本日、2019年11月13日より、PlayStationVR/SteamVR/Oculus Rift/Oculus Quest対応のVR脱出アドベンチャーゲーム『ラストラビリンス』が配信開始となります(後日Microsoft Storeでも配信開始予定)。制作を手がけるのはあまた株式会社で、初代PlayStationで『どこでもいっしょ』シリーズのディレクター/プロデューサーを務めた高橋宏典氏が、本作でもディレクター/プロデューサーを手がけています。
◆2人を襲う突然の死!それはそれとしてカティアがかわいい
ゲームを始めると、プレイヤーは車椅子に拘束され、暗闇の中で置き去りにされています。自由が利くのは上下左右に動かせる頭と指先のみ。頭には何者かの手でレーザーポインターが装着されており、右手に握らされているリモコンのスイッチを押すとそのポインターで特定のモノを指し示すことができます。
周囲は暗がりながらも、目の前にはぼんやりと電気スタンドと点灯させるためのヒモが。とりあえずそれを指し示してみると、暗闇の中から手が伸びてきて電気を着けてくれました。これがプレイヤーとカティアの出会いになります。ですが、この出会いはカティアの意図するところでもなかったようで、わずかに明るくなった部屋で主人公を見つけた彼女は怖そうに小さく悲鳴を上げます。申し訳ない…でも悲鳴を上げたいのはこっちも同じなんだ……(涙)。
電気を点けてみたらお互いにビックリ。言葉は通じませんが、協力して謎の館からの脱出を目指します
画面中央付近の赤い点がプレイヤーの頭部にセットされたレーザーポインタの光です
この謎の館からの脱出を望むのはカティアも同じらしく、彼女はプレイヤーが指し示したものを動かしたり、操作したりしてくれます。
「これを操作すればいいの?」と指さしながら判断を求めてくるカティア。首を動かして指示しましょう
本作の大きな特徴を挙げるなら「エゲつない脱出ゲーム」というのが手っ取り早いでしょう。各部屋には何らかの仕掛けが施されており、その構造を見極めないままに作動させると2人の命は瞬く間に奪われます。"エゲつなさ"の一つ目は、「プレイヤーが判断を誤ったとき、必ずカティアから先に命を落とす」ということ。自分の浅慮が起こした惨劇を目の当たりにさせられて、深い後悔に身を包まれながら自分も命を落とすことになるのです。「脱出ゲームはトライアル&エラーでしょ」などと気軽に考えていた筆者も、本作ではそうもいきません。"エラー"の部分でカティアが死んでしまう……。
カティアは指示通りに操作するだけなので、起きたことの責任はすべてプレイヤーに。ああ、プレッシャーが…
プライベートでのプレイであればまだしも、今回はあまたにお邪魔しての試遊でしたので、インプレッションを書くためにも長時間ひとつの部屋で行きづまっているわけにもいきません。そんなわけで、試遊ではヒント機能も使いながら遊びました。
とはいえ、単に「筆者がプレイしている横でその一部始終を見ている高橋氏にぽつりぽつりとヒントを教えてもらう」というだけの話で、ゲーム中にはこれほど便利なヒント機能はありません。
なんとか長考の末に、一つの部屋の仕掛けを解くと、カティアがプレイヤーの後ろに回って車椅子を押し、次の部屋へと連れていってくれます。自分の横を通るときにちょっと嬉しそうな声色で話しかけてくれることあり、試遊した人たちから「カティアがかわいい」という声が多く挙がったというのも納得でした。カティア超かわいい。
フタを重そうに持ち上げるカティア。モーションキャプチャーに頼らない手付けの芝居が、カティアというキャラを繊細に描いています
そうこうしていくつかの部屋をクリアすると、晴れて屋外に脱出成功! しかし、日光のまぶしさに目を細めつつも周囲に目をやると、そこは屋外ではあっても、どこにも行きようがない断崖絶壁の行き止まりでした。「あぁ、周囲に広がる海の静けさが恨めしい……」と思ったのも束の間、視界がどんどんホワイトアウトしていき、なんと気が付けばプレイ開始直後の部屋に戻されていました。
違うことといえば、電気のヒモの先に付いているオブジェのデザインが異なっていたことと、壁に先ほどにはなかった花の絵画が掛けられていたこと。プレイヤーを見たカティアの反応もプレイ開始直後そのままで、彼女には先ほどまでの記憶はないようです。これはいわゆる"ループモノ"なのか? わが身に起きた出来事を納得させる答えが出ないまま、プレイヤーとカティアは先ほどまでとは異なる仕掛けに挑んでいきます。ここで高橋氏から「ちょうど区切りがよさそうですので」とお声がかかり、試遊は終了となりました。
本作を「言葉の通じぬ少女を連れての脱出行」と捉え、PlayStation2の傑作のひとつ『ICO』に近い印象を抱く方もいるかもしれません。そもそも、筆者もそうでした。
「ロクに説明もないまま投げ出され、真相を解き明かすためにとりあえず目の前の謎を解いていくしかない。試されるのはただ思考力」――そんな感覚に、筆者がなんとなく思い浮かべたのは、これまた往年の名作アドベンチャーゲーム『MYST』でした。そうしたタイトルをプレイしたことがある方には、一種の懐かしさすらあるかもしれません。そんな本作はいかにして生まれたのか? 試遊後に行った、高橋氏へのインタビューをお届けします。
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◆ディレクター兼プロデューサー・高橋宏典氏インタビュー
――試遊させていただいて、『MYST』を初めて遊んだときのような感覚を思い出しました。プレイヤーは自分自身に近く、そこがどんな世界でどんな物語が待っているのか、右も左も分からない。操作自体はシンプルで、それらの疑問を解消するには、己が思考力でただ前に進むしかない……そんなところがなんとなく似ているのかなと。
高橋なるほど(笑)。プレイした感想にそのタイトルを挙げられる方はなかなかいませんでしたが、本作を制作するうえで『MYST』を含む往年のポイント&クリックアドベンチャーの影響がどこかしらにあるのは間違いないと思います。
ルーカスアーツ(ルーカスアーツ・エンターテインメント・カンパニー)が出していた『Sam & Max Hit the Road(1993年に発売されたMS-DOS用PCゲーム)』や『Full Throttle(1995年に発売されたMS-DOS用PCゲーム)』なども、当時夢中になって遊んでいましたから。
「ポイント&クリックアドベンチャ―である」のが本作の本質ではないのですが、近年はそうしたジャンルの系譜がやや途切れがちかな、とは思っておりまして。
――ポイント&クリックアドベンチャーのようでもあり、VR脱出ゲームでもあり……。そして、実際に遊んだプレイヤーたちからの声としてはシンプルに「カティアがかわいい」などという声も見られます。率直におうかがいしますが、そんな多彩な顔を持つ本作の本質とはどこにあるのでしょうか。
高橋僕は「カティアとのコミュニケーション」にあると考えて作っています。コミュニケーションというものは、まず他者を意識すること、そして、それを通じて自分を意識することだと思っています。たとえば『どこでもいっしょ』は、トロに言葉を教えてあげるとどんどん語彙が増えていき、やがてはプレイヤーが”グッとくる”ひと言を言ってくれるようになります。
どんな言葉が"グッとくる"かはもちろん人によって異なるのですが、このことは常に意識していて、「仮想キャラクターをどう描くかは、コミュニケーションを取ったプレイヤーの心がどういう気持ちになるかをデザインすることにある」と思っています。
――コミュニケーションをロジカルに分析されて、ゲームに昇華されておられるのですね。本作をプレイしていると、カティアにさまざまな感情を抱くと思います。そのように「プレイヤーが(協力して仕掛けを解くという)コミュニケーションを通して、何らかの感情を抱く」ところまでを含めて制作しておられるということでしょうか。
高橋そうですね。
また、本作はVRデバイスをご購入いただいて初めて遊べるゲームですので、「VRならではの体験をお届けする」というのも同じくらい大切に考えています。普通のゲーム(=VR機器を必要としないゲーム)と同じ体験しかお届けできないなら、最初からそういう形でリリースすればよいわけですから。
――具体的には、どういうところに気を使われましたか。
高橋VRのゲームデザインには、ひとつ大きな課題があると感じています。それは「自分の身体感覚とVR空間にいる自分(or自分が操作するキャラ)の感覚がズレることが往々にしてある」ということです。
――VR空間に自分の動きに対応する手が映っているのに、自分の手のようにはうまくモノをつかめなかったりするような?
高橋そうです。自分の体なら起こりえないことですよね。そしてそういうズレがあると「ここはVR空間だからなぁ」と再認識してしまうんですよ。
――椅子に座ってプレイするだけで作中の拘束状態と完全に同じ体勢になるので、たしかにそうした違和感はまったく生じませんでした。
高橋「操作方法に煩わされることなくすぐ遊べて、VR酔いの恐れもない」ということを追求した結果でもあります。
――架空のキャラクターとのコミュニケーションを主軸としたゲームを作るうえで、脱出ゲームとなった経緯はどのようなものだったのでしょう。
高橋PSVRではバンダイナムコエンターテインメントさんの『サマーレッスン』もありますし、言葉によるコミュニケーションや教導という形で同じことをするよりは異なる形を模索しようと、脱出ゲームというコンセプトは早々に決まりました。そして、失敗は明示した方がいいよねという話になり、不正解は即、死につながるというフローにしたら「あれ、なんだか怖くなっちゃったぞ」と(笑)。
失敗を明示したら「なんだか怖くなってしまった」と高橋氏
――自分がうまく仕掛けを解けないばかりにカティアが命を落としていく姿はとても見ていられませんでした……(苦笑)。ともあれ、ホラーじみた演出ありきだったというわけではなかったということですね。システム面もおうかがいしますが、エンディングはひとつですか?
高橋いえ、マルチエンディングになっています。ただ、エンディング自体はかなりの数を用意していますが、どれも文字や言葉による情報はありません。エンディングだけではなく、仕掛けにも文字や数字は一切使っていません。そんな中で「このゲームはこういうお話だったのかな」と想像して楽しんでいただければと。開発側としても、「これがトゥルーエンドです」というのは決めていませんので。メインプログラマーからは「これ、全部バッドエンドじゃないですか?」とは言われましたが……。
――バッドとグッドの定義は人によってさまざまかと思いますが、大体の方向性は分かりました(笑)。ところで、セーブはオートセーブのみのようでしたが、クリア後に別の結末も見たくなったら最初から周回プレイをするのでしょうか?
高橋言葉でうまくお伝えできないのですが、ひとつのセーブデータで、最初からプレイし直すことなくすべてのエンディングを見られるようになっています。
――それはなによりです! 本作のボリュームはどのくらいになりそうでしょうか。
高橋本作はグローバルに展開しますので海外のチームにもデバッグを兼ねたテストプレイをしてもらったりしましたが、完全にノーヒントでプレイしたチームが全エンディングを見るまでにかかった時間は、大体15~20時間程度でした。ただ、誰がどの仕掛けでどれだけ行き詰るかは大きく異なりますので……。
――一概には規定しづらいですよね。頭の回転が鈍い自分は、タップリ30時間以上遊べそうです(笑)。さて、本作のキーパーソンとなるカティアを演じたステファニー・ヨーステンさんについてもお聞かせください。
高橋「非言語コミュニケーション」というテーマを詰めていくうえで、独自の言語をしゃべらせようというのは早い段階で決まりました。ただ、日本の声優さんにお願いすると「日本人が読んでいる(発音している)」という印象が残ってしまいそうでしたので、海外の方にお願いできればいいなと。そうして思い浮かんだのがヨーステンさんでした。『メタルギアソリッドV ファントムペイン』のクワイエット役でもおなじみの方ですが、実は、僕の弟の友人でもありまして。
――なんと!
高橋本作の制作とは関係なく数年前に、一度ご挨拶したことがあったんですよ。その縁で今回お声がけさせていただいたら「おもしろそうなのでぜひやってみたいです」とご快諾いただけました。独自の言語であるにも関わらず収録はとてもスムーズで、しかもこちらのイメージ通り。本当にお願いできてよかったです。
――台本にはどのように書かれていたのでしょうか?
高橋架空の言語によるセリフに、アルファベットでの発音記号と意味を添えました。セリフに応じた感情もきちんと込めていただけて、何も言うことがありませんでしたね。
――カティアの話す言語は、法則性があったりするのでしょうか?
高橋はい。そういうところまで考えてありますので、翻訳できる可能性はありますし、翻訳できれば彼女がきちんと状況に応じたことを言っているのが分かると思います。とはいえ、翻訳させるためのものではありませんので、そうそう訳せないかとは思いますが……。
――興味深いお話をありがとうございました。最後におうかがいしたいのですが、コミュニケーションをゲームに落とし込みたいという思いは『どこでもいっしょ』シリーズを手がけたことで生まれたのでしょうか?
高橋「コミュニケーションをゲームで表現したい」という思いをずっと抱き続けているわけではないのですが、やっぱり僕個人としてはそれが好きなのだと思います。『どこでもいっしょ』も『ラストラビリンス』も根底にあるものは同じで、どちらもコミュニケーションですので、僕はこの2タイトルは姉妹作だと思っています。
自分ではないキャラクターとのコミュニケーションによって生じた関係性や、それによる自分の変化・体験をゲームとして表現しています。『どこでもいっしょ』を遊んでくれた方にはぜひ本作も遊んでほしいですね……本作も楽しめるかどうかは、人によりそうですが!
――万人にオススメ! と言いたいところではありますが、やはり人は選んでしまいますよね……。
高橋経験則からCEROレーティングはCで収まるかなと思っていたのですが、Dになってしまいました。直接的な描写はないんですどね……。
――ありがとうございました。(試遊した範囲では確かに直接的な描写はなかったけれど、それでもあれはCERO D相当な気はするなぁ……)
あまたによるVR専用脱出アドベンチャーゲーム『ラストラビリンス』は、2019年11月13日より、PlayStationVR/SteramVR/Oculus Rift/Oculus Questで配信開始です(後日Microsoft Storeでも配信開始予定)。価格は、PlayStation StoreとSteamが税別3980円、Oculus Storeが税込3990円予定となっています。PSVR版は、デュアルショック4/PS Move両方に対応しています。
繰り返しになりますが、「車椅子に拘束され、ほとんど身動きが取れない主人公」というゲームデザインはイスなどに座って遊ぶことが多いであろうプレイスタイルと相性がよく、その没入感の高さは特筆に値します。動かない分疲れづらいので、思わず長時間遊べてしまうのも魅力のひとつです(体が疲れなくても脳が疲れてきますが)。そしてなんといっても、カティアがかわいいです。
脱出ゲームに自信がある方、ゲームで長考するのが好きな方、おもしろいVRゲームに飢えている方、謎めいた物語を楽しみたい方、鈴が転がるようなかわいらしい声をした独自言語美少女とのコミュニケーションを楽しみたい方、そして『どこでもいっしょ』が好きな方などにオススメです。ただ、プレイの際は、ちょっぴり心構えをしておきましょう。
本作のプレイを終えてVR機器を外すと、ほとんどの場合において「あぁ、VRゲームでよかった」と思えることでしょう。それは言い換えるなら「それだけ没入できていた」ということでもあるのです。
(C)2016 AMATA K.K. / LL Project
人の言葉を理解するかわいらしいネコ・トロとの言語によるコミュニケーションと、架空の言語で話す少女・カティアとの非言語コミュニケーション。二者の差異、そして共通点とは? その一端に迫るプレイレポートと、高橋氏へのインタビューをお届けします。
◆2人を襲う突然の死!それはそれとしてカティアがかわいい
ゲームを始めると、プレイヤーは車椅子に拘束され、暗闇の中で置き去りにされています。自由が利くのは上下左右に動かせる頭と指先のみ。頭には何者かの手でレーザーポインターが装着されており、右手に握らされているリモコンのスイッチを押すとそのポインターで特定のモノを指し示すことができます。
周囲は暗がりながらも、目の前にはぼんやりと電気スタンドと点灯させるためのヒモが。とりあえずそれを指し示してみると、暗闇の中から手が伸びてきて電気を着けてくれました。これがプレイヤーとカティアの出会いになります。ですが、この出会いはカティアの意図するところでもなかったようで、わずかに明るくなった部屋で主人公を見つけた彼女は怖そうに小さく悲鳴を上げます。申し訳ない…でも悲鳴を上げたいのはこっちも同じなんだ……(涙)。
電気を点けてみたらお互いにビックリ。言葉は通じませんが、協力して謎の館からの脱出を目指します
画面中央付近の赤い点がプレイヤーの頭部にセットされたレーザーポインタの光です
この謎の館からの脱出を望むのはカティアも同じらしく、彼女はプレイヤーが指し示したものを動かしたり、操作したりしてくれます。
時おり判断に迷ったときはプレイヤーの方を見てきますので、そのときにうなずけば肯定、首を横に振れば否定することができます。
「これを操作すればいいの?」と指さしながら判断を求めてくるカティア。首を動かして指示しましょう
本作の大きな特徴を挙げるなら「エゲつない脱出ゲーム」というのが手っ取り早いでしょう。各部屋には何らかの仕掛けが施されており、その構造を見極めないままに作動させると2人の命は瞬く間に奪われます。"エゲつなさ"の一つ目は、「プレイヤーが判断を誤ったとき、必ずカティアから先に命を落とす」ということ。自分の浅慮が起こした惨劇を目の当たりにさせられて、深い後悔に身を包まれながら自分も命を落とすことになるのです。「脱出ゲームはトライアル&エラーでしょ」などと気軽に考えていた筆者も、本作ではそうもいきません。"エラー"の部分でカティアが死んでしまう……。
カティアは指示通りに操作するだけなので、起きたことの責任はすべてプレイヤーに。ああ、プレッシャーが…
プライベートでのプレイであればまだしも、今回はあまたにお邪魔しての試遊でしたので、インプレッションを書くためにも長時間ひとつの部屋で行きづまっているわけにもいきません。そんなわけで、試遊ではヒント機能も使いながら遊びました。
とはいえ、単に「筆者がプレイしている横でその一部始終を見ている高橋氏にぽつりぽつりとヒントを教えてもらう」というだけの話で、ゲーム中にはこれほど便利なヒント機能はありません。
これもエゲつない!(頭の回転が悪いのを棚に上げながら)
なんとか長考の末に、一つの部屋の仕掛けを解くと、カティアがプレイヤーの後ろに回って車椅子を押し、次の部屋へと連れていってくれます。自分の横を通るときにちょっと嬉しそうな声色で話しかけてくれることあり、試遊した人たちから「カティアがかわいい」という声が多く挙がったというのも納得でした。カティア超かわいい。
フタを重そうに持ち上げるカティア。モーションキャプチャーに頼らない手付けの芝居が、カティアというキャラを繊細に描いています
そうこうしていくつかの部屋をクリアすると、晴れて屋外に脱出成功! しかし、日光のまぶしさに目を細めつつも周囲に目をやると、そこは屋外ではあっても、どこにも行きようがない断崖絶壁の行き止まりでした。「あぁ、周囲に広がる海の静けさが恨めしい……」と思ったのも束の間、視界がどんどんホワイトアウトしていき、なんと気が付けばプレイ開始直後の部屋に戻されていました。
違うことといえば、電気のヒモの先に付いているオブジェのデザインが異なっていたことと、壁に先ほどにはなかった花の絵画が掛けられていたこと。プレイヤーを見たカティアの反応もプレイ開始直後そのままで、彼女には先ほどまでの記憶はないようです。これはいわゆる"ループモノ"なのか? わが身に起きた出来事を納得させる答えが出ないまま、プレイヤーとカティアは先ほどまでとは異なる仕掛けに挑んでいきます。ここで高橋氏から「ちょうど区切りがよさそうですので」とお声がかかり、試遊は終了となりました。
本作を「言葉の通じぬ少女を連れての脱出行」と捉え、PlayStation2の傑作のひとつ『ICO』に近い印象を抱く方もいるかもしれません。そもそも、筆者もそうでした。
ですが、実際に遊んでみると、プレイフィールはそれとは大きく異なりました。
「ロクに説明もないまま投げ出され、真相を解き明かすためにとりあえず目の前の謎を解いていくしかない。試されるのはただ思考力」――そんな感覚に、筆者がなんとなく思い浮かべたのは、これまた往年の名作アドベンチャーゲーム『MYST』でした。そうしたタイトルをプレイしたことがある方には、一種の懐かしさすらあるかもしれません。そんな本作はいかにして生まれたのか? 試遊後に行った、高橋氏へのインタビューをお届けします。
<cms-pagelink data-text="『ラストラビリンス』は『どこでもいっしょ』の姉妹作!?" data-page="2" data-class="center"></cms-pagelink>
◆ディレクター兼プロデューサー・高橋宏典氏インタビュー
――試遊させていただいて、『MYST』を初めて遊んだときのような感覚を思い出しました。プレイヤーは自分自身に近く、そこがどんな世界でどんな物語が待っているのか、右も左も分からない。操作自体はシンプルで、それらの疑問を解消するには、己が思考力でただ前に進むしかない……そんなところがなんとなく似ているのかなと。
高橋なるほど(笑)。プレイした感想にそのタイトルを挙げられる方はなかなかいませんでしたが、本作を制作するうえで『MYST』を含む往年のポイント&クリックアドベンチャーの影響がどこかしらにあるのは間違いないと思います。
ルーカスアーツ(ルーカスアーツ・エンターテインメント・カンパニー)が出していた『Sam & Max Hit the Road(1993年に発売されたMS-DOS用PCゲーム)』や『Full Throttle(1995年に発売されたMS-DOS用PCゲーム)』なども、当時夢中になって遊んでいましたから。
「ポイント&クリックアドベンチャ―である」のが本作の本質ではないのですが、近年はそうしたジャンルの系譜がやや途切れがちかな、とは思っておりまして。
かつてそういうゲームが好きだった方にも遊んでいただきたいという気持ちはあります。
――ポイント&クリックアドベンチャーのようでもあり、VR脱出ゲームでもあり……。そして、実際に遊んだプレイヤーたちからの声としてはシンプルに「カティアがかわいい」などという声も見られます。率直におうかがいしますが、そんな多彩な顔を持つ本作の本質とはどこにあるのでしょうか。
高橋僕は「カティアとのコミュニケーション」にあると考えて作っています。コミュニケーションというものは、まず他者を意識すること、そして、それを通じて自分を意識することだと思っています。たとえば『どこでもいっしょ』は、トロに言葉を教えてあげるとどんどん語彙が増えていき、やがてはプレイヤーが”グッとくる”ひと言を言ってくれるようになります。
どんな言葉が"グッとくる"かはもちろん人によって異なるのですが、このことは常に意識していて、「仮想キャラクターをどう描くかは、コミュニケーションを取ったプレイヤーの心がどういう気持ちになるかをデザインすることにある」と思っています。
――コミュニケーションをロジカルに分析されて、ゲームに昇華されておられるのですね。本作をプレイしていると、カティアにさまざまな感情を抱くと思います。そのように「プレイヤーが(協力して仕掛けを解くという)コミュニケーションを通して、何らかの感情を抱く」ところまでを含めて制作しておられるということでしょうか。
高橋そうですね。
そこまでを含めてゲームデザインしています。これまでさまざまな機会で試遊の場を設けてきましたが、彼女を健気だと感じてくれたり、彼女に対して心を痛めてくれたり、罪悪感を抱いてくれたりした方が少なからずおられました。どれも普通の生活ではほとんど生じてこない感情だと思います。そうした感情を通じて、カティアだけではなく、自分自身をもより深く感じられると思います。
また、本作はVRデバイスをご購入いただいて初めて遊べるゲームですので、「VRならではの体験をお届けする」というのも同じくらい大切に考えています。普通のゲーム(=VR機器を必要としないゲーム)と同じ体験しかお届けできないなら、最初からそういう形でリリースすればよいわけですから。
――具体的には、どういうところに気を使われましたか。
高橋VRのゲームデザインには、ひとつ大きな課題があると感じています。それは「自分の身体感覚とVR空間にいる自分(or自分が操作するキャラ)の感覚がズレることが往々にしてある」ということです。
――VR空間に自分の動きに対応する手が映っているのに、自分の手のようにはうまくモノをつかめなかったりするような?
高橋そうです。自分の体なら起こりえないことですよね。そしてそういうズレがあると「ここはVR空間だからなぁ」と再認識してしまうんですよ。
それをなくすため、操作系統は極めてシンプルにすることで没入感を高め、カティアとのコミュニケーションをより深く取れるようにしました。
――椅子に座ってプレイするだけで作中の拘束状態と完全に同じ体勢になるので、たしかにそうした違和感はまったく生じませんでした。
高橋「操作方法に煩わされることなくすぐ遊べて、VR酔いの恐れもない」ということを追求した結果でもあります。
――架空のキャラクターとのコミュニケーションを主軸としたゲームを作るうえで、脱出ゲームとなった経緯はどのようなものだったのでしょう。
高橋PSVRではバンダイナムコエンターテインメントさんの『サマーレッスン』もありますし、言葉によるコミュニケーションや教導という形で同じことをするよりは異なる形を模索しようと、脱出ゲームというコンセプトは早々に決まりました。そして、失敗は明示した方がいいよねという話になり、不正解は即、死につながるというフローにしたら「あれ、なんだか怖くなっちゃったぞ」と(笑)。
失敗を明示したら「なんだか怖くなってしまった」と高橋氏
――自分がうまく仕掛けを解けないばかりにカティアが命を落としていく姿はとても見ていられませんでした……(苦笑)。ともあれ、ホラーじみた演出ありきだったというわけではなかったということですね。システム面もおうかがいしますが、エンディングはひとつですか?
高橋いえ、マルチエンディングになっています。ただ、エンディング自体はかなりの数を用意していますが、どれも文字や言葉による情報はありません。エンディングだけではなく、仕掛けにも文字や数字は一切使っていません。そんな中で「このゲームはこういうお話だったのかな」と想像して楽しんでいただければと。開発側としても、「これがトゥルーエンドです」というのは決めていませんので。メインプログラマーからは「これ、全部バッドエンドじゃないですか?」とは言われましたが……。
――バッドとグッドの定義は人によってさまざまかと思いますが、大体の方向性は分かりました(笑)。ところで、セーブはオートセーブのみのようでしたが、クリア後に別の結末も見たくなったら最初から周回プレイをするのでしょうか?
高橋言葉でうまくお伝えできないのですが、ひとつのセーブデータで、最初からプレイし直すことなくすべてのエンディングを見られるようになっています。
――それはなによりです! 本作のボリュームはどのくらいになりそうでしょうか。
高橋本作はグローバルに展開しますので海外のチームにもデバッグを兼ねたテストプレイをしてもらったりしましたが、完全にノーヒントでプレイしたチームが全エンディングを見るまでにかかった時間は、大体15~20時間程度でした。ただ、誰がどの仕掛けでどれだけ行き詰るかは大きく異なりますので……。
――一概には規定しづらいですよね。頭の回転が鈍い自分は、タップリ30時間以上遊べそうです(笑)。さて、本作のキーパーソンとなるカティアを演じたステファニー・ヨーステンさんについてもお聞かせください。
高橋「非言語コミュニケーション」というテーマを詰めていくうえで、独自の言語をしゃべらせようというのは早い段階で決まりました。ただ、日本の声優さんにお願いすると「日本人が読んでいる(発音している)」という印象が残ってしまいそうでしたので、海外の方にお願いできればいいなと。そうして思い浮かんだのがヨーステンさんでした。『メタルギアソリッドV ファントムペイン』のクワイエット役でもおなじみの方ですが、実は、僕の弟の友人でもありまして。
――なんと!
高橋本作の制作とは関係なく数年前に、一度ご挨拶したことがあったんですよ。その縁で今回お声がけさせていただいたら「おもしろそうなのでぜひやってみたいです」とご快諾いただけました。独自の言語であるにも関わらず収録はとてもスムーズで、しかもこちらのイメージ通り。本当にお願いできてよかったです。
――台本にはどのように書かれていたのでしょうか?
高橋架空の言語によるセリフに、アルファベットでの発音記号と意味を添えました。セリフに応じた感情もきちんと込めていただけて、何も言うことがありませんでしたね。
――カティアの話す言語は、法則性があったりするのでしょうか?
高橋はい。そういうところまで考えてありますので、翻訳できる可能性はありますし、翻訳できれば彼女がきちんと状況に応じたことを言っているのが分かると思います。とはいえ、翻訳させるためのものではありませんので、そうそう訳せないかとは思いますが……。
――興味深いお話をありがとうございました。最後におうかがいしたいのですが、コミュニケーションをゲームに落とし込みたいという思いは『どこでもいっしょ』シリーズを手がけたことで生まれたのでしょうか?
高橋「コミュニケーションをゲームで表現したい」という思いをずっと抱き続けているわけではないのですが、やっぱり僕個人としてはそれが好きなのだと思います。『どこでもいっしょ』も『ラストラビリンス』も根底にあるものは同じで、どちらもコミュニケーションですので、僕はこの2タイトルは姉妹作だと思っています。
自分ではないキャラクターとのコミュニケーションによって生じた関係性や、それによる自分の変化・体験をゲームとして表現しています。『どこでもいっしょ』を遊んでくれた方にはぜひ本作も遊んでほしいですね……本作も楽しめるかどうかは、人によりそうですが!
――万人にオススメ! と言いたいところではありますが、やはり人は選んでしまいますよね……。
高橋経験則からCEROレーティングはCで収まるかなと思っていたのですが、Dになってしまいました。直接的な描写はないんですどね……。
――ありがとうございました。(試遊した範囲では確かに直接的な描写はなかったけれど、それでもあれはCERO D相当な気はするなぁ……)
あまたによるVR専用脱出アドベンチャーゲーム『ラストラビリンス』は、2019年11月13日より、PlayStationVR/SteramVR/Oculus Rift/Oculus Questで配信開始です(後日Microsoft Storeでも配信開始予定)。価格は、PlayStation StoreとSteamが税別3980円、Oculus Storeが税込3990円予定となっています。PSVR版は、デュアルショック4/PS Move両方に対応しています。
繰り返しになりますが、「車椅子に拘束され、ほとんど身動きが取れない主人公」というゲームデザインはイスなどに座って遊ぶことが多いであろうプレイスタイルと相性がよく、その没入感の高さは特筆に値します。動かない分疲れづらいので、思わず長時間遊べてしまうのも魅力のひとつです(体が疲れなくても脳が疲れてきますが)。そしてなんといっても、カティアがかわいいです。
脱出ゲームに自信がある方、ゲームで長考するのが好きな方、おもしろいVRゲームに飢えている方、謎めいた物語を楽しみたい方、鈴が転がるようなかわいらしい声をした独自言語美少女とのコミュニケーションを楽しみたい方、そして『どこでもいっしょ』が好きな方などにオススメです。ただ、プレイの際は、ちょっぴり心構えをしておきましょう。
本作のプレイを終えてVR機器を外すと、ほとんどの場合において「あぁ、VRゲームでよかった」と思えることでしょう。それは言い換えるなら「それだけ没入できていた」ということでもあるのです。
(C)2016 AMATA K.K. / LL Project
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