『サンクチュアリ-聖域-』(5月4日配信開始シーズン1全8話)だ。
あまりにも評判なので、筆者はせっかくのNetflixユーザーだから観てみた。
正直、良くできすぎていて面白かった。
既に色々な人が熱く語っている。
そこで筆者の視点としては、主人公の猿桜(小瀬清)が出来た過程を、知る範囲内のスポ根漫画の歴史を絡めて、分析してみた。
加えて、筆者は父親の影響で大相撲中継を観る機会が多いので、細部の何処が合っていて何処が違うのか?
それも交えて、この作品の面白さを語っていきたい。
さて、Netflix連続ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』とはどんな内容か?
公式から紹介文を引用する。
借金・暴力・家庭崩壊…と人生崖っぷちで荒くれ者の主人公・小瀬清(演: #一ノ瀬ワタル)が、若手力士“猿桜”として大相撲界でのし上がる姿を、痛快かつ骨太に描く人間ドラマ。
世界的な知名度を誇り、1500年以上も日本の伝統文化、神事として継承されながら、未だ神秘のベールに包まれている大相撲の世界。その戦いが行われる土俵は、異常の上に成り立つまさに“サンクチュアリ”(聖域)。
小瀬は、やる気もなく稽古もサボり気味、先輩には盾突きまくり…と手が付けられないクズっぷりだったが、徐々に大相撲にのめり込んでいくことに―。
小瀬を筆頭に、小瀬を筆頭に、相撲愛に溢れながらも体格に恵まれない清水(演: #染谷将太)や、相撲番に左遷された新聞記者・国嶋(演: #忽那汐里)など、生きづらさを抱えた若者たちが土俵の世界を取り巻く人間ドラマと絡み合う。
“サンクチュアリ”(聖域)に翻弄されながら、ドン底でもがく若者たちの熱き“番狂わせ”が今、はじまる。
Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」2023年5月4日(木)より独占配信スタート!
改めて筆者の立場としては
特に主人公の猿桜(本名・小瀬清)(一ノ瀬ワタル)のキャラクター造形を分析するに留めたい。
漫画のスポーツ根性モノ(スポ根漫画)の歴史に基づいて
『SLAM DUNK』(週刊少年ジャンプ連載1990~1996)を起点にしよう。
(『サンクチュアリ-聖域-』の1シーンから猿桜役の一ノ瀬ワタル イラストby龍女)
40代の視聴者を中心に四股名「猿桜」で『SLUM DUNK』の主人公桜木花道を連想した人も多いだろう。
監督の江口カン(1967年7月20日生れ)は、『SLUM DUNK』の原作者
井上雄彦(1967年1月12日生れ)と同い年生まれで学年は1つ下だ。
この2人より年下で、漫画の読者の年代層に当たる脚本家の金沢知樹(1974年1月1日生れ)の方がその影響下は高いだろう。
しかし時系列で観ていくと、『SLUM DUNK』の作者、井上雄彦が影響受けたスポーツ漫画として
小林まこと(1958年5月13日生れ)の『柔道部物語』(週刊ヤングマガジン1985~1991)の存在が大きいようだ。
ボクシング漫画の金字塔の『あしたのジョー』(作画ちばてつや。週刊少年マガジン連載1968~1973)の原作者(高森朝雄名義)でもある梶原一騎(1936~1987)存命中の昭和の終わりまでにスポ根漫画の作劇法は完成した。
その一例がスポ根漫画の60年代の集大成の『巨人の星』(週刊少年マガジン連載1966~1971)である。
漫画の見せ場として魔球が記憶に残る。
対して、『柔道部物語』の大きな特徴は、細部にこだわった正確な柔道描写にある。
実際に努力の積み重ねで上達する現実的な技を絵柄でも分かる仕組みになっている。
そこが、スポーツ漫画としてのリアリティをかなり高くしたモノになっている。
小林まことは、出身地新潟の高校の柔道部に入部していた経験者である。
『巨人の星』の製作陣(原作梶原一騎、作画川崎のぼる)が必ずしも野球経験者ではないのに対して大きな違いである。
主人公が不良の設定は、『あしたのジョー』の主人公
矢吹ジョーの影響下にある。
(『サンクチュアリ-聖域-』と同じ相撲を扱った、ちばてつや(1939年1月11日生れ)が書いた『のたり松太郎』(ビックコミック連載1973~1998)の主人公の坂口松太郎の影響の方が直接的。
しかし、不良が主人公のスポ根モノくくりで『あしたのジョー』の延長上である)
昭和の終わりから平成になるとスポ根漫画は細分化された。
作者は、実際に描かれるスポーツを中学高校時代に経験している。
そんな漫画がヒットし始めた。
ストーリー漫画の創成期の昭和20年代後半からスポーツの経験者が書くことはあったようだが、大ヒットまでに至っていない。
昭和の終わりに、リアリティーの方が重視されて、ヒットする時代の流れに乗った。
井上雄彦が描いた桜木花道は初心者から上手くなっていく。
その過程を丁寧に描くことによって、マイナースポーツで見方が分からなかった読者をやるやらないにかかわらず夢中にさせるきっかけを作ったのだ。
つまり、『SLUM DUNK』は
解像度の高いリアル志向のスポ根漫画の代表作である。
更に解像度を高めるには、実在の選手のモデルをヴィジュアルイメージに持ってくるのが近道になる。
『SLUM DUNK』では、NBAの選手デニス・ロッドマン(1961年5月13日生れ)が主人公の見た目のモデルである。
『サンクチュアリ-聖域-』の主人公小瀬清の見た目のモデルは
恐らく千代大海(1976年4月29日生れ)ではないかと考える。
江口カン監督の故郷福岡のすぐ隣の大分のヤンキーだったからだ。
小瀬清は相撲界に入る前は柔道経験者だった設定も、千代大海に一致するからである。
ちなみに本格野球漫画の金字塔の水島新司(1939~2022)の『ドカベン』(週刊少年チャンピオン連載1972~1981)の主人公でキャッチャーの山田太郎の中学時代は、柔道をやっていた。
一方で、オーデョションで選ばれた元総合格闘家の俳優一ノ瀬 ワタル(1985年7月30日生れ)のティーン時代に合わせて、普段の服装はB-BOYファッションに変化している。
時代の変化に応じて不良のファッションも変わっているのは細部の領域なのでこの辺に留めておこう。
ただし、リアルでなかった時代のスポ根漫画を含めて、ジャンルの大成者の梶原一騎が空手と柔道の経験者であった。
それを考慮すると、格闘技がスポ根漫画で描かれる具体的なスポーツの王道と言えるかもしれない。
さて、この『サンクチュアリ-聖域-』は、これまで実写映像作品では真正面に取り上げて来なかった大相撲(プロの相撲)を八百長問題や大口のスポンサーであるタニマチを含めて社会構造的に描いた作品でもある。
その為に、日本相撲協会の協力を得てはいない。
本編中の協会名も日本大相撲協会と架空の団体名になっているので注意が必要である。
特に、クライマックスの本場所の取組が行われる土俵に向かう両国国技館の内部は、セットで組まれた本物に近い美術である。
しかし、筆者から観た細かい所を言おう。
実際の土俵の周りに比べて席の床の色が実際と異なっている。
色味が薄く、全体の寸法も実際より狭く作られているようだ。
相撲部屋の様子はかなりリアルで実際に行ったことはなくてもドキュメンタリー映像で観た様子とそっくりなので間違いないだろう。
全体の考え方の雰囲気は数年前までの相撲界の旧態依然とした世界観なので、現実とは微妙なズレがある。
だがそれを補う力士を演じる俳優の肉体改造は、リアルそのものだ。
出演者の中に本物の元力士を交えている。
(兄弟子の猿谷役は元・千代の眞の澤田賢澄、ライバルの静内役は元・飛翔富士廣樹の住洋樹)
稽古の仕方もそれに合わせて主人公が変化していく過程は台詞以上に映像の説得力が半端ないのである。
これは相撲指導に、力士から転向した元プロレスラーで現在は飲食業の
維新力浩司(1961年1月24日生れ)が入っているのが大きいようだ。
映像の方でも、スポーツに関わったことのある当事者が納得できる映像の方が、素人である視聴者も物語に入り込める時代になった。
遠くから観ても分かるの派手な見せ方よりも、登場人物の肉体に寄った地味だが精密な見せ方が視聴者を満足させる時代のど真ん中に入ってきた。
解像度の高い4Kのドラマの1つの方向性を見いだした。
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