かつて警察官として勤務していた筆者。

さまざまな『相棒』たちと、数々の危ない現場をくぐり抜けてきました。

本記事では、筆者がさまざまな人とタッグを組んできた中で、ちょっと変わった相棒を紹介します。

繁華街交番の知られざる事情!ダッシュで現場に向かう警察官

繁華街の交番の中には、意外にもパトカーやバイクがありません。

人が多く、道も入り組んでいるため、車両を使うとかえって時間がかかるからです。

そのため、基本は徒歩。ほとんどの場合『ダッシュ』で現場に向かいます。

筆者が警察官時代に出会った相棒の中に、ダッシュで誰よりも早く現場に駆けつける警察官がいました。

通称『繁華街のスピードスター』と呼ばれていた人です。

誰よりも速い!『繁華街のスピードスター』

その相棒は、基本的にぶっきらぼうな人でした。無駄なことは言わず、淡々と仕事をこなすタイプ。

けれど金曜の夜になると、どういうわけか、だんだんテンションが上がってくるのです。

相棒がくだらない冗談をしつこく繰り返し始めると「あぁ、週末の繁華街がきたな」と筆者は思いました。

多くの警察官にとって、週末の夜の繁華街は『戦場』のような場所です。

ケンカや泥酔者の対応などがひっきりなしに続き、気が休まる暇もありません。

なぜ彼は繁華街を全力疾走したのか? “スピードスター”と呼ばれた警察官の誇り
男性を追いかける警察官の写真

※写真はイメージ

そんな中でも相棒は、どこか楽しそう…。

交番の中で軽くストレッチを始めたり、外を見ながら「今日も走るぞ」と笑っていたりしたのを覚えています。

地図いらずの『人間ナビ』

相棒のすごいところは、繁華街の地形と店の場所を完全に把握していたことです。

多くの警察官は、110番通報が入るとまず地図を確認したり、マップアプリを開いたりして場所を調べます。

しかし彼は違いました。

「110番通報、ケンカの模様。場所は〇〇町…」

通報が入った瞬間には、もう交番を飛び出して走り出しているのです。

勤務していた交番の管轄で、事件や事故現場へ一番に到着するのは決まって彼でした。

実は、普段から繁華街を歩くのが好きだったようで、休みの日にもよく街の雰囲気を見て回っていたそうです。

なぜ彼は繁華街を全力疾走したのか? “スピードスター”と呼ばれた警察官の誇り
繁華街を歩く男性の写真

※写真はイメージ

普通の警察官なら、休みの日まで自分の勤務エリアを歩くことはなかなかありません。

そんな日々の積み重ねもあり、彼は店や通りの位置を誰よりも正確に覚えていたのです。

とんでもない脚力

地理を把握していることでスタートが早いのはもちろんですが、彼のすごさは『その後のダッシュ力』にもありました。

初めて筆者が同じ交番に勤務した日のことです。

繁華街の地理にまだ不慣れだった筆者に、彼は優しく声をかけてくれました。

「まだ道が分からないと思うから、俺についてきたらいいから!」

「そんな気構えなくても全然大丈夫だよ」

その気遣いが本当に嬉しく、頼もしさを感じたのですが…。

一瞬で姿を消した『相棒』

ほどなくして110番通報が入りました。内容は「〇〇市××町でケンカ」。聞き覚えのある町名でしたが、場所はうろ覚え。

彼と一緒に交番を出たその瞬間、筆者は「これなら安心してついていける」と思いました。

しかし、交番の目の前の通りを曲がったところで、もう見失っていたのです。

結局、息を切らしながら現場付近で無線を飛ばし、「場所はどこですか」と確認するはめに…。

着いたころには、すでに彼が状況を聞き終えていました。

そんな『スピードスター』の姿は、夜の繁華街でも有名に。

通報を受けて交番からダッシュするたびに、「おー!今日も走っているぞ!」と声援を送る人までいたほどです。

『初動のプロ』としての誇り

交番の警察官は、ほとんどの現場でもっとも早く到着します。

そこから、事故なら交通課、窃盗なら刑事課と、事案を引き継ぎ、また次の現場へ…。

専門性がないと言われれば否定はできませんが、言わば『初動のプロ』なのです。

そんな初動が何より大切な交番のエースである彼に、ある日、飲みの席で仕事へのこんな思いを聞いたことがありました。

俺はあまり仕事ができるとは思っていない。書類もしょっちゅう訂正されるし、よくほかの部門の人から怒られる。

だからこそ、1分でも1秒でも、誰よりも早く着きたいんだ。ここだけは誰にも負けたくない。

なぜ彼は繁華街を全力疾走したのか? “スピードスター”と呼ばれた警察官の誇り
飲み会でビールを持つ写真

※写真はイメージ

普段は感情を表に出さない彼が、仕事への誇りを真っ直ぐに語る姿に、筆者は胸を打たれました。

誰よりも早く現場に駆けつける『繁華街のスピードスター』。誰よりも市民を思う熱い警察官は、今日も全速力で駆け抜けていることでしょう。

なぜ彼は繁華街を全力疾走したのか? “スピードスター”と呼ばれた警察官の誇り
りょうせいさんの顔写真
記事執筆 りょうせい

元警察官。警察歴10年。
交番勤務を経て、生活安全課の捜査員として勤務。
行方不明やDVなどの「人身関連事案」を対応しつつ、防犯の広報・企画業務を兼務。
現在は警察の経験を生かし、Xや音声配信(StandFM)にて、防犯情報を発信中。


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[文・構成/りょうせい]

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