日常の一瞬が、どこか異国の風景とつながる。建築家・山之内淡氏が手がけた『Anywhere Door(エニウェア・ドア)』は、世界各地に設置された扉を通じて「つながり」の本質を問いかける屋外建築インスタレーションだ。
日本の名所やホテルなどに設置された同作品は、静けさのなかに力強く存在し、大人の感性をくすぐる体験を誘う。
扉が語る、文化と自然の対話
『Anywhere Door』は、建築家・山之内淡氏が提案する「つながり」をテーマとした屋外建築作品。展示はイタリア・ヴェネチアのマリナレッサ庭園での発表を皮切りに、日本では鎌倉の円覚寺、千葉・木更津のKURKKU FIELDS、そして群馬・前橋の白井屋ホテルで展開されている。いずれも風景や文化と静かに対峙する場所ばかりであり、その設置地の選定そのものが作品の一部とも言える。
扉の素材には全体にステンレス鋼を使用し、接合部にはビスを一切用いずに溶接のみで仕上げるなど、卓越した日本の職人技が込められている。仕上げには5色の塗装を職人の手で施し、幻想的かつ寓話的な世界観を体現。どこか精神世界に通じるような佇まいは、日常の時間軸をふと断ち切り、鑑賞者を別世界へと誘う。

自然と響き合う展示空間
展示地の一つであるヴェネチア・マリナレッサ庭園では、芝生のプラットフォーム上に扉を設置。展示は11月23日(日)まで。庭園の自然美と扉のモダンな存在感が互いを引き立て、観る者の視点を優雅に揺さぶる。
鎌倉|臨済宗大本山 円覚寺
日本では、鎌倉の円覚寺にて文化財保護のもとに設置。江戸時代から掘削されたことのない山門前に据えられた扉は、時代の層を超えて現代建築を迎え入れる特異な存在となっている。

木更津|KURKKU FIELDS
千葉県木更津のKURKKU FIELDSでは、自然との親和性を意識し、見通しの良い開放的な地に常設展示された。背後に広がる緑との調和は、アート作品でありながら風景の一部でもあるという新たな価値を提示している。

前橋|白井屋ホテル
群馬・前橋の白井屋ホテルでは、唯一の屋内展示として、カーペットと一体化するようにデザインされた脚部が印象的。宿泊者が館内でふと目にする「扉」は、非日常の入口として機能し、ホテル全体の世界観とも共鳴する。

日常のなかに潜む“どこかとつながる”感覚
『Anywhere Door』は、都市と自然、日本と世界、過去と未来をつなぐ媒介として、扉というミニマルな建築がその役割を担っている。庭園のなかに佇む一枚の扉は、そこに立つことで鑑賞者に“今ここ”とは異なる空間と感覚をもたらす。

作品を構成する全てが“本物”である点も魅力だ。素材の選定、塗装の手仕事、設置地ごとの設計意図。すべてが洗練され、作り手の哲学が息づいている。一見すると静かな作品だが、もたらす深い余韻は、心をじわりと満たすだろう。
Anywhere Door
展示場所:
マリナレッサ庭園(イタリア、ヴェネチア)
臨済宗大本山 円覚寺(神奈川県鎌倉市)
KURKKU FIELDS(千葉県木更津市)
白井屋ホテル(群馬県前橋市)
公式サイト:https://anyhweredoor.awgl-inc.com/
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000166023.html
(Fumiya Maki)
※写真:田中克昌