7月30日(水)~8月18日(月)、日本橋高島屋にて、日本画家・小泉淳作の画業を回顧する展覧会が開催される。初期の肖像画から水墨山水、東大寺の襖絵まで、約半世紀にわたる創作の軌跡を47点の作品で紹介。
時代を超えて美の本質を問い続けた作品群が、静けさと存在感をもって観る者の心を深く揺さぶるだろう。
しだれ桜 2010年制作 東大寺蔵
自然の“気”と対話した、日本画の異端にして本流
小泉淳作は、戦後日本画の世界において、いわゆる「画壇」に属することなく独自の創作活動を貫いた希有な存在だ。
東京美術学校在学中に戦争を経験し、復学後は山本丘人に師事。その後は在野の美術団体に出品を重ねながら、自らの画風を確立していく。
ルオーやビュッフェといった西洋の画家から影響を受けた初期作品は、人物の内面を掘り下げるような筆致が印象的で、既に非凡な観察力と構成力をうかがわせる。

顔 1958年制作
転機となったのは50代以降のこと。
中国・唐宋の古典絵画に傾倒した彼は、水墨を用いた山水画や花卉図に力を注ぎ、より深い自然表現へと歩を進めていく。そこにあるのは写実という枠を超え、自然の中に漂う“気”を描こうとする精神性だ。
現地に何度も足を運び、風雪に晒されながら描いた『白山残照』などには、山そのものが持つ霊的な力が宿っているようだ。

白山残照 1997年制作
「東大寺襖絵」信仰と自然が融合する、晩年の到達点
同展の見どころのひとつが、2010年に小泉が完成させた東大寺本坊の襖絵群の一部公開だ。
これらは平城遷都1300年、光明皇后1250年御遠忌の記念事業として依頼された大作で、40面に及ぶ襖絵には『蓮池』『しだれ桜』『吉野の桜』『鳳凰』など、日本の四季と信仰の象徴が圧倒的な存在感で描かれている。

蓮池(左隻) 2010年制作(部分) 東大寺蔵
それらの作品は本来、奈良の東大寺に貯蔵されているもので、今回の東京での公開は極めて貴重な機会。自然と精神、感情と静けさの見事な調和が感じられるだろう。
表面的な華やかさではなく、本物の美を求める人々にこそ響く芸術だ。
花に宿る命の気配。静かなる力が見る者を包む
晩年においても小泉の筆は衰えることなく、むしろ一層の深まりを見せている。
特に注目すべきは、花卉画の一連の作品だ。蓮や蕪といった身近な植物を描いたそれらの絵には、対象そのものを超えた生命の気配が漂っている。
たとえば『蓮花』においては、花のかたちよりも、その周囲にある時間の流れや沈黙が絵全体を支配しており、どこか瞑想的ですらある。
静けさの中に張り詰めた緊張があり、見る者の心をそっと掴んで離さない。これは、人生の深みを知る年代こそ共鳴する感覚だろう。

蓮花 1986年制作
戦後の混乱をくぐり抜け、画壇の評価に頼ることなく、自身の審美眼を信じて筆をとり続けた小泉淳作。東京・日本橋で展開されるこの特別な空間で、歳月に磨かれた美と、静かな感動の対話を体験してみてほしい。
生誕100年記念 小泉淳作展
会期:7月30日(水)~8月18日(月)会期中無休
入場時間:午前10時30分~午後7時(午後7時30分閉場)
※最終日は午後5時30分まで(午後6時閉場)
場所:日本橋高島屋S.C. 本館8階 ホール
所在地:東京都中央区日本橋2-4-1
入場料:一般 1,200円
特設サイト:https://www.takashimaya.co.jp/store/special/koizumijunsaku/
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001047.000069859.html
(Fumiya Maki)