この日行われたのは、人気VTuberの"ときのそら"と"銀河アリス"が出演するARライブイベント「TUBEOUT!(チューバウト!)」。
「TUBEOUT!」とはバルス株式会社が実施するARライブイベントの総称で、そのvol.1となる本ライブもARならではの演出に加え、スマホを用いてリアルタイムに観客がライブにアプローチできるシステムが施された画期的なライブでした。バーチャルタレントとファンが全く新しいコミュニケーションで繋がったその様子を、本稿でご紹介しましょう。
開場時刻18時30分前のタワーレコード渋谷店は、既にファンが列をなしており、会場受付前にはファンや関係者からのフラワースタンドがズラリ。物販ブースで販売されていたときのそらと銀河アリスのコラボグッズは、Tシャツとロングタオルといった半分以上のグッズが開場直後に売り切れ、その注目度の高さを物語ります。
開演前の会場では、ゆかりのあるVTuberたちから寄せられた応援ビデオメッセージがリピート上映されており、来場者の高揚感をますます煽っていきます。その顔ぶれも虹乃まほろ、かしこまり&パンディ、インサイドちゃん姉妹、Alt!!、ロボ子さん、天神子兎音、ウェザーロイドAiri、響木アオ、MonsterZ MATE、奏天まひろ、東雲めぐ、AZKi、YuNi、富士葵と非常に豪華な内容。会場からは「推しが(推しを)推してる…」や「てぇてぇ…(尊い)」など、俗に言う“沼にハマった者たち”の声が静かに響いていました。
開演時間が目前になると 、演者二人と共演経験のある天神子兎音からの天の声が。“ポンコツ噛み様”と親しまれる彼女らしい語り口で、ライブの撮影についての注意と、ライブ用に配布されたQRコードについての説明がされます。
ちなみにそのQRコードは入場時に来場者一人ひとりに手渡しされたもので、コードを読み込むと、開演準備中の段階ではミニゲームが遊べました。思いのほか操作が難しく、会場には高得点を叩き出して喜ぶ方の姿も。そしてこのQRコードは、後にオーディエンスと演者をつなぐ大切なキーになります。
会場が暗転し、沈黙に包まれたと思われたや否や……。
一曲目「スイートマジック」のイントロと共に、画面中央が一気にライトアップされ、ときのそらが登場すると場内のボルテージは瞬く間にUP。オーディエンスは即座に青のサイリウムを照らしてリズムに乗ります。
歌いながら踊り、ステージを縦横無尽に隅々まで動き回るときのそら。曲間では観客を盛り上げながら「今日はアリスちゃんと2人でこんな素敵な場所でライブができるなんて、もう最高です!」とコメントをしていました。眼前で活き活きとパフォーマンスを見せる彼女は、確かにスクリーンに投影されたものなのですが、そこに作り込まれた映像作品を見せられている感覚はありません。ステージ上の演者と観客が双方向にコミュニケーションを図る。それはまさしく生ライブでした。
そして、歌い終わると足早にステージの下手に捌ける彼女。一般的なライブであれば、特筆することもない普通のことなのですが、歌とダンス、曲間MC煽り、捌けまで違和感なくスムーズにシンクロしていることに、筆者は映像技術の発展を感じました。幾度となくCUTUP STUDIOでのリリースイベントなどを拝見してきたのですが、(生身のアーティストと比較すると、ステージの前方にスクリーンが設置されているため奥行は違えど)ほぼ等身大で実際にそこにいるかのような臨場感。
続いては銀河アリスがステージ上手から登場!センターポジションにスタンバイし、アリスの「ごきげんようです、地球人類さん!」の一声でステージがライトアップすると、イラストレーター・p19氏デザインの新衣装に身を包んだアリスの姿に観客は歓喜しました。
今や6000人を超すというVTuberの中でも、“踊りが上手いVTuber“として知られている銀河アリス。ライブでも惜しみない踊りっぷりを披露しますが、リアルタイムのライブでもレイテンシーやカク付きなく、ステージ上で腕がツインテールに埋まることもなく動いていました。
筆者が感じた違和感を強いて挙げるなら、現実ならあのスタイルあの衣装であれだけ踊るとバストが超痛くなりそう……といったところでしょうか。いい塩梅の“あるあるねーよ感”もVTuberライブの良さだと感じましたね。
銀河アリスが歌い終えると、ときのそらがステージに再登場。この時アリスがそらを迎え入れるのですが、なんと2人が手を繋ぐのです。てぇてぇ……!ただでさえ普通のライブでもメンバー同士のイチャイチャはテンションが上がるのに、バーチャルな存在の2人にこうも自然にキャッキャされると……!!
MCで来場者への感謝の言葉を伝えて、会場から弾けんばかりの声援が上がると、「うわー!すごい!」と驚きとよろこびが混ざった様子を見せる2人。しゃべりながら息が切れているのがリアル。ライブでの動きもすごかったのですが、このMCでの生のやり取りは、彼女たちの実在感がさらに顕著に現れ、会場まで会いに行きたくなると感じる何かがあると確信させます。「みんなで楽しく盛り上がりたい!」と笑顔で答えるそらと、「会場の皆さんのお顔を1人ずつ覚えて行きたい」と答えるアリス。
Twitterで「#チューバウト」のハッシュタグで参加していた観客からも"どうなっているのか"、"どう見えているのか"と興味が沸いている様子が垣間見え、会場とLINE LIVEの視聴者に向けて「どこから観ていても楽しめるようにしていくよ」と言葉を投げるときのそらを見て、ひたすらに未来を感じます。
そして、ここからARライブの醍醐味でもある、スマホによる観客とのコミュニケーションで行う企画コーナー「そらリス意識調査」が開始。前述したQRコードにリンク先から「YES」「NO」で返答する意識調査に参加できる仕組みになっており、投票への参加を来場者限定にすることで、LINE LIVEの観客との程よい差別化を果たしていました。
ただ1つ問題点があったとすれば、地下で300人満員の会場はスマートフォンの電波が非常に繋がりにくくなっており、会場では「圏外」「繋がらない俺の代わりに頼んだ」という切ない声がチラホラあったことでしょうか。実際筆者の携帯キャリアも、入場が進むにつれ電波が4Gから3Gになり、開演でドアが閉められてからは圏外になってしまいました。幸いキャリアWi-Fiが飛んでいたため参加はできましたが、周りでも自前Wi-Fiを取り出すも繋がらず何度もリロードされている方もいたため、特に地下の密閉会場が多いライブハウスでは、電波状況は今後乗り越えるべき課題となりそうです。
「そらリス意識調査」では、そらとアリスが会場に「YES」「NO」で答えられる質問をそれぞれ3回していき、質問が進むごとに「YES」の人数を減らしていくという、そらリスの質問の選択能力が試されるゲームでしたが、質問の内容と結果は下記の通り。
そらとアリスのチャンネルに登録している(90%)→今日グッズを買った人(74%)→初めてライブに来た(25%)→食パン食べてきた人(12%)→家族の名前に"そら"が付く(2%)→UFO見た(11%)→【再挑戦】女の子(6%)
UFOを見たことがある方がたまたま会場に多くいた以外は、減り幅の大小あれど最後まで順調に減り、まさに“みんなで作るLIVE”を体現するかのような、会場一体で大いに盛り上がる企画になりました。筆者はMC回しが上手なアリスと、ほえほえなそらに癒されっぱなし。
「意識調査」後はお待ちかねのライブパート再来。
そらとも(ときのそらのファンの総称)一同が待ちわびていたナンバーとあって、さらに会場のボルテージが上がります。
盛り上がりはこれに留まりません。続いて流れた曲は、誰もが初めて聴くメロディアスなイントロ。LINE LIVEの観客が見せていたざわつきの通り、新曲「海より深い空の下」の初お披露目です。しっとりした旋律に合わせて、サイリウムの光が揺れていました。
続く銀河アリスは、12月14日にSpotifyなどで配信が開始された初のオリジナル曲「Someday Someday」を披露します。普段のアリスの元気なイメージと、Coffee Creamersが繰り出すオシャレなビートとのギャップが心地よく、ダンスが得意な彼女の個性が際立つ、まるで洋楽アーティストのようなステージ。曲終わりのセリフ「もしもし聞こえますか?」を再現するも、思わず聴き入ってしまいノーレスポンスのお客さんに対し「聴こえてるんですかー!?」と後押しするシーンも。
銀河アリスの後半2曲目もサプライズ。ときのそらと同じく、本日初披露の新曲「Brand New Days」を披露しました。
「Brand New Days」の振りはなんとバレエダンスインスパイア。曲調も「Someday Someday」に続き、曲間のコールや振りコピなどが定番化しているこの界隈の楽曲には珍しい音数の少ないBPMが落ち着いたもので、そこにアリスの創作バレエダンスが映画『Save the Last Dance』さながらに乗る、ステージで完成するひとつの作品を魅せられたような気分になりました。曲のテンポは落とし目でも、アリスのダンスはキレキレなのです。(曲前にアリスが出した音に対してお客さんから上がった「鼻すすり助かる~!」に笑いもしましたが……お客さんは見逃してくれなかった。)
ただこの時、筆者は2人のダンスと歌といった“動き”に安心感を覚えてしまったからか、さらに"ライブとして楽しみたい"という欲が出てきてしまい、気になる点が出ていました。
例えば、オリジナル新曲を歌詞に注目して聴いていたのですが、歌っている歌詞とステージ上の2人の口の動きが合っていない。ここで一気に現実に引き戻されてしまう感じがあり、少々もったいなく思いました。色んなライブに足を運び、その際ボーカリストの発声や口の開け方を見るのが好きな、歌う表情フェチの筆者としては、ここにどうしても物足りなさを覚えてしまう。細かい表情や口の開け方の差を出すまでは難しいとしても、休符では口を動かさない、多少母音の形に合わせるなど、歌詞が決まっているものに関しては口のパク付きを合わせることは実現可能だと思うので、特にテンポがゆっくりの曲は次回に期待したいところです。
あとは自身が演者としてステージに立つときに気を遣うポイントのひとつなのですが、目配りが気になりました。
歌い終わるといつもの銀河アリスに戻り絶叫。ときのそらも舞台に戻りハグ。そらは「未練レコード」も今回がライブで歌うのは初めてだったこと、そしてロックテイストで今までにない格好いい部分を出しつつ、前向きな歌詞が注目ポイントの「海より深い空の下」は近日中に動画もアップロードされると告知します。
※「海より深い空の下」動画は12月18日に公開された。
対して、アリスは新曲を秘密にしておくことが大変だったことと、「Someday Someday」では気持ちを込めるために地球人類さん(アリスファンの総称)の今までのコメントを振り返り、一人ひとりの名前を想い収録に挑んだことや、「Brand New Days」ではバレエの振り付けと、歌詞で見せる弱い一面や、みんなのそばにいることを身近に感じでほしいと語りました。
MCが明けると再びときのそらがライブオンステージ。歌う前に、見えない魔法の水で喉を潤わせ「お水助かる~」コールを観客から受けてから、ボカロならではの最高音hihiCの楽曲「太陽系デスコ」を披露。そらともの合いの手も最高潮に達します。最後の曲は銀河アリスもステージに飛び込んで、初音ミクの「ダンスロボットダンス」。“UP SIDE UP SIDE DOWN UP SIDE DOWN SIDE UP AND DOWN”の部分は、もはや大合唱の様相を呈していました。
LINE LIVEの放送はここまで(ライブ開始時点での視聴数は開場収容数の300名を大幅に超え7,000人を突破。最終的には25,000人を超えていました。)終わりを惜しみつつも、ときのそらが「Vol.1っていってるから!ワンってことは……」とアリスに振ると「スリーもある!」とボケ倒し。そのボケに来場者・LINE LIVE共に観客が全力でツッコみつつ、そらともと地球人類さん(銀河アリスのファンの総称)への感謝の言葉で締め、リアルタイムARライブ「TUBEOUT!」 Vol.1のライブ本編は終了しました。
もちろん、ライブ会場の方はこれで終わりではありません。アンコールが巻き起こり、しばらくして颯爽と登場したのは……。
なんと子兎音さま!そう、アンコール1曲目はなんと応援メッセージと案内ナレーションにも登場していた天神子兎音がサプライズ登場。持ち歌「フーアーユーなんて言わないで」を披露しました。突然の登場にも関わらずファンの「子兎音!子兎音様!」コールは完璧で、VTuber界隈の対応力の高さを感じさせます。
歌い終えた子兎音の元にそらとアリスが駆け寄り、思わず「ありがとうございやした!」と噛んでしまった子兎音にすかさずツッコむアリス。
さらにアンコール最後の曲は、3人でTVアニメ『マクロスΔ』の人気ナンバー「いけないボーダーライン」をカバーし、突然の豪華コラボレーションに観客は大喜び。
曲終わりの「楽しかったね!」の呼び掛けに「最高!」と絶叫する観客。天神子兎音が退場した後は、1分間でオーディエンス参加のプレゼント企画があり、ときのそらの「またライブしたら観に来てくれる?」の問いに来場者が全力でリアクションを返します。終演後、誰もいなくなったステージに向けて、自然と巻き起こる拍手。約2時間のARライブは、これにて終了となりました。
どちらに優劣があるという訳ではないのですが、VTuberは、ライブで同じようにスクリーン上の存在であるVOCALOIDと一見似たようなものに見えて、よりヒトの息遣いがあり、高度な実体感があります。違和感を与えないレベルでライブをするにはかなり高い技術を要し、トラブルへのリスクヘッジも大変ですが、逆に言うと環境さえ揃っていればどこでも、どこからでもオーディエンスと繋がれることを意味しており、技術は向上する一方であろうことを考えても、さらなる可能性を秘めていることは間違いありません。
また、生身の演者は環境や人生のステージ的な要素にどうしても左右されがちですが、VTuberの場合、健康面などに問題がなければ気持ち次第で続行でき、場合によってはある意味ガチャピンのように担当によってクラスチェンジをしたり、インサイドちゃんMark2のようにほぼ容姿を変えずに2代目、3代目といった踏襲も可能です。もちろん付いて来てくれるファンの変化はあると思いますが、個のコンテンツを未来永劫に続けられるという意味で、最強のアイコンになり得ると筆者は感じました。現状ほとんどのVTuberは、YouTubeなどの動画プラットフォームでの配信が活動の中心になっていますが、このライブのようなAR技術が拡散してさらに大勢の活躍の幅が広がってほしいですね。
ちなみに、終演後は対象チケット購入者に向けて、1対2で話せてチェキの撮影ができるミート&グリートも行われていました。インタラクティブにキャラクターと繋がれるこれもVOCALOIDとは違うバーチャルタレントの魅力であり、ライブイベントの未来を象徴していました。
【イベント概要】
イベント名: 【TUBEOUT! Vol.1】~ときのそら・銀河アリス~
YouTubeの世界から飛び出して、歌って、踊って、トークで盛り上げる90分間。
日時: 2018年12月17日(月)18時30分 開場 / 19時30分 開演(予定)/ 終演 21時
会場:タワーレコード渋谷店 B1F CUTUP STUDIO
出演:ときのそら、銀河アリス、天神子兎音(シークレットゲスト)
【セットリスト】
ときのそら「スイートマジック」(ボーカロイド曲 カバー)
銀河アリス「侵略ノススメ☆」(ULTRA-PRISM with イカ娘(金元寿子) カバー)
銀河アリス「太陽曰く燃えよカオス」(後ろから這いより隊G カバー)
<企画「そらリス意識調査」>
ときのそら「未練レコード」(オリジナル・ボカロPコラボ第1弾 ときのそら×40mP)
ときのそら「海より深い空の下」(オリジナル・未発表初出)
銀河アリス「Someday Someday」(オリジナル)
銀河アリス「Brand New Days」(オリジナル・未発表初出)
ときのそら「太陽系デスコ」(ボーカロイド曲カバー)
ときのそら「ダンスロボットダンス」(ボーカロイド曲カバー)
<アンコール>
天神子兎音「フーアーユーなんて言わないで」(オリジナル)
ときのそら、銀河アリス、天神子兎音「いけないボーダーライン」(ワルキューレ カバー)
■「ときのそら」 とは
2017年9月から活動を開始し、2018年12月時点でチャンネル登録者数は20万人。
今年5月には衣装が新しくなり、アイドルに向かって1歩ずつ成長中。
歌とピアノとホラーゲームが大好きで、歌ってみた動画やホラーゲーム実況動画が人気。苦手なものは虫と暗記もの。
親友かつ裏方担当の「友人A」とクマのぬいぐるみ「あん肝」と一緒に活動中で、生放送はファンとのふれあいの場として大切にしている。
夢は一人前のアイドルになって横浜アリーナでライブをすること。そのために色んなことに日々チャレンジしているが、コンビニ店員の真似や食レポ、10秒ピッタリでストップウォッチで止めるチャレンジなど、脱線気味なことも多い。
ときのそらチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCp6993wxpyDPHUpavwDFqgg
■「銀河アリス」 とは
2018年5月から地球人類を幸福にするためにやってきた侵略宇宙人。2018年10月現在でチャンネル登録者数は1万7千人。
相方のアシスタントの猫型ロボット(クロ、アオ、オレンジ、イエロー、ミケ...他多数)と共に、「カレー」「野球」「ロックフェス」「忍者」等、毎回様々なテーマで地球のことを学んでいる。
地球に関する知識があまりにも無いため、クイズは苦手だが、ダンスは大得意である。
侵略活動以外でもゲーム実況や「激甘ペヤングを作って食べる」などいろんな事に挑戦している。
Twitterでたまに呟かれる不穏なメッセージから読み取れる隠された背景にも注目!
銀河アリスの地球侵略ch.:https://www.youtube.com/channel/UCT1AQFit-Eaj_YQMsfV0RhQ
■著者紹介:アネモネ・モーニアン愛称 アニモ。元チェキッ娘によるガールズバンド「blue chee's」にキーボードボーカルとしてオーディション加入し活動開始。解散後は、作曲家 伊藤賢治・上倉紀行との音楽ユニット「Trimonia」のボーカルや、小寺可南子とのツインボーカルユニット「コテアニ」として活動中。
Twitter:https://twitter.com/animo_miyusic