フィリピンの長距離バス業界が、構造的な転換点を迎えている。創業112年の名門フィルトランコ・トランスポート・ラインズの運行停止(2026年3月30日)は、単なる個別企業の経営難にとどまらず、燃料高や車両更新コストの増大という「二重苦」が業界全体の存立基盤を揺るがしている実態を浮き彫りにした。
経済合理性の観点から今後3年間を展望すると、業界は「規模の経済」を追求する大手への集約と、不採算路線の切り捨てという、冷徹な市場原理に基づく再編プロセスを避けて通れない。

その他の写真:フィルトランコ・トランスポート・ラインズ

 収益性を圧迫する最大の要因は、営業費用の3割から4割を占める燃料費の高止まりと、通貨ペソ安に伴う輸入部品価格の上昇というコスト構造の硬直化にある。特に車齢10年を超える老朽車両を抱える事業者は、メンテナンスコストの膨張によりキャッシュフローが枯渇し、安全性確保のための設備投資(CapEx)の原資を確保できずに市場から退場する「負のスパイラル」に陥る可能性が高い。

 こうした中で進むのが、資本力の差による市場の二極化である。強固な財務基盤を持つ数社のメガ・オペレーターが、経営難に陥った他社の路線免許を継承し、デジタルトランスフォーメーション(DX)による配車効率の向上や燃費性能に優れた新型車両への一斉更新を断行する一方で、中小事業者は政府が進める「公共輸送車両近代化プログラム(PUVMP)」への適応に窮し、存続の分水嶺に立たされることになる。

 鉄道網の整備が遅れる同国において、バス路線の縮小は地方経済の停滞に直結するシステミック・リスクを孕んでいる。政府による税制優遇などの支援策も検討されるが、国の財政余力を鑑みれば抜本的な解決には至らず、公共交通の維持を市場任せから官民連携(PPP)による公的関与へと転換する議論が不可避となるだろう。3年後の業界図は、今よりもスリムで資本集約的な産業へと変貌し、生き残る事業者はデジタルプラットフォームを活用したモビリティ・サービス業への進化を求められることになる。
【編集:af】
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