フィリピンの空の玄関口、ニノイ・アキノ国際空港(マニラ)では、日本との間を結ぶ国際線において日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)などの日系航空会社が比較的安定した運航を維持しているが、国内線ロビーに足を踏み入れると光景は一変する。マニラからセブ、ダバオ、あるいはボホールといった地方都市へ向かう国内航空路線は、実質的にナショナル・フラッグ・キャリアの「フィリピン航空」と、格安航空会社(LCC)最大手「セブ・パシフィック航空」の2社による寡占状態にある。
現在、この2社は燃料供給の不安から、採算性の低い地方路線の見直しや、1日あたりの便数を削減する「間引き運航」を常態化させている。事態に拍車をかけるのが、4月1日付で実施される燃油サーチャージの劇的な引き上げだ。フィリピン民間航空委員会(CAB)は、現行の「レベル4」から一気に4段階引き上げ、最高水準に近い「レベル8」を適用する決定を下した。これにより、1区間あたりの追加料金は数百ペソから数千ペソ単位へ跳ね上がり、イースター(復活祭)休暇を控えた帰省客や観光客の家計を直撃することは不可避だ。
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混乱は空路に留まらず、海運インフラでも深刻化している。ボホール島のタグビララン港など主要港では、高速船の運航スケジュールが「白紙」に近い状態が続いている。現地を取材すると、深刻な燃料不足を背景とした事前告知体制の脆弱さが浮き彫りになった。港に到着して初めて、乗るはずだった船が欠航だと知らされたと、足止めを食らった国内外の旅行者からは不満の声が噴出している。運航情報の変更がウェブサイトやアプリに反映されないケースが常態化しており、旅客は十分な冷房設備のない待合所で数時間に及ぶ待機を強いられている。フィリピンの石油製品供給は、国内唯一の製油所であるペトロン社のバターン製油所に依存しており、残りの多くを輸入に頼る構造だ。現在、地方の港湾や給油施設では供給網の末端から干上がり始めており、情報の混乱は現場のスタッフと乗客の衝突も招いている。
21日現在の緊迫した状況をさらに悪化させているのが、フィリピンエネルギー省(DOE)の内部試算から漏れ伝わる「在庫限界説」だ。
関係筋によると、戦略的備蓄を含めた国内の石油製品在庫は、現在の消費ペースが続けば「4月末」までに底を突く可能性が高いという。代替の調達先として期待されるタイやシンガポールといった近隣諸国も、自国内の供給優先を理由に輸出制限の検討に入っており、5月以降は物理的に「動けない」事態、すなわちモビリティ・クライシス(移動の危機)に陥る恐れがある。政府は公共交通機関の運転手に対し、計200億ペソ規模の燃料補助金の放出を急いでいるが、ジプニー(乗り合いバス)やタクシーの運賃値上げ圧力は限界に達している。マニラ首都圏では、燃料節約のために政府機関が週4日勤務制を試験導入するなど、社会活動そのものの縮小が始まっている。
アジアのエネルギー安全保障に詳しい専門家は、フィリピンは島嶼国家ゆえに交通インフラを燃料に依存せざるを得ない弱点があると指摘し、4月以降の激変緩和措置が機能しなければ経済成長そのものが停滞すると警鐘を鳴らす。神秘の島々を繋ぐ「動脈」が細りゆく中、マルコス政権は燃料税の減免といった緊急措置の検討に入ったが、国際価格に翻弄される構造的課題への特効薬は見当たらない。フィリピンを訪れるビジネス客や旅行者には、常に最新の運航情報を現地で取得し、予期せぬ欠航に備えた「自衛」と「時間的余裕」を持った旅程が、かつてないほど重要となっている。
【編集:af】