ASEAN諸国の一角、フィリピンで進む行政サービスのデジタル化が、日本の先を行く様相を見せている。同国の陸運局(LTO)が推進する「陸運管理システム(LTMS)」は、運転免許証の完全デジタル化を実現し、スマートフォン一つで道路交通に関するあらゆる手続きを完結させる画期的な仕組みを構築している。
このシステムの礎となるLTMSの運用が始まったのは、皮肉にもコロナ禍で対面手続きが制限された2020年5月のことだ。当初は限定的な運用だったが、その後急速に機能が拡充され、2023年7月からは画像にあるような「デジタル免許証」の本格的なサービスが開始された。

その他の写真:フィリピンの陸運局が推進する「デジタル免許証」が日本の先を行っている。2023年に本格始動したこの仕組みは、物理カード不足を背景に急速に普及。スマホ一つで提示から違反歴管理、10年更新の手続きまで完結する。途上国が先進国を追い抜く「カエル跳び」の好例だ。

 特筆すべきは、単にカードを画像化しただけではない、その実用性の高さだ。利用者が専用ポータルにログインすると、そこには「デジタルID」として法的な効力を持つ免許証が表示される。券面には氏名や顔写真だけでなく、運転可能な車両区分や視力矯正の有無といった制限事項が詳細に記載されている。さらに、認証用の二次元コード(QRコード)が備わり、警察官などの当局者がスキャンすることで、その真贋や有効性を瞬時に照合できる仕組みだ。フィリピンでは長年、プラスチック製カードの供給不足により、紙の仮免許証を数ヶ月持ち歩かなければならない混乱が続いてきた。しかし、その物理的な制約が逆にデジタル化への強力な推進力となり、導入からわずか数年で国民がスマホ一つで身分を証明できる環境を整えた。


 このシステムの利便性は、免許証の表示に留まらない。ポータル上では、所有車両の登録状況や過去の交通違反歴、さらには反則金の支払いまでが一元管理されている。日本では依然として紙の書類や窓口での手続きが主流だが、フィリピンでは更新時の適性検査や講習の予約、学習教材の閲覧までがオンラインで完結する。特筆すべきは有効期限で、交通違反のない優良ドライバーには、日本の5年を上回る「10年間」の有効期限が与えられる。画像にある免許証も2030年までの長期有効期間が設定されており、更新頻度を下げることで行政コストの削減と市民の負担軽減を同時に達成している。

 日本でもマイナンバーカードと免許証の一体化が進められているが、既存の仕組みとの整合性や、物理的なカードへの執着が障壁となり、足踏みを続けている感は否めない。先進国を自認する日本が、開発途上国と目されてきた国々の「デジタル・リープフロッグ(カエル跳び)」、すなわち既存の不便なインフラを飛び越えて最新技術を社会実装する勢いに、学ぶべき点は多い。行政の効率化とは、単に技術を導入することではなく、市民がいかにストレスなく公的な証明を享受できるかにある。南国の島々で急速に普及したこのデジタルIDは、日本の行政DXの在り方に、強い警鐘を鳴らしている。
【編集:af】
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