意味)」として融合している点だ。例えば、母が娘の交際を遮るためにスマートフォンを奪い取るシーンでは、客室乗務員(CA)が傍らに現れ、離着陸時の電子機器の使用制限を厳格に説く。また、結婚式を前に衝撃を受ける場面では、酸素マスクが降りてくる説明と重ね合わせ、「酸素を吸って落ち着いて」と促す。

 クライマックスでは、令嬢が家柄や財産を捨てて愛する人のもとへ駆け出す。この「家からの脱出」が、緊急時の脱出指示と連動する。ハイヒールを脱ぎ捨て、鋭利な装飾品を外し、手荷物を持たずに走り出すその姿は、航空保安上の正しい脱出手順そのものだ。さらに、叶わぬ恋に涙するライバルの雫がライフベストのライトに反射する演出など、細部に至るまで徹底したこだわりが貫かれている。

 ゲームクリエーター出身のアキラ先輩は自身のYouTube動画で、この試みを「画期的かつ芸術的」と絶賛。
「真面目に見る機会が少ないマニュアルを、最後まで目も離さずに見せるホスピタリティと才能に嫉妬する」と分析する。また、厳格さが求められる安全説明に、ここまでのジョークとドラマ性を許容した同社の決断力についても、フィリピンの土量の大きさを象徴するものだと評価している。
【編集:af】
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