今回のコラムの主役は俳優・タレント・司会者の船越英一郎(1960年7月21日生れ)である。

キャッチコピーは『2時間ドラマの帝王』である。


今回取り上げるのは、10月17日からテレビ東京の深夜ドラマ枠ドラマプレミア23で
『警視庁考察一課』が放送開始したからである。

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(警視庁考察一課の船越英一郎 イラストby龍女)

テレ東の深夜ドラマであるので、視聴者は限られるかもしれない。
このドラマの企画原作は放送作家・作詞家・音楽プロデューサーの
秋元康(1958年5月2日生れ)である。

崖が好きな刑事役?秋元康企画ドラマ『警視庁考察一課』の主役・船越英一郎が「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる謎の鍵は共演の山村紅葉にあった!

(雑誌GQの撮影で髪型を2ブロックに整えた秋元康 イラストby龍女)

今回のドラマは、低予算の深夜ドラマの関係上、台詞を主体とした室内劇になった。
警視庁の架空の部署である考察一課に集められた6人のベテラン刑事を中心とした
考察物と呼ばれるジャンルのドラマとなっている。

現場に行かず事件を推理していくミステリのジャンルは、アームチェア・ディクテイティヴ(安楽椅子探偵)と言われるイギリスの探偵ものがある。
考察物はそれを一人ではなく集団化したジャンルだと筆者は理解している。

秋元康が企画した日テレのドラマ『あなたの番です』(2019年4月~9月)『真犯人フラグ』(2021年10月~3月)等でしていたジャンルの延長線上にある。
ただし今回はコメディである。
おそらく遠くで影響を与えているのは、アメリカの劇作家ニール・サイモンが描いた『名探偵登場』ではないだろうか?
過去の有名な探偵を彷彿とさせるキャラクターがあるパーティーに招かれ事件が起こりそれを推理する。
それぞれの探偵が語る推理はまともな言い分ではない。
それぞれの性格でいいそうな台詞を優先させているので、謎解きとしては的外れであっさり覆させることも多い。


今回は2時間ドラマでそれぞれ主役を張った4人と名バイプレイヤーの2人がメインキャストとなっている。
役名が芸名に微妙に似ている。こんな感じである。

船越慶一郎(船越英一郎)
山村楓(山村紅葉)
西村まさ男(西村まさ彦)
高島誠子(高島礼子)
名取悠(名取裕子)
内藤昌志(内藤剛志)

セルフパロディーを演じるよという意味の役名となっている。
6人のメインキャスト以外(柳沢慎吾・徳永えり・藤井流星)もそういう発想の役名で一貫している。
比べてみると面白い。

警視庁考察一課の船越慶一郎は崖が好きな刑事だ。
考察一課の部室には崖が用意できない。
代わりに脚立の段差を利用して、脚をかけて格好つけて考察を語り出す。

今回は、内藤剛志を取り上げた2021年9月8日のコラムとの姉妹編となる内容だ。

次のページでは船越英一郎の経歴を簡単に振り返ってみよう。
船越英一郎は、俳優で実業家の船越英二(1923~2007)の長男で、
「船越栄一郎」として、1960年に誕生した。

(1997年に現在の芸名に改名したので、以下「英一郎」に統一)

船越英二こと本名・船越榮二郎は、元々俳優志望ではない。
専修大学の経営学科出身のインテリなので、堅実な仕事を志していた傾向を感じる。
後にスターになった人あるあるで、勝手に友人に応募書類を送られて合格してしまったパターンの人であった。

大映(現KADOKAWA)の第2期ニューフェイス(1947年)合格から、専属(倒産する1971年まで)であった。
日本映画全盛期を支えた名優の一人でもある。

筆者がリアムタイムで知っている船越英二とは
「おじいちゃん、お口臭い」
という子役の台詞が印象的だった1988年の小林製薬のポリデントのCM
『暴れん坊将軍Ⅲ』(1988年)からレギュラー(1997年まで)になった「爺」こと田之倉孫兵衛役を演じる、お爺さん俳優であった。

渋谷系の音楽が流行った90年代半ばに、昔の映画を再評価する向きがあった。
渋谷系の代表格の一人、ピチカート・ファイブの小西康博(1959年2月3日生れ)がハマったと紹介したのが
船越英二が、妻と9人の愛人に殺されそうになるTVプロデューサー風松吉を演じた
市川崑監督の『黒い十人の女』(1961年)である。
船越英一郎も、TVプロデューサーと9人の愛人という設定は同じ、バカリズムのオリジナル脚本で深夜ドラマとしてリブートした『黒い十人の女』(2016年9月~12月)で父と同じ役の風松吉を演じた。

父英二は、英一郎が5歳の頃(1965年)に、神奈川県の湯河原温泉に会員制旅館
「ふなこし」を開業した。
父英二は、自分が当初俳優である事を伝えなかった。
俳優という職業が持つ経済的に不安定な要素を熟知していた。

あくまでも息子には旅館の跡継ぎになって欲しいと思っていた。

しかし、英一郎は進学先に日本大学芸術学部映画学科を選んだ。
元々は映画監督志望であった。
俳優として、1982年にデビュー。
80年代は脇役として着実にキャリアを積んでいた。
1988年の4月~9月の朝ドラ『ノンちゃんの夢』ではヒロイン(藤田朋子)の初恋相手を演じるなど、若手俳優としても順調な出世街道を歩み始めていた。
一方で、1986年にロックミュージカル劇団「MAGAZINE」を結成、主宰となる。
脚本と演出を担当し続けた成果として、1997年に戯曲集「BRAKERS」を出版した。

船越英一郎が、2時間ドラマの常連になり始めたのは、
1989年に始まった片平なぎさ主演の『小京都ミステリー』(日テレの火曜サスペンス劇場)シリーズの存在が大きいだろう。
フリーライターの柏木尚子(片平なぎさ)とカメラマンの山本克也(船越英一郎)が取材先である、日本各地の「小京都」で起こる難事件を解決していく。

片平なぎさ(1959年7月12日生れ)は大映ドラマ制作
『スチュワーデス物語』(1983~1984)での
ヒロイン(堀ちえみ)をいじめる役が話題になった。
大映テレビが、片平なぎさを主役に据えた2時間ドラマとして企画された。

作品の相手役に選ばれたのが、同じホリプロ所属の船越英一郎であった。
父の船越英二は俳優として初期はヒロインの相手役が多かった。
父親の資質によく似ている。
相手役としての船越英一郎を観ると、リアクションの演技が上手い。
主宰する劇団のコンセプトにしたほど好きなロックのリズムが体に染みついている。
間が良かった。

片平なぎさは神田正輝を相手役に
大映テレビ制作『赤い霊柩車』(フジテレビ 1992~)等
他にも人気シリーズを複数抱えていたから
2時間ドラマの女王と呼ばれた。

この順番は重要で、ではそれに対して
「じゃあ、2時間ドラマの帝王って誰だ?」
と言う疑問がでたときに、一つの仮説として浮上した名前が船越英一郎だった。
「2時間ドラマの帝王は誰だ?」
この疑問が立ち上がったのが、1990年代の終わり頃の話である。
しかし、ここで一つ問題があった。
確かに船越英一郎は2時間ドラマの出演本数は圧倒的に多かった。
それは主役では無く2番手の役が多かったからだ。

顕著な例が『高橋英樹の船長シリーズ』(1988年~2002年)での部下にあたる一等航海士の児島克生役である。

筆者の記憶が間違いないのならば、船越英一郎の2時間ドラマにおける初の主演作品シリーズになったのは
火災調査官・紅蓮次郎(2003年~2015年)ではないか?

崖が好きな刑事役?秋元康企画ドラマ『警視庁考察一課』の主役・船越英一郎が「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる謎の鍵は共演の山村紅葉にあった!

(紅蓮次郎を演じる船越英一郎 イラストby龍女)

2時間ドラマは推理小説を原作とした脚本が多い。
今出演中の『警視庁考察一課』でも共演しているのが、裏女王と言われるほど出演作品が多い山村紅葉(1960年10月27日生れ)と大いに関係がある。

崖が好きな刑事役?秋元康企画ドラマ『警視庁考察一課』の主役・船越英一郎が「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる謎の鍵は共演の山村紅葉にあった!

(山村紅葉。所属事務所東宝芸能の宣材写真から引用 イラストby龍女)

作家の山村美紗(1931~1996)を母に持ち、早稲田大学政経学科卒の元マルサ(国税局勤務)の女である。
『小京都ミステリー』も『赤い霊柩車』も山村美紗の小説が原作である。

また、山村美紗と同志的な強い関係があった作家に鉄道ミステリーの大家で
十津川刑事シリーズでおなじみ
西村京太郎(1930~2022)がいる。

しかし2時間のドラマの原作者の歴史として、最も重要人物なのは
松本清張(1909~1992)である。
2時間ドラマで何故崖が犯行を告白する場所になるのか?
その形を作ったのが松本清張原作の映像化『ゼロの焦点』(1959年光文社出版)である。

西村京太郎が鉄道ミステリー専門の作家になったのも、
松本清張の『点と線』(1958年光文社出版)の大ヒットがあったからだ。
『点と線』では時刻表を使ったトリックが小説のキモであった。
刑事が地道に調べながら、犯人が仕掛けたアリバイを解明する。

もう一つは鉄道によって誘われる旅のロマンである。
車窓から眺める風景は旅の最高のご馳走の一つである。
鉄道ミステリーを更に進化していったのが鉄道ファンでもあった西村京太郎である。

2時間ドラマというのは、シリーズ物でも、1年1作品のペースが多い。
撮影中と放映までのタイムラグが大きく時にはお蔵入りするドラマもあった。
映画会社がTV用に制作したテレビ映画の延長線上に存在する形式だ。
かつて映画全盛期に多くあったシリーズ物の作品群をさす「プログラムピクチャー」のTV版としてみることも出来るだろう。
映画に関心の高かった船越英一郎にとってもこの形態のドラマは映画に近い作り方をするので、やりがいもあったと考える。

ところが2010年代に入ると急激に2時間ドラマの制作本数や予算が削減され、とうとう毎週放送される2時間ドラマの時間枠自体が現在消滅してしまった。
2時間ドラマ好きの筆者の母はもっぱら、BSでの再放送を繰り返し観ている。
断続的にかろうじて生き残っているのが現状だ。

そこで近年では船越英一郎の活躍は連ドラに軸足が移っている。
そんな中で、今回取り上げるきっかけになった『警視庁考察一課』の主役に繋がっているようだ。

話はここで終わっても良いのだが、船越英一郎がこの秋には主演作がもう1本待機しているので紹介したい。
それは筆者の大好きな時代劇だ。
その船越英一郎の主演作とは
『赤ひげ』シリーズ第4作、
『赤ひげ4』(BSプレミアム11月から金曜20時開始)だ。
山本周五郎(1903~1967)の短編連作小説
『赤ひげ診療譚』(1958年)を原作とするTV時代劇である。
原作の8作ある短編の映像化は終わってしまったので、山本周五郎の他の短編小説を赤ひげの世界に組み込んで脚色している。

脚本家は2人いる。1人は川崎いずみ(1978年生れ)で
メインは朝ドラの『梅ちゃん先生』(2012年4月~9月)で医療モノは経験済みで
11月に監督作の映画『炎上シンデレラ』が待機中の
尾崎将也(1960年4月17日生れ)である。

崖が好きな刑事役?秋元康企画ドラマ『警視庁考察一課』の主役・船越英一郎が「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる謎の鍵は共演の山村紅葉にあった!

(尾崎将也 イラストby龍女)

『赤ひげ』は何度も映画・TVドラマ化している。
最も有名な映像化は黒澤明監督と主演三船敏郎の最後のコンビ作、1965年の映画だ。

船越英一郎が2017年の第一シリーズから演じているのは
赤ひげこと小石川療養所の医師新出去定である。

崖が好きな刑事役?秋元康企画ドラマ『警視庁考察一課』の主役・船越英一郎が「2時間ドラマの帝王」と呼ばれる謎の鍵は共演の山村紅葉にあった!

(赤ひげこと新出去定 イラストby龍女)

小石川療養所とは、1722年に設立された小石川薬園内にあった無料の医療施設だ。
幕末にはなくなってしまったが、現在は小石川植物園として残っている。
この施設が開設された時代は、享保年間で幕府の将軍で言うと、徳川吉宗のご時世。
『暴れん坊将軍』の時代だ。

船越英一郎が主演した2時間ドラマで『外科医・鳩村周五郎』(2004~2016)があった。
この企画は、船越英一郎の所属事務所のホリプロの制作だ。
ホリプロのスタッフはいずれは船越英一郎に同じ医療ドラマである『赤ひげ』をやらせたかったのでは?
『赤ひげ』の船越英一郎版の制作会社もホリプロだからである。
『赤ひげ』は今で言うと総合診療医だが、外科手術のシーンもある。
なにより役名「鳩山周五郎」の周五郎は赤ひげの原作者「山本周五郎」から来ている。
山本周五郎作品の世界観は、庶民的な視点が特徴だ。
船越英一郎が若手の頃は、庶民的な気の良いお兄さんのイメージがあった。
彼が渋い中高年になった頃に演じて欲しいという待望論があったのかもしれない。
黒澤明版の『赤ひげ』で三船敏郎が演じた年齢は、45歳であった。
あのときの三船敏郎が筆者よりも若かったのに驚きを禁じ得ない。
高齢化した令和の時代は、50代半ばから似合う年齢である。
満を持しての『赤ひげ』のリメイク企画であったのだろう。

『赤ひげ』は何度も映像化されている医療モノの古典でも、
『白い巨塔』(原作・山崎豊子 1965年出版)
『華岡青洲の妻』(有吉佐和子 1966年)よりも古い。
医療に縁がないと思われる貧しい人を治療するという発想は
離島にいく医師の漫画『Dr.コトー診療所』等にみられる
医療が届かない人を助けようとする医者を主人公にしたジャンルの源流であろう。

船越英一郎は、俳優としての方向性をハッキリ自覚していた。
2枚目を気取ってはいるが少々間が抜けてしまう人柄の役が、自分に合っていると。
元々演出家を目指し、実際に劇団も主宰していた経験が生きている。
2時間ドラマという主戦場がなくなっても、生き残れるタフさがうかがい知れる。
『警視庁考察一課』は、連続ドラマの形式を借りた長編コントにも見える。
2時間ドラマを楽しんできたマニアにお勧めの新作だ。
一方で正統派の時代劇に挑む。
二つの船越英一郎の魅力を秋クールでは、楽しんでいこう。

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