フィリピン南部の経済中心地、ミンダナオ島ダバオが、世界のコーヒー愛好家から「最後の聖地」として熱い視線を浴びている。かつて日本人移民が麻の栽培で街の礎を築いたこの地は今、標高2954メートルを誇るフィリピン最高峰・アポ山の麓で、世界的に希少な高品質豆を産出する一大拠点へと変貌を遂げた。


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 現地の大型ショッピングセンター「ガイサノ・マーケット」の棚には、クラフト紙の素朴な袋が整然と並ぶ。特筆すべきは、そこに記された「エクセルサ(EXCELSA)」の文字だ。世界のコーヒー生産量のわずか7%程度とされるこの品種は、酸味とコク、そして熟した果実のような香りが複雑に絡み合う「官能的な味わい」が特徴で、日本ではまずお目にかかれない「幻の第4の豆」と称される。

 500グラム入りで、価格は「純エクセルサ」が396ペソ(日本円で約1070円)、最高級の「アラビカ・エクセルサ・ブレンド」でも401.50ペソ(同約1080円)と、その品質に対して驚くほど良心的だ。昨今の世界的な豆価格高騰(コーヒー・ショック)を鑑みれば、まさに驚異的なコストパフォーマンスといえる。

 現地の飲み方は、極めて豪快だ。パッケージ裏面には「粉を直接ポットに入れ、沸騰した湯を注いで5分待つ」という、豆の脂分と香りを余すところなく抽出する「ダバオ式」が推奨されている。高度な抽出器具に頼らず、豆の力強さを信じ切るこの手法こそ、かつてこの地を切り拓いた先人たちの不屈の精神を象徴しているかのようだ。

 近年、ダバオ産の豆は国際的な品評会でも上位を独占し始めており、欧米のバイヤーが買い付けに奔走している。しかし、日本市場への流入は依然として限定的だ。かつて「小日本」と呼ばれたほど日本と縁の深いダバオで、これほどの至宝が眠り続けていたことは、コーヒー史における「幸福な空白」といえるかもしれない。

 南国の太陽と火山の肥沃な大地、そして歴史のロマンが溶け込んだダバオコーヒー。
日本で「次なるブーム」として上陸する日は、そう遠くないはずだ。この深い褐色の液体には、私たちがまだ知らないコーヒーの真実が隠されている。
【編集:Eula】
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