世界が揺らぐ現代、日常に潜む「非常」に目を向ける展覧会が、大阪市の国立国際美術館で開催される。映像を中心とした8名の作家による表現が、社会の断面を鋭く映し出し、未来へ思考を促す。
会期は、6月28日(土)から10月5日(日)。本質を見極めたい大人にこそ訪れてほしい、感性と知性を刺激する特別展だ。
非常事態が常態化した時代に、美術館が投げかける問い
大阪・国立国際美術館で開催される特別展「非常の常」は、現代社会が直面する不安定さに鋭く切り込む試みだ。地震や戦争、パンデミックや政治的混乱といった「非常」が、もはや異常ではなくなった今、本展はそれを「常」として生きる我々の意識に問いを投げかける。
出展作家は8名。世界各地を拠点とする彼らは、映像や写真、インスタレーションを通して、社会が抱える問題を多角的に表現する。たとえば、写真家・米田知子氏のレンズは朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)を捉え、一見穏やかな風景の裏にある緊張感を可視化。台湾の映像作家、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)氏は、快適な住空間が崩壊していく様を写した作品で、平穏の脆さを訴える。

米田知子《絡まった有刺鉄線と花I(非武装地帯近く・チョルウォン・韓国)》2015 年 発色現像方式印画 作家蔵 Copyright the artist Courtesy of ShugoArts
こうした作品群は、現実逃避ではなく現実直視の姿勢から生まれたもの。美しさや静けさをたたえながらも、作品の奥に潜む危機意識が、見る者の思考を深めていく。
表現の最前線を走る、映像インスタレーションの数々
「非常の常」展の特徴の一つが、映像インスタレーションの充実ぶりだ。8人中7人が映像作品を出展し、観客は五感を使って現代の息遣いを感じ取ることができる。
韓国のキム・アヨン氏は、3Dアニメーションと実写を融合させた作品『デリバリー・ダンサーズ・スフィア』で、プラットフォーム経済やデジタル労働の実態を詩的かつ批判的に描き出す。彼女は同作で、アルス・エレクトロニカ賞を受賞するなど、国際的な評価を得ている。

キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》2022 年 シングルチャンネル・ヴィデオ(フルHD、カラー、サウンド) 国立国際美術館蔵 ©Ayoung Kim Courtesy the artist
世界を映す鏡としての作家が創り上げた新作アート
展示される作品の多くは、すでに国際的な舞台で注目を集めている。例えば、袁廣鳴氏の『日常戦争』はヴェネチア・ビエンナーレでも話題を呼んだ映像作品であり、日本国内では初展示となる。リー・キット氏の新作《We used to be more sensible.》も本展で初公開される予定だ。

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《日常戦争》2024 年 シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド) 国立国際美術館蔵 ©Yuan Goang-Ming Courtesy the artist and TKG+
加えて、関連イベントも充実しており、展覧会をより深く味わうことができる。アーティストによるパフォーマンスや専門家とのトークイベント、ミャンマーのクリエイターを支援する上映会など、単なる鑑賞を超えて、観客が「非常」の現実に主体的に関与できる機会が用意されている。

リー・キット《Tearing the world apart, yet achieving absolutely nothing.》2025年 Courtesy of the artist / Lee Kit
この展覧会は、アート鑑賞にとどまらない。日々のニュースに流されず、世界を自らの目で見極めたいと願う人にとっては、新たな思考の起点となるだろう。
特別展「非常の常」
会期:6月28日(土)~10月5日(日)
会場:国立国際美術館 地下3階展示室
所在地:大阪府大阪市北区中之島4-2-55
開館時間:10:00~17:00、金曜・土曜は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,500円
公式サイト:https://www.nmao.go.jp/events/event/20250628_hijou-no-jou/
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000963.000047048.html
(Fumiya Maki)