押切蓮介先生によるゲームラブコメディ『ハイスコアガール』が7月13日からアニメ放送されます。

同作品は、古き良き格闘ゲームブームが到来した1990年代を舞台に、火付け役となった『ストリートファイターII』(以下、ストII)に登場するガイルを使う主人公・矢口ハルオ(以下、ハルオ)と、ザンギエフを使うヒロイン・大野晶(以下、晶)の因縁を描いた物語です。


アーケードゲームを中心に話が展開され、『ストII』以外にも同時代を彩った『サムライスピリッツ』『ヴァンパイア』なの格闘ゲーム、『ファイナルファイト』『スプラッターハウス』などのアクションゲーム、さらにはアーケードだけでなく家庭用ゲームも多く登場。アニメでも実際にゲーム画面が映し出されるなど、許諾取りの労力を惜しまない注力ぶりに大きな期待が持てます。そんな本作の魅力を登場するゲームと一緒に紹介します。

■独自の世界観で多様な作品を描いてきた押切蓮介の思い出が反映

著者の押切蓮介先生は、独特な絵柄でこれまで多様な作品を描いてきました。特に『でろでろ』に代表されるように、ホラーギャグというジャンルを切り開いたことでも知られています。

大のゲーム好きで、過去には幼少時のゲームに関わる体験を漫画化した『ピコピコ少年』を発表。
その後の『ハイスコアガール』は実体験を活かしつつも、自身を投影していない第三者の主人公と理想の女の子の交流を通して、多くのゲーム好き読者に共感してもらえる作品に仕上がっています。

■主人公が言葉を発さないヒロインとゲームを通して関係を育んでいく

小学6年生の主人公のハルオは勉強と運動はからきしですが、すば抜けたゲームの腕前を持ち、毎日のようにゲームセンター通いに明け暮れます。そんなある日、行きつけのゲームセンターで、得意の『ストII』で7連敗もした相手がクラスメイトの晶だと気付きます。

成績優秀で皆から慕われるお金持ちのお嬢様である晶。ゲームセンターに不釣り合いに見えて自分を上回る腕前を持つ相手に、引き下がれないハルオは絶対に勝つために秘策を持って再戦を挑むのでした。この出会いが二人の因縁の始まりで、以後は中学編、高校編と進んで行きます。


・矢口ハルオ
典型的なゲーム脳の持ち主で、24時間365日ゲームのことしか考えていません。勝利のためならハメ技もいとわない卑劣さを見せますが、ゲーム上達のためのあらゆる努力を惜しまない。ゲームセンターこそは自分の聖域だと思っているため、縁遠い世界の住人だと思っていた晶に対しては、土足で踏み入られたように感じて快く思っていなかったのですが…。男友達には人気があり、母親も自慢の息子と言うなど、実は人間的にまっすぐで親孝行です。ゲームだけ人が変わるようです。

・大野晶
ハルオが努力の秀才タイプだとしたら、天然の天才と言えるのではないでしょうか。
親の教育が大変に厳しく、放課後や土日はあらゆる教養を身に付けるため専属指南役・業田萌美による勉強、ピアノ、茶道、武術といった英才教育を受けます。そのため、仲が良い友人がいなく、唯一の気晴らしが、こっそり抜け出してのゲームセンター通いでした。

無表情でいることが多いのですが、仕草の一つ一つが可愛い。だたし、怒りに関しては表情だけでなく態度(=暴力)にもすぐ現れます。凶暴で男子顔負けの戦闘能力を持っており、ハルオもしばしば怒らせて殴られています。言葉を発することがほとんどないため、アニメ化において声優の鈴木紗弓さんがどんな表現をするのか楽しみです。


■守護霊はガイル!?ゲームキャラクターが語りかける

本作では登場人物たちの心情をゲームキャラクターが代弁することが多く、ハルオが『ストII』で愛用するガイルは守護霊のようにいつも見守ってくれています。ハルオが迷ったり、不安になったりした時に、励ましたり導いたりしてくるのですが、本作独自の性格に解釈されつつもゲームにちなんだユーモアたっぷりな描写が楽しめます。

また、勉強を優先してゲームを子供から遠ざけたい親目線だと、ゲームセンターは不良のたまり場と見られる向きがあったことを逆手に取り、ハメ技を繰り出されて怒る人、負けて我を見失う人など、トラブルをデフォルメ化してブラックユーモアに昇華しているのも見所です。

■ハルオや晶たちが絆を結んでいくゲームを一挙紹介

・ストリートファイターII
カプコンが1987年に開発・稼働した『ストリートファイター』の正当続編で、1991年にアーケードゲームで登場して爆発的なヒットを記録しました。これまでナンバリング作品だけでなく、関連作品やクロスオーバー作品も多く発売、さらには漫画、アニメ、実写映画と幅広いメディアミックスも行われてきました。現在は『ストリートファイターV』が発売されており、世界各地で大会が開催されています。
また、プロゲーマーも活躍する時代になりました。

1991年代は、設置されている筺体の大半が『ストII』のゲームセンターが現れるなど、インベーダーゲームブーム以来の盛り上がりを見せました。完成度は非常に高く、その後も『ストリートファイターII’』(1992年4月)、『ストリートファイターII’ TURBO』(1992年12月)、『スーパーストリートファイターII』(1993年10月)、『スーパーストリートファイターII X』(1994年3月)、『ハイパーストリートファイターII』(2004年)とバージョンアップが繰り返されています。

『ストリートファイターIII』が開発・稼働したのは1997年2月だったため、それまでは「いつ発売するんだ?」という声もあり、『ハイスコアガール』でもその度々取り上げられています。

・サムライスピリッツ
1993年にSNK(旧社)が発売した江戸時代を舞台とした対戦格闘ゲーム。徒手空拳で戦う従来の格闘ゲームと異なり、刀などの武器を用いて戦うことが斬新で人気を博しました。
真剣勝負であるため、決着後に遺体を黒子が運ぶなど「負け=死」という演出も緊張感があり、命を賭けて戦う侍や忍者、騎士など様々な武芸者が登場。とくにアイヌの巫女であるナコルルとリムルルは大きな人気を呼び、たくさんの人に現代のアイヌ民族への関心を持たせました。

・ヴァンパイア
カプコンが開発した対戦格闘ゲーム『ヴァンパイア』シリーズ。1994年7月にカプコンより第1作『ヴァンパイア』がアーケードゲームとして出荷されました。本作に登場するプレイヤーキャラクターたちは、ほとんどが吸血鬼や狼男、サキュバスなど伝承上のモンスターです。

また、本作では従来のドット絵からアニメ絵での表現手法を用いるという大きなチャレンジがされています。チェーンコンボやガードキャンセルなど特徴的な戦闘システムも戦略性を高め、多くのプレイヤーを夢中にさせました。

やはり何と言っても、サキュバスのモリガンやリリス、キョンシーのレイレイ、猫娘のフェリシアなど魅力的な女性キャラが多く登場したこと。それまでの格闘ゲームと比べて女性プレイヤーキャラクター率が高めな印象を受けました。筆者もそれまでは男性キャラクターしか使わなかったのですが、本作では迷わずモリガンとリリスを選択しています。

・バーチャファイター
セガ(後のセガ・インタラクティブ)が1993年に開発・稼動した対戦型格闘ゲーム。3D格闘ゲームの原点にして金字塔です。当時最先端であった3Dによるアクションは多くのプレイヤーを驚かせました。従来の格闘ゲームよりもシンプルなボタン操作にしたことにより、打撃・投げ・ガードの三すくみの奥深い駆け引きによる攻防を確立しています。

当時は2D対戦格闘ゲーム全盛期だったために人気が出るまで時間がかかりましたが、1994年にはセガ主催の公式全国大会「バーチャファイタートーナメント大会」が開催されるなど、ゲームの完成度の高さが高評価されました。1994年11月に発売された家庭用ゲーム機・セガサターンに移植され、目玉作として多くのプレイヤーの購入を促進しました。

■ゲームを通して異性と仲良くなるのは叶えたい夢

インターネットの普及で、最新ゲームの情報は気軽に手に入り、家庭でも対人戦が行える現在。1990年代にゲームセンターで遊ばなかった世代だと、50円や100円を握り締めて対戦格闘ゲームを遊ぶ機会はないかもしれません。

しかし、当時ゲームセンターで遊んだほとんどの少年少女にとっては、ゲーム業界の最先端を知ることができたのはゲームセンターでした。また、相手と向き合って戦う対人戦を通して築ける人間関係もそこには確かにありました。そんな顔と顔を合わせてゲームをする良さを伝えてくれるのが『ハイスコアガール』なんです。改めて、人と人を繋ぐゲームは素晴らしいと思える作品です。何より、ゲームを通して異性と仲良くなるのはまさに理想的展開ですよね。