直観的な操作を可能とするリモコン型コントローラや、幅広い年代層も視野にいれたソフト展開などで、世界的なヒットを遂げた家庭用ゲーム機・Wii。そのため、子供向けといったイメージを持つ方もいましたが、ラインナップを見ると決してそんなことはありません。


例えば、ギミックを散りばめた塔への攻略に対して、“ヒロインの変質”というユニークかつ過激な描写による時間制限を敷いた『パンドラの塔 君のもとへ帰るまで』や、後に登場したPS Vita版も好評を博した爽快アクション『朧村正』、見上げるような巨人を相手に斬撃を振るい、唯一無二の醍醐味を味わえる『斬撃のREGINLEIV』など、コアなゲームファンに訴求するタイトルも数多く存在し、Wiiを大きく賑わせました。

2007年に発売された『NO MORE HEROES』も、そんなソフトのひとつ。殺し屋のトラヴィス・タッチダウンが上位10名のランカーに立ち向かい、殺し屋同士の鎬を削る戦いを繰り広げる本作は、独特のセンスに溢れた世界観や台詞回しなど、いずれをとっても非常に個性的。特に海外で高い評価を博し、熱心なファンを数多く生み出します。

『NO MORE HEROES』は後に、PS4やXbox 360にも展開したほか、Z指定の『NO MORE HEROES RED ZONE Edition』もリリース。また2010年には、続編となる『NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE』が発売されるなど、シリーズ人気の根強さを窺わせます。

ですが、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズの展開はこの続編で一区切りを迎えたのか、しばらく音沙汰のない状態が続きます。その沈黙は2017年に破られ、『Travis Strikes Again: No More Heroes』(トラヴィス ストライクス アゲイン ノーモア★ヒーローズ)を正式に発表。幻のゲーム機「Death Drive MK-II」にトラヴィスが吸い込まれてしまうという、驚きのストーリーも明かされました。

そして、2018年12月20日に配信日が発表され、約1ヶ月後となる2019年1月18日に配信開始。新たなトラヴィスの物語が、任天堂の最新ハード・Nintendo Switchに登場しました。一作目の発売から12年の月日を経てリリースを迎えた本作は、初代や続編とは少々異なっており、販売形態もダウンロード版のみ。
(※パッケージとシーズンパスがセットになったバージョンもありますが、こちらもカートリッジは付属せず、ソフト自体は送付されるダウンロードコードで入手)

過去のシリーズ作とはひと味違うだけに、これまで『ノーモア★ヒーローズ』シリーズを遊んだファンも、購入するか悩んでいる方もいることと思います。そこで今回は、本作を実際にプレイして得た感覚や『ノーモア★ヒーローズ』らしい特徴に迫るプレイレポをお届けしたいと思います。なお本記事では、ステージ3までの内容について触れており、<Font Color="#ff0000">軽度のネタバレ</Font>も含まれますのでご注意ください。

◆「なんだメタクリのスコアが怖いのか?」──なんでもネタにする貪欲さと、トラヴィスならではの言葉が交互に刺さる

本作の時間軸は、『NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE』から数年後となっており、地続きの関係にあります。しかし、トラヴィスが置かれている状況はこれまでと少々変わっており、アメリカ南部の片田舎にあるトレイラーハウスで生活。仕事も休業状態のようです。

半ば隠居のような暮らしを送るトラヴィスですが、殺し屋として生きてきた彼に、そう易々と平穏な日々は訪れません。一作目に登場した「バッドガール」の父・バッドマンが、娘を殺された復讐を果たすべく、トラヴィスに襲いかかります。

幕開けからスピーディな展開となりますが、応戦しながらも「ゲーマーの世代も変わっているんだ、俺の自己紹介くらいさせろよ」と、語るトラヴィス。久しぶりの新作ゆえか、配慮する様子が窺えます。が、バッドマンは「ゲーマーに媚びてんじゃねーぞ」と怒り心頭。冒頭から、実に『ノーモア★ヒーローズ』らしい応酬が繰り出されます。


そんな二人の傍らにあったのは、幻のゲーム機「Death Drive MK-II」。おそらくトラヴィスの持ち物だったそれは、「デスボール」と呼ばれる様々なゲームソフトに直接ダイブしてプレイできる、画期的なゲームハードです。乱闘の最中に作動してしまった「Death Drive MK-II」が、トラヴィスとバッドマンをゲームの世界へ引きずり込み、セットしてあったひとつ目のゲーム「Electric Thunder Tiger2」が始まります。

ここからは、アクションパートがスタート。これまでのシリーズでは、TPSのような第三者視点がメインでしたが、本作では見下ろし型のアクションに変更。視点が持ち上がったことで全体を見渡しやすくなり、広いフィールドを素早く移動する立ち回りなどが可能となりました。

一見すると、これまでの『ノーモア★ヒーローズ』と大きく異なるように見えますが、過去作のランキング戦の道中では雑魚が立ちはだかっていました。この雑魚と戦う部分が、本作のアクションパートに相当します。最奥には各ボスが待ち構えており、実のところ過去作と近しい構成と言えるでしょう。

ボスを倒すと、「Electric Thunder Tiger2」から無事に脱出。そしてどうやら、「デスボール」を集めると願いを叶えることができるらしく、バッドガールを生き返らせるためにトラヴィスとバッドマンの共闘が始まります。ちなみに、プレイヤーキャラクターとしてバッドマンも選択可能。
2人同時プレイもできますし、操作キャラをバッドマンに切り替えることもできます。

一度クリアしたゲームには何度も遊べるので、クリアランクの向上を目指して挑むのもアリですが、先に進むためには新たな「デスボール」を入手しなければなりません。そのためのモードが、ADVパートです。

ADVパートでは、ファミコンから更に遡り、マイコン時代のレトロ感を匂わせるグラフィックとテキストで物語が進行。トラヴィスが、「デスボール」を入手するまでの過程を描きます。基本的に読み進めていくだけなので、ノリのいいセリフ回しに集中して楽しめます──が、「『ノーモア★ヒーローズ』ファンとしては、アクションを楽しみたい!」という声もあることと思います。

そんな意見もあらかじめ見通しているのか、2つ目のデスボール「Life Is Destroy」
を探しに行くパートでは、「多くのゲーマーはアクションゲームを期待して、このゲームを買って遊んでいるんだ」と、ADVパートの相棒・ジーンが警告を発します。対するトラヴィスは「なんだメタクリのスコアが怖いのか?」と、こちらも挑戦的な返答。しかし、「シリーズが終わっていいの? 念願のナンバリング3は消えて無くなる」と、辛辣なコメントで更に畳み掛けました。

その結果、ひとつめのADVパートと比べると格段に短いダイジェスト版を展開。サクサクと物語が進み、無事新たなデスボールをゲット。「…こんな感じでいいか?」と確認するトラヴィスに、「上出来だ! 丁度いい分量だった」と太鼓判を押すジーン。
これで『3』への望みが繋がるなら、一ファンとしても嬉しいところ。この効果でメタスコがアップしたかどうかは定かではありませんが、こういったクセの強いやり取りも『ノーモア★ヒーローズ』らしさを感じる点のひとつです。

ちなみに今回も、ボスクラスの敵と向き合う時は会話を交わし、そこから背景やトラヴィスの思考などが浮き彫りになることも。しかし、ボスたちはトラヴィスと直接的な関係はなく、むしろ各ゲームの設定と深く結びついているため、前2作のような「殺し屋同士のイカれた会話」とはテイストが異なります。といっても方向性が違うだけで、互いの在り方や死生観などがにじみ出てくるテキストは本作でも健在です。

また各ゲームのクリア後に、トラヴィスが各ボスについて語るシーンもあり、善悪では計れない生き方や死に様についてトラヴィスらしい言葉で吐露します。とあるボスについて、「自ら死ぬ権利を持っていなかった。野垂れ死ぬことでしか償えないと悟っていたかのように感じた」と漏らす場面もあり、偉人だと讃えて締めくくる一幕も。

ゲームの登場人物でしかないはずなのに、彼らについて血と肉を感じさせる言葉で表現するトラヴィス。プレイしているユーザーにとっては、トラヴィス自身すらキャラクターに過ぎないのですが、彼の吐露を通してトラヴィス自身に血肉を感じる瞬間もありました。

基本的には明るく飄々としており、突き抜けたバカさ加減も見せるものの、不意に重くヘビーな一撃を繰り出してくる。筆者が触れた『ノーモア★ヒーローズ』にはそんな魅力があり、形こそ変われども同じような匂いを『トラヴィス ストライクス アゲイン ノーモア★ヒーローズ』にも感じました。


ただし、前2作はフルプライスでしたが、本作はDL専売かつ価格も2,980円(税抜)と抑えめで、ボリュームも価格相応。また、フィールドの移動などがないため、ひとつひとつの展開もスピーディです。全体的にサクサクと遊べるので、集中すると一気にクリアまで行ってしまうかもしれません。

「本作が気になってきたけど、ボリューム面がもうちょっとあれば…」と感じた方には、有料DLCも視野に入れてみましょう。第一弾では、過去作に登場した「シノブ・ジェイコブスがプレイアブルとなるほか、バッドマン編のアドベンチャーパート(全6話)が追加されます。

また、第二弾では死んだはずの「バッドガール」がプレアブルキャラに。デスボールを集めて願いを叶えた成果なのか、それともまったく別の形なのか。登場理由も気になるところですが、新ステージやトラヴィス編のアドベンチャーパート(全1話)の追加もあり、こちらも見逃せません。

ボリューム面で物足りない場合は、DLCで補うこともできる『トラヴィス ストライクス アゲイン ノーモア★ヒーローズ』は、『ノーモア★ヒーローズ』の“濃さ”を待ち続けてきたファンにとって嬉しい濃度になっています。また、前2作を知らずとも楽しめるぶっ飛び具合なので、ここからシリーズ作に触れてみるのも一興でしょう。細かいを気にするヒマもない『ノーモア★ヒーローズ』の世界は、本作でもしっかりと展開してくれます。

共通する基本アクションで、アレンジが異なる様々な「デスボール」に挑め!

◆自分好みのスキルで立ち回れ! ステージごとの異なる味付けがプレイに刺激を与える

全体的な進行やシナリオ面については前述の通りですが、本作におけるゲーム性の中心はやはりアクションパート。
トラヴィスが立ち向かう激戦の数々はプレイヤーの操作を通して展開し、テクニックを駆使することで得られる爽快感も本作の大事なポイントです。

操作キャラクターの移動はLスティックで行い、Yボタンのベーシック攻撃とXボタンのヘビー攻撃を使い分けて敵を倒します。ちなみに、武器を使いすぎると電力が減り、ゼロになるとほぼ無力。そのため、Lスティック押し込みからの充電アクションが不可欠となります。

この充電アクションも、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズではお馴染みの要素。といっても、ただ面倒なだけの作業ではありません。敵との距離や残った数などを考慮し、いつ充電するかといった判断も大事なところ。敵の攻撃を回避するタイミングを見極めるように、戦局を元に充電の隙を見つけるのもゲーム性のひとつなのです。

特に、長期戦になりがち&攻撃が手痛いボス戦では、どの攻撃の後が充電チャンスなのか、その正確な判断が明暗を分けることも。そのタイミングを見つけ、ボスが巨大ビームを放っている脇で一生懸命充電しているトラヴィスの姿を見ると、なんだかほっこりします。ちなみにセーブも、シリーズ恒例のトイレで実行。「NOW SAVING・・・」の位置が巧みです。

ステージは立体的な構造のところもあり、そこはジャンプを駆使して移動。また、ジャンプ中にYボタンを押すと少し離れた敵相手に突っ込んで攻撃。ジャンプ中にXボタンだと、真下に落下して周囲に衝撃波を放ちます。この衝撃波は敵のガードを崩すこともできますが、硬直もあるので各種攻撃の使い分けが重要です。

Aボタンで回避ができるので、手強い敵やボス相手にはヒット&アウェイが有効。ヘビー攻撃はかなり踏み込んでくれるので間合いを詰めやすく、その後回避で一気に離れる──といった立ち回りも悪くありません。ただし、回避は敵をすり抜けないので、狭いエリアや隅に追い込まれて囲まれると、回避で抜け出すのが難しい場面も。回避一辺倒ではなく、ジャンプや攻撃などで状況を打開する柔軟性も必要です。

ちなみにベーシック、ヘビーともに連続攻撃が可能。また攻撃の受け付けは先行入力ができるため、ボタンを連打してしまうと不必要に攻撃を出し過ぎてしまうことも多々。調子に乗りすぎると手痛いダメージを食らうので、注意したいところです(何度も食らった実体験より)。

このほかにも、シンプルだけども強力なチャージ攻撃や、自身の戦い方に合わせてチョイスするスキルなどもあり、これらの組み合わせて激戦へと立ち向かいます。スキルは、強力な攻撃を与えるものから回復まで、使い方や用途も様々。囮を作って敵の目を逸し、その間に充電する…といった立ち回りも可能です。ただし各スキルは、使用した後にクールタイムが発生するのでご注意を。

そして、『トラヴィス ストライクス アゲイン ノーモア★ヒーローズ』のゲーム性としてもうひとつ言及しなければならないのは、各ステージの構成でしょう。前述の通り、デスボールと呼ばれるそれぞれのゲームの中がアクションの舞台となります。ひとつ目の「Electric Thunder Tiger2」は最もベーシックな作りとなっており、基本的には奥へ奥へと進めばボスへと辿り着きます。ただし、分岐路の先でアイテムや新たなスキルがゲットできる場合もあるので、寄り道派の方はしっかり調べておきたいところ。

2つ目の「Life Is Destroy」は、住宅街と屋内を繰り返す構成になっており、しかも住宅街は一部のマップを回転させ、自ら道を繋げるパズル要素を追加。途中からは“青白い死神的な顔”が登場し、これに触れると一発でGAME OVERに。動きは遅いものの、マップの回転に気を取られたり、敵に手こずってると、あっという間に追いつかれてしまいます。

やられてもその場で復活できますが、コンテニュー回数には限りがありますし、やられてしまうのはやはり悔しいもの。切り抜けるのが難しい時は、別の方向に誘導してから、移動速度の違いを利用して引き離しましょう。ちなみに、屋内戦では出てこないので、室内の探索は心休まるひとときです。敵は出てきますが!

3つ目のデスボール「Coffee &Doughnuts」の舞台は洋館で、謎めく殺人事件と向き合うことになります。しかも殺されたのは、北欧の小国「ウルマーク」の跡継ぎで、父を殺された上に光を奪われたブライアン・バスターJr.。しかも、父の脳が移植されたロボット「ウルヴァリアン」に搭乗し、最終的にはボスとして主人公に立ちはだかります。実に盛り盛りな設定と濃度です。

といっても、殺人事件を調査したり推理するといった面倒な過程はなく、どこまでもアクションゲームなのでご安心を。また、舞台が洋館といっても、敵と戦うパートは屋外で、横スクロールアクション風のフィールドとなります。奥行きがあるものの、その幅はこれまでのデスボールと比べると狭く、囲まれやすいので要注意。ボス戦のフィールドも同様なので、立ち回りをより重視した方がいいかもしれません。

基本的な操作や戦い方はどのデスボールでも共通なので、ややこしさとは無縁。それでいて、各ステージごとに異なるエッセンスが加わり、その都度新たな刺激を味わうことができます。また、スキルのチョイスで立ち回りも変わってくるので、自分好みの編成がハマッた時の爽快感はなかなかのもの。『ノーモア★ヒーローズ』らしいノリの良さは、本作のゲーム性にも引き継がれています。

個人的には、1~2日に1ステージずつクリアしていくと、それぞれの特色をじっくり味わえるのでお勧めです。『3』の発表を期待しつつ、久しぶりの『ノーモア★ヒーローズ』新作を心ゆくまで堪能してみてはいかがでしょうか。前振りもあったので、ぜひとも実現して欲しいものです。そのためにも、『トラヴィス ストライクス アゲイン ノーモア★ヒーローズ』がヒットしますように!

(C)Marvelous Inc. / Grasshopper Manufacture Inc.
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