テレビ朝日アナウンサー・弘中綾香による出産・育児エッセイ『たぶん、ターニングポイント』(朝日新聞出版)が発売された。
本書は、2023年に第一子を出産した弘中が、その前後で抱えた戸惑いや葛藤、そして変化を、当時の感情の鮮度を保ったまま綴った書き下ろしの一冊だ。
――『たぶん、ターニングポイント』を拝読して、男性としての視点もあるのかもしれませんが、身につまされる思いがしました。これまでも連載で、ご自身の言葉や気持ちを文章にして表現されてきたと思うのですが、改めて母親になる過程を本としてまとめようと思った理由を教えてください
「もともと連載をやっていて、もう何年も続けているので、自分の中でモヤモヤしたことや、体験したこと、新しく経験したことを書き留める習慣があったんです。今回は初めての妊娠・出産だったので、自然とそのことも書き留めていた、という感じですね。本を書こうと思って書き始めたわけではなくて、いつも通り、いろいろ感じたことがあったときに書いていた。その延長線上にあると思います」
――今回、本としてまとめるにあたって、新たに書き足した部分や、加えたことはありましたか?
「少しだけ加筆はしていますけど、基本的には、産休・育休の間に書いていたものが元になっています」
――『たぶん、ターニングポイント』の「たぶん」には、どんな意図が込められているのでしょうか?
「今は確かにターニングポイントだと思うんですけど、まだ渦中というか、最中にいて。自分自身も俯瞰して見られる立場に、まだないんですよね。子どもはまだ2年ですし、私もまだ新米。仕事との両立もこれから、という感じで、今もがいている最中なんです。たとえば10年後なら、2023~2025年ごろの私を振り返ってあれがターニングポイントだったと言えると思うんですけど、今はまだ距離が足りない。だからきっと転機になるであろう2年間という意味で、"たぶん"を付けました」
――ターニングポイントって、時間が経って初めて「あのときが転機だった」とわかるものでもありますよね
「そうですね。
――読んでいて改めて感じたのですが、弘中さんの文章はすごく自然体ですよね。大きく見せようとしないというか、日々の感情や出来事がそのままの手触りで伝わってくる感覚がありました
「ありがとうございます。私自身、エッセイストという意識もないですし、これが本業かと言われると、ちょっと違うというか......。自分の中では趣味の範囲に近い感覚で、心の整理みたいなイメージが強いんです。だから、誰かにお見せするために書くというより、将来自分が読み返して"あのときこうだったな"と思い出せればいい、という気持ちで書いていて。あまり気を張って書いているわけではないですね」
――この本を通じて、読んだ人が少しでも生きやすくなったり、社会がもっと支え合える方向に進んでほしい、という思いも、どこかにあったのでしょうか?
「そうですね。30代になるまでは、自分ひとり、せいぜい自分の周りの友達や家族くらいにしか、興味や関心が向いていなかったと思うんです。でも、子どもを通して社会の仕組みに支えられて生きていることを、頭で理解する以上に、痛感するようになりました。そこから、世の中に対して興味が出てきたというか、こうなったらいいのになと思うことも増えましたし。妊娠や出産を通して社会と向き合う中で、そういう気持ちは確かに詰まっていると思います。それに、そう思えるようになったこと自体が、自分の変化だなとも感じます」
――本を読む前は、弘中さんに対してタフで、周囲に頼らずに生きてきたというイメージがありました。でも本の中では、行政サービスを積極的に利用したり、シッターさんにお願いしたり、助けを受け取る選択もされていますよね
「そうですね。
――本の中でも壮絶な過程が描かれていましたが、現在は母親としての生活は落ち着いてきましたか?
「落ち着いてきました。大きいのは、やっぱり喋れるようになったことですね。本を書いていた頃はまだ喋れなかったので、娘のやりたいこと、体調や機嫌を、こちらが想像して推し量って対応する毎日だったんです。でも喋れるようになってくれると、"パン食べたい""滑り台行きたい"みたいに言葉で伝えてくれるので、そこに応えればいいので、もちろん全部は叶えられないですけど、格段に楽になりました」
――2年で本当に大きく変わるんですね。改めて、母親になる過程、あるいはその期間でいちばん大変だったことを教えていただけますか?
「メンタルの保ち方、自分の機嫌の保ち方が、いちばん難しかったです。これまでの人生で、落ち込むことはあっても、自分でどうにもならないほど不調になる時期って、あまりなくて。
――そういうとき、ご自身の感情とはどう向き合っていたんでしょうか?
「今思えば、あれは自分らしくなかったし、自分じゃなかったな、と思えるんですけど、渦中にいるとそうは思えないんですよね。それがずっと続くんだとか、この子が大きくなるまでずっとこうなんだとか、極端なところまで考えてしまって。向き合うというより、ただ時間が過ぎた、という感じです。保育園に入れて、身体的にも距離ができたこと、仕事復帰したこともあって、ようやく抜けた。結果的には、時間が解決したところが大きいですね」
――保育園のお話でいうと、本の中では「0歳から預けること」への反応も描かれていました。いまでも賛否が出るテーマだと思いますが、実感としてはどうですか?
「私の世代だと、平成初期は3歳から幼稚園、6歳から小学校、という流れが一般的で、働いている人が今より少なかったのかもしれません。
――本にもありましたが、「母だけを生きることがしんどかった」という言葉が印象的でした。母であることと、自分自身であること、そのバランスは現在どう捉えていますか?
「日本特有かもしれませんけど、"母親なんだから母親を最優先にしろ""働くより育てることを優先しろ"みたいな声って、今でもあるんですよね。でも私は、母親になったのは32歳からで、0歳から32歳までの自分もいる。そっちの自分も大切にしたい。だから、母親としての自分も大切にしつつ、仕事も含めて両立させたい。そのせめぎ合いは、今もずっとあります。理想としては、どちらも大事にしたいです」
――最後に、人生のターニングポイントにいるであろう方に向けて、弘中さんならどんなメッセージを送りますか?
「どっちを選んでも、選ばなかったほうが羨ましくなる瞬間って、絶対あると思うんですよね。
朝日新聞出版
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
『たぶん、ターニングポイント』詳しくはこちら
作品情報
『たぶん、ターニングポイント』(朝日新聞出版)
定価:1540円(税込)
発売日:2026年1月20日

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