佐々木蔵之介(1968年2月4日生れ)である。
(佐々木蔵之介 イラストby龍女)
『嘘八百 なにわ夢の陣』は、中井貴一とのW主演の『嘘八百』(2018)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年)と正月映画のシリーズ第3弾である。
古美術商・小池則夫(中井貴一)
陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)
がひょんな事で出逢い、安土桃山時代の幻のお宝で一攫千金を夢見る骨董コメディだ。
筆者は、第3弾を観ようと思ったが、第1作・第2作とみていなかった。
予習のために、前作前々作を観たい。
加入している配信動画サービスを探してみると、NETFLIXに入っていたので早速観てみた。
第1作目では、野田佐輔は、格式の高い抹茶茶碗の写しを作るのが上手く、その器用さで骨董商(近藤正臣と芦屋小雁が演じた)に利用され贋作作りの片棒を担がされていた。
二人の骨董商に復讐するために、小池則夫と、野田佐輔の仲間達(坂田利夫など関西出身の名優達)が精巧な贋作を作り、大金をせしめようと奮闘する。
大阪府堺市を中心に関西各地を舞台にしたご当地映画である。
残念ながら、筆者は既往歴があるためにコロナとインフルエンザ感染が流行中の今、すぐに関西へ旅に行けない。
1月11日。東京都内は動けるので、別の用事ついでに、映画に関係のあるお宝が展示してある場所へ遊びに行ってみた。
ヒントは、佐々木蔵之介の最初のW主演映画『間宮兄弟』(2006) で、弟役を演じた
塚地武雅(1971年11月25日生れ)である。
『嘘八百』シリーズで塚地が演じている職業の人がいる場所である。

(田中四郎を演じる塚地武雅 イラストby龍女)
塚地武雅演じる田中四郎とは何者なのか?
職業は学芸員である。
博物館や美術館に勤務して、展示品の調査研究と、更に展示の企画を立てる。
筆者は、高校までずっと図書委員をして、大学生活の前半は図書館司書の資格の授業を受けていた。
図書館司書の資格はほぼ学芸員の資格と同じだ。
学芸員は、骨董品の由来を知るためにお宝の目録が書かれる古文書を解読する訓練を受けなければならない。
くずし字辞典や古典中国語の授業を受けて、文献解読の勉強を続ける。
学芸員の基盤となる技能である。
図書館の職員も、公立私立問わず図書館が所蔵している地元の古地図を始めとする郷土の古文書の保管解読が仕事の一部となっている。
学芸員と仕事が重なる。
しかし筆者は、図書館司書の仕事が狭き門と知って、諦めてしまった。
だから、学芸員は憧れの職業なのである。
実は田中四郎には実在のモデルがいる。
堺市博物館の学芸員矢内一磨である。
彼は田中四郎のモデルと言うだけでなく、映画のシナリオの台詞にする前の骨組み、あらすじより少し詳しいプロットの協力もしている。

(矢内一磨 イラストby龍女)
そして、役名の田中四郎とは堺が誇る日本史上の偉人、茶聖千利休(1522~1591)の本名田中与四郎から来ている。
田中四郎は、千利休への愛が溢れすぎて「よ」が無くなったとの洒落だろう。
では東京では、『嘘八百』シリーズに登場するお宝のヒントになった抹茶茶碗はどこで観られるだろう?
東京には入場料1000円を払えば事前予約無しに観賞できるところがある。
その名を東京国立博物館と言う施設だ。
— 龍女の道楽記 コラム『なんですかこれは』専用アカウント (@asenatamako2021) January 12, 2023
この写真の中央にみえる本館を始め別料金の特別展以外の常設展示が観られる
総合文化展のチケットを購入すれば1000円で一日過ごせる空間がある。
さて、筆者は、昼食を食べた後、上野にある東京国立博物館にやってきた。
『嘘八百 なにわ夢の陣』をTOHOシネマズ新宿で夕方の回で観る前だった。
予習のために常設展示室にある抹茶茶碗を見学することにした。
前のページの写真の建物、本館(日本ギャラリー)に目的の展示物がある
入り口に入ると、筆者は仏像好きなので、一階の特集コーナー、太安寺の仏像群を寄り道してしまった。
13-3室の陶芸コーナーに寄ってみた。ここには確かに貴重な抹茶茶碗があった。
『嘘八百 京町ロワイヤル』に登場する織部や志乃焼の本物が観られる。
茶碗以外にも焼物の種類が多すぎて、注意が散ってしまった。
展示品のジャンルが分る『案内と地図』の紙を観て、今回目的のジャンルのお宝はないかと確認した。
目的のお宝は、2階の日本の美術の流れの4室
『茶の美術』であった。
急いで2階に上がり、茶の美術コーナーに上がると、以前コラムで取り上げた
吉田鋼太郎が演じた実在の人物のコレクションがずらりと並んでいたのだ!

(吉田鋼太郎が演じる松永安左エ門 イラストby龍女)
ほぼ、「電力の鬼」松永安左エ門(1875~1971)が寄贈した松永コレクションだけで、展示品は構成されていた。

(『嘘八百』のポスターから引用。左から中井貴一、佐々木蔵之介 イラストby龍女)
第1作で出てきた千利休が陶工・長次郎に焼かせた黒楽茶碗の本物。
これからの続編に組み込んで欲しいお宝もあった。
千利休の高弟だった大名茶人・蒲生氏郷(1556~1595)が作った茶杓(抹茶をすくう道具)。
しかし、このコーナーだけで、映画に関するお宝の本物は終わらなかった。
第3弾『嘘八百 なにわ夢の陣』には「秀吉七宝」とした、秀吉の出生物語にまつわるお宝で唯一無いとされる茶碗鳳凰を、野田佐輔(佐々木蔵之介)が茶碗に仕上げていく過程が一つの山場である。
筆者は、初めてみる秀吉の肖像画があった。
6室にあった「豊臣秀吉」の肖像画は厳密に言うと、本物ではない。
大正時代に日本画家の石本秋園(生没年不詳)が描いた作品である。
原本は狩野永徳(1543~1590)が描いた肖像画の写しを仙台藩御用絵師・菊田伊徳(1785~1851)がしたモノの写し。
ややこしいが要は二重コピーだった。
隣には秀吉の手紙が掛け軸に額装されたモノがかかっていた。
送り先は女性らしいので、仮名で書かれた文面で、署名も「ひでよし」としてある。
筆者は
「秀吉はこんな文字書いたのか!」
と新鮮な気持ちで観賞した。
数時間後、やっぱり事前に行って良かったなと思った。
もう、映画本編が公開されているのでちょっとネタバレするが、
「秀吉のお宝の本物は東京国立博物館にしかありません!」
と言う小池則夫(中井貴一)の台詞があった。
この1箇所しか触れていないが、この映画に出てくる「秀吉七宝」なるモノそのものが大嘘だからである。
さて、この映画のキモは、
小池則夫と野田佐輔(佐々木蔵之介)は、骨董商やイベンターに対抗するためにいかにも歴史に埋もれていた贋物を過去からお墨付きの書状まで、仲間達とでっち上げて大もうけしようとする過程が面白い。
今回の第3弾はTAIKOH秀吉博を開催する山根寧々(中村ゆり)と謎の波動アーティストTAIKOH(安田章大)と、
大阪秀吉博の顧問雑賀万博(升毅)と委員長(松尾諭)と秀吉の専門家小出盛夫(笹野高史)と文化庁役人後醍醐(桂雀々)と
3つ巴の対決となる。
ちなみに、笹野高史は大河ドラマ『天地人』、佐々木蔵之介は『麒麟がくる』で秀吉を演じている。
前半、小池則夫と野田佐輔が仕事を組もうとしないのが、ルパン三世にも通じるコンゲーム(騙し合いのゲーム)がシリーズ物の楽しさがある。
この映画は実は堺の現代を描くための町おこし映画である。
徳川家康好きの東京人リクエストとして、家康と堺と言えば本能寺の変の時に堺へ遊びに行っていた。
急遽三河に帰らざるをなかったときに、伊賀を通過した。
いわゆる「神君伊賀越え」である。
伊賀には第2弾に登場する織部焼の由来になった古田織部が焼かせた伊賀焼がある。
家康ゆかりのお宝をさもあるかのような、シナリオがあったら良いなあ。
堺は貿易港なので、日本各地から集まる陶芸に付加価値を付けて売った文化都市である。
更にスケジュールが合うなら、堺市が誇る大女優沢口靖子をゲストに迎えた続編も観たい。
では、『嘘八百』シリーズはどうやって出来たのか?
筆者なりに調べた経緯を紹介していこう。
『嘘八百』には、主な脚本家は二人いる。
一人は足立紳(1972年6月10日生れ)。
日本映画学校(現・日本映画大学)卒業で、映画監督相米慎二(1948~2001)に師事した。
中井貴一は『東京上空いらっしゃいませ』(1990)『お引っ越し』(1993)で相米慎二と一緒に仕事をした。
相米慎二は、2002年に初の時代劇、浅田次郎原作の『壬生義士伝』を監督する予定だった。
しかし、2001年の9月9日に肺がんで亡くなった。
『壬生義士伝』で、中井貴一は主人公で新選組隊員の吉村貫一郎(1839?~1868?)を演じた。
壬生(みぶ)とは、新選組の駐屯地があった京都市内の地名である。
足立紳は相米慎二の元で映画が実現する難しさを知り演劇に行ったりした。
37歳の頃に生活に困って100円ショップにアルバイトを始めた。
その頃は既に結婚して妻子がいた。
妻はプロレス団体に働いており、この経験も後に生かされる。
山口県周南市の町おこしの映画祭『周南「絆」映画祭』のシナリオコンクール
第1回松田優作賞に応募したところ、グランプリを獲得した。
それが100円ショップとボクシングを組み合わせたアイデアが光る
百円の恋(2014)である。
足立紳は日本アカデミー賞最優秀脚本賞を獲得した。
『嘘八百』が実現したのは、この日本アカデミー賞受賞が鍵になっている。
その前年日本アカデミー賞最優秀脚本賞を獲得したのは、
『超高速!参勤交代』である。
この『超高速!参勤交代』の主演俳優こそが、佐々木蔵之介である。
もう一人の脚本家、堺市生れ今井雅子(1970年2月9日生れ)は2012年に堺親善大使になった。

(今井雅子 イラストby龍女)
地元の偉人・千利休が映画の題材になったことはあるが、現在の堺市が舞台になっていないことに不満があった。
しかし、千利休の堺市という全国的なネームバリューは絶大なので、現代の堺市と結ぶアイデアを千利休に詳しい堺市博物館の学芸員・矢内一磨に相談したようである。
今井雅子は、函館港イルミナシオン映画祭の1999年第4回の準グランプリを獲得した。
そのシナリオ『ぱこだての人』を元にした映画化作品
『パコダテ人』で脚本家デビューした。
2009年の朝ドラ『つばさ』では脚本協力。
これは、俳優は直接読むことは無いが、ドラマの流れを決めるプロットを書く仕事で、メインの脚本家を目指す人はまずこのプロットを書く事から始まる。
2010年の朝ドラ『てっぱん』では、寺田敏雄と関えり香と3人で共同脚本の名前に入っている。
2018年、第1作目の『嘘八百』が成功し、シリーズ化した。
特に、第2弾の直後、コロナ禍もあってすぐに製作できない期間が出来てしまった。
その間の2021年、脚本今井雅子、主演・佐々木蔵之介のドラマが、朝日放送で製作された。
『ミヤコが京都にやってきた!』(1月~2月)6回のミニシリーズと呼ばれる長さの連続モノである。
ドラマはバツイチの往診専門の開業医・柿木空吉(佐々木蔵之介)が、離婚して元妻が再婚以来久しぶりにあった娘・宮野京(ミヤコと読む。藤野涼子)と同居するホームコメディである。
京都の名所が数々出てくる。
出番は少ないが重要な脇役が、同級生の酒蔵の当主で登場する淳平を演じる
四代目市川猿之助( 1975年11月26日生れ)である。
猿之助は、前の名跡、亀治郎時代に初めてTVドラマに出演した大河ドラマ『風林火山』(2007年)で武田信玄を演じている。
佐々木蔵之介は、家臣の一人、真田幸隆を演じた。
幸隆の孫の真田信繁が、「なにわ夢の陣」の元ネタである大坂の陣に参戦している。
佐々木蔵之介と市川猿之助はこれがきっかけで親友になった。
猿之助のホームである歌舞伎に出演(スーパー歌舞伎Ⅱ 『空ヲ刻ム者』2014年)するまでになった。
酒屋の若旦那、淳平は
「うちの店は100年しか経っていないから京都では老舗に入らない」
という台詞がある。
これは佐々木蔵之介にちなんだものである。
「創業100年は老舗に入らない」は京都あるあるである。
京都ならではのジョークで、戦後と言えば応仁の乱(1467~1477)をさすとかもある。
ドラマの中でも、20になった娘と酒を飲むシーンがあるが、実に旨そうにお猪口で一杯やるのである。
ではご存じの方もいるだろうが、佐々木蔵之介がお猪口を飲む仕草が様になっている理由がある…。
佐々木蔵之介は、二条城の近くの酒蔵をもつ、佐々木酒造が実家である。
創業は1893年である。
酒屋の跡継ぎは農大で、酒の発酵を促す麹菌の理論を学ぶために入るらしい。
筆者は漫画『もやしもん』で知った。
佐々木蔵之介は神戸大学の農学部を卒業したそうだから、当初は後を継ぐつもりがあったようだ。
在学中から、宣伝の勉強を兼ねて演劇をするようになったが、そちら方にハマってしまい、社会人になってから、広告代理店「大広」に入社し、2年ほど勤務したが芝居の面白さが忘れられず、後を弟に譲った。
実は兄弟は3人いて、長男も後を継がず、3男の晃が現在の4代目当主だそうだ。
しかし、佐々木蔵之介が有名になればなるほど、佐々木酒造も有名になるので、ある意味跡継ぎの一部は担っている。
『ミヤコが京都にやってきた』で、20歳になった娘とお酒を飲むシーンがあった。
芦屋雁之助が歌った『娘よ』の歌詞に出てきそうな、オヤジが嬉しくなるような状況が自然にみえた。
佐々木蔵之介はたまたま、なりたい仕事が見つかって継がなかっただけで、実家が酒造なだけに普通の人よりは酒に愛着を持っているはずだ。
だから、酒を飲むのが旨そうに見えるのだろう。
その佐々木酒造のお酒を、筆者はなんと、オンラインショップで、購入しました!
実は、BS日テレで放送されている『ぶらぶら美術・博物館』の新春スペシャルを観て決めた。
酒の神社、京都嵐山にある松尾(まつのお)大社に
佐々木酒造の酒聚楽第の樽酒が奉納されているのを観たからだ。
「聚楽第が飲みたい!」
これを実現するのは、佐々木酒造で直接購入するのが一番安上がりだ。
検索してみたら、オンラインショップを発見。
送料は880円だが、5500円以上購入すると、送料がかからないので、組み合わせを考えてこうなった。
佐々木酒造のお酒が届きました。 pic.twitter.com/ctq6CC3h33
— 龍女の道楽記 コラム『なんですかこれは』専用アカウント (@asenatamako2021) January 12, 2023
筆者は、千利休の切腹の原因になった木像がある大徳寺の山門が近い、京都烏丸北大路にある大谷大学の卒業生である。
在学中、近所の町屋を改造して居酒屋にした店で底冷えする京都の寒さから体を温めるために、熱燗の日本酒が美味しかった思い出がある。
大好きな日本酒の条件は、お燗にして美味しいが優先される。
佐々木酒造の商品のオプションから、燗をオススメしている
まるたけえびすを選んだ。
写真の右に映っている瓶のお酒だ。
京都の通りの名前を覚える童歌から引用した銘柄の酒が、一升瓶(1800ml)サイズで一番安い。
真ん中が、佐々木酒造で買いたいと思った動機の銘柄『聚楽第』の720mlだ。
聚楽第は映画の題材になった豊臣秀吉の京都の拠点になった建造物である。
今なら、首相官邸と言いたいところだが、私邸に近いだろう。
現在の京都御所と二条城の中間にあった。
1586年から1595年とわずか9年間しか存在しなかった幻の屋敷である。
その広い敷地の西の端の上に佐々木酒造は建っている。
聚楽第とはそういう由来の銘柄である。
左が川端康成(1899~1972)の小説『古都』から頂いた銘柄の一升瓶である。
川端康成の字で揮毫されたラベルだそうだ。
佐々木蔵之介は1968年生れなので、おそらく川端康成とは面識はなさそうだ。
先代か先々代の話なのだろう。
小説『古都』は生き別れた双子の姉妹を描きながら京都の四季も描いた内容である。
筆者も新潮文庫で持っている。
有名なのは、2度の映画化だ。
1963年には岩下志麻(1941年1月3日生れ)主演。
監督は中村登(1913~1981)で松竹製作。
1980年には山口百恵(1959年1月17日生れ)の引退記念の最後の主演映画として作られた。
監督は市川崑(1915~2008)で、東宝製作。
川端康成は大阪出身で、鎌倉に住み、日本美術のコレクターとしても有名である。
川端家はそれなりの素封家であったので、実家には古くからのお宝もあって引っ越す度に持ち出していた様だ。
川端康成は10代半ばで孤児になってしまったので、そのお宝が淋しい心を癒していた面もあったようだ。
川端コレクションには、国宝級のお宝もあるそうである。
こちらも『嘘八百』のネタになりそうである。
川端が住んだ鎌倉には佐々木蔵之介を陶芸指導したもう一人のプロット協力者
檀上尚亮がいるらしいので、非常に楽しみにしている。
佐々木酒造の酒が届いた夜、筆者は「まるたけえびす」のお燗を一合、自宅にある梅の描かれた徳利で温めて、飲んだ。
味は、辛口でクリアで飲みやすい。
ああ、冬の京都の町屋で熱燗飲みたいなあ!
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