欧米などの主要国では、物価上昇が落ち着き、金利が下がる傾向がはっきりしてきた。それに伴い、世界の不動産市場は新しい局面を迎えている。
投資環境の改善が期待される一方、米国では不動産業界の大きな団体が、不透明だった仲介手数料の仕組みを透明化する方針を決定した。また、AI(人工知能)による価格予測やネットでのバーチャル内覧が普及し、不動産会社が情報を独占する時代は終わった。誰もが自由に情報を持てる情報の民主化が進んでいる。こうした世界的な波は、日本市場にも抜本的な変革を迫っている。

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 日本の不動産業界も今、大きな転換点にある。物件情報はネットで瞬時に比較でき、価格相場もAIが提示し、ローンの試算も容易になった。かつて業者が持っていた情報の優位性は失われ、消費者の知識レベルも格段に向上した。しかし、その一方で増えているのが、情報は多いが、どれに決めたらいいか分からないという悩みだ。価格も立地も理解している。それでも決断に踏み切れない。選択肢が多すぎて、判断の軸が見えなくなっているのだ。こうした中、さくら都市デザインの櫻井佑樹社長は、不動産仲介は物件を紹介するだけでなく、どう決めるかを設計する仕事へ進化すべきだと説く。


 櫻井社長の原点は金融業界にある。数字を扱う現場で、この資金の背景にどんな人生設計があるのかを常に考えてきたという。その後、不動産の現場で多くの経験を積む中で、一つの確信に至った。それは、物件は点(一瞬の買い物)だが、人生は線(ずっと続くもの)であるという考え方だ。どれほど好条件の物件でも、人生設計と噛み合わなければ後悔を生む。逆に、平均的な物件でも、ライフプランに沿っていれば満足度は高まる。不動産の価値は価格ではなく、その人の人生の流れ(文脈)で決まるのだ。

 同社のブランド、イエノートは、物件提案の前に徹底的なヒアリングを行うことで知られる。なぜ今買うのか、将来はどこでどう暮らしたいのか、教育方針や働き方の変化をどう見込んでいるのか。場合によっては、購入を勧めない判断をすることもある。迷いは情報不足ではなく、判断基準の曖昧さから生まれると櫻井社長は語る。顧客自身が何を大事にするかを言葉にできれば、選択肢は自然と絞られる。
仲介の役割は、意思決定の伴走者になることだ。

 また、同社は手数料の設計においても独自性を持つ。一定価格以上の物件では手数料を2%に設定し、透明性と合理性を両立させた。安さで競うのではなく、価値で選ばれる仲介を目指す姿勢の表れだ。さらに、YouTubeやSNSでの発信も積極的だが、その内容は物件紹介ではなく考え方の共有に重点を置く。市場分析やローンの選び方など、プロの思考プロセスを公開することで、顧客との情報格差を縮めている。情報を囲い込む時代は終わった。判断の構造を共有することが信頼につながる、との信念がある。

 近年の市場は価格上昇と金利変動が同時に進み、短期間の判断ミスが将来の資産形成に大きく響きやすい状況にある。特に初めて家を買う層にとって、判断は将来の家計に直結する。だからこそ、仲介業者には単なる価格交渉以上の役割が求められる。同社では購入後の資金計画や将来の売却戦略まで含めた長期設計を提示し、単発の取引ではない人生単位の関係性を築くことを目指している。


 さらに、同社は仲介にとどまらず、独自の設計思想を反映した戸建て開発も進めている。物件ありきではなく、暮らしありきの発想だ。不動産業界が流通中心のモデルから設計中心のモデルへ移行する中で、同社の取り組みはその先駆けといえる。情報過多の時代、仲介業が再定義される局面を迎えている。
【編集:Y.U】
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