フィリピン南部ミンダナオ島の中心都市、ダバオ。赤道に近いこの街の熱気をさらに濃密にしたような場所が、郊外のトリル地区にある公設市場だ。
早朝から「パレンケ(市場)」を埋め尽くす市民の熱気と、山積みにされた熱帯の恵みが放つ甘い香りに、旅人の鼻腔がくすぐられる。

その他の写真:2026年1月14日撮影

 色とりどりの果実が並ぶなか、ひときわ高貴な輝きを放っているのが「果物の女王」と称されるマンゴスチンだ。日本では一個数百円もする高級品だが、ここでは今、まさに「旬」を謳歌している。「1キロで100ペソだよ」。売り子の威勢の良い声に誘われ、量り売りの籠に目をやる。昨今の円安の影響もあり、日本円に換算すれば約280円ほどになるが、それでも産地ならではのこの価格は、市民にとっても、そして我々旅行者にとっても、日常の中で味わえる至福の贅沢に変わりはない。ずっしりと重みのある、深い紫色の果実が次々と籠に放り込まれていく光景は圧巻だ。

 厚く、弾力のある皮を両手で包むようにして力を込めると、「パカッ」という小気味よい音とともに、雪のように真っ白な果肉が顔を出す。まるで丁寧に並べられた真珠のようなその房を口に運べば、刹那、上品な甘みと、それを引き立てる繊細な酸味が口いっぱいに広がる。とろけるような食感とともに、南国の太陽を凝縮したような果汁が喉を潤す。この瑞々しさこそ、輸送に時間がかかる日本国内ではなかなか味わえない、産地直送の醍醐味である。

 ダバオは「フィリピンのフルーツバスケット(果物籠)」とも呼ばれる。
台風の通り道から外れているため、一年を通じて農業に適した気候に恵まれているのだ。市場にはマンゴスチンのほかにも、強烈な香りで知られる「果物の王様」ドリアンや、黄金色のマンゴーが所狭しと並び、王国の誇りを感じさせる。トリル市場の雑踏の中で、買ったばかりのマンゴスチンを頬張り、甘酸っぱい果実の余韻に浸りながら人々の屈託のない笑顔に触れるとき、この街の豊かさの本質を見た気がした。熱帯の風に吹かれ、女王の輝きに魅了される――。ダバオの旅は、一口の果実から、また新しい景色を見せてくれる。
【編集:Eula】
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