いまでは爆発的な人気の『どうぶつの森』シリーズですが、実は2006年に劇場版アニメになっているのです。先日にはTV放送もされており、それで見たという方も多いかもしれません。
しかも、なかなか人気の高いアニメなのです。

「じゃあ、そろそろまた新作が出てもいいんじゃない?」と思う人も多いかもしれませんが、改めて見てみるとこの劇場版『どうぶつの森』、ちょっと……というかけっこう奇妙だったりするんですよね。

◆劇場版『どうぶつの森』は豪華!
そもそも『どうぶつの森』シリーズはニンテンドーDS『おいでよ どうぶつの森』で大ヒットを記録したわけですが、それまではそんなに有名なタイトルではありませんでした。つまり、今と違って「ようやく当たった!」という環境にあったことは念頭に置いておくべきでしょう。

劇場版『どうぶつの森』はいろいろと豪華です。まず声優は、堀江由衣さん、福圓美里さん、小林ゆうさん、たてかべ和也さん、山口勝平さん、かないみかさん、うえだゆうじさんと、とにかく有名な人ばかり。豪華キャストといえましょう。

監督は志村錠児さん。『たまごっち』シリーズのアニメを担当しているほか、最近では『かみさまみならい ヒミツのここたま』などでも活躍していたようです。そして脚本は松井亜弥さん。ポケモンのアニメに長年関わっているようです。

というわけで、スタッフや制作陣には特に変なところはありません。
どちらかといえば、児童向けアニメのような方向性で制作されていたみたいですね。

◆ちょっと個性豊かすぎるどうぶつたち
物語の主人公は、一人暮らしするために村へ越してきた「アイ」。村についた直後、たぬきちに「今すぐバイトを始めてもらうだなも」と言われ、挨拶まわりのついでにいきなり仕事をさせられることとなります。

『どうぶつの森』シリーズのいいところは、みんな優しいところ。怖そうなどうぶつも、かわいいどうぶつも仲良くしてくれるのです(アミなどで叩かない限りは)。しかし、劇場版は違います。

ブーケはアイが持ってきた荷物にばかり興味を持ち、中身の服に喜びまくり。アイの話を聞かずに一方的に喋り続けます。

アルベルトもアイの挨拶をほとんど聞かず、途中で虫取りに行ってしまいます。どうぶつたちは自由奔放すぎて引っ越してきたアイのことをあまり眼中に置いておらず、なんだか彼女がかわいそうになってきます。

このほかにもヘンなメンバーは盛りだくさん。「ユウ」という男の子は虫を捕まえるためにアイにアミをかぶせてしまいますし、その“お礼”としてゴキブリを渡してきます。
やんちゃで済ませていいのかあやしいラインです。

この作品では村の1年が描かれるのですが、さるおはマジでずっと走り続けています。確かにハキハキ(オイラ)系は筋トレが好きですが、本当に一生、走り続けるだけなのです。

アポロに至っては、アイが春に庭の青いバラを踏み潰してしまったせいで怒って、冬までほとんど無視しているような言動を取ります。実際は無口なだけで怒っていないと最後にわかるのですが、アイが嫌われていると思うのも無理ないですよね。

◆削ぎ落とされたゲーム要素
ゲームをアニメ映画にすると、当然ながら再現できない要素がいろいろと出てきます。一番大きい影響が出ているのがリセットさん。「ゲームのリセット」という概念は映画に持ち込めるわけがないので、村で悪いことをした人を怒る雑用係になっています。いわばカミナリオヤジ。

このほかにも、アイテムが葉っぱになっていない、ポケットになんでも入る様子が描かれていないなど細かい部分がいろいろあるのですが、さすがにそこを突っ込むのはヤボでしょう。何よりもっと重大なものがいろいろあるのです。

アイは作中に何度か「はは様」なる人物に手紙を書きます。
これは原作要素で、ゲームを遊んでいるとプレイヤーのもとに「はは」なる人物から手紙がくるので、それを再現したというわけなのでしょう。

ゲームプレイヤーがどんな立場かわからないものの、人間にはまず母親がいるからという前提で、抽象的な「はは」という存在が手紙をくれる……という要素なのですが、劇場版『どうぶつの森』では本当に「はは様」に手紙を書いてしまう。呼び名として「お母さん」とか「ママ」に変えてしまっていいはずなのに、奇妙な形で原作再現をしようとするのです。

奇妙な原作再現といえば、とたけけ。とたけけの声はなんと小栗旬さんが担当しており、とにかくカッコいいのです。そしてライブシーンでは「けけボッサ」を歌ってくれるのですが、歌い始めると小栗旬の声がゲーム内音声にいきなり切り替わる衝撃の展開。

このシーンは非常に有名ですし、これを聞いてからゲーム内で「けけボッサ」を聞くととにかく笑えるようになってしまいます。これを見るために本作を見るのもアリです。

そしてラコスケの声優は、なぜか邦画で有名な三池崇史監督が担当。最近の作品でいえば、実写版『テラフォーマーズ』や『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』などで知られます。邦画の監督がなぜゲスト出演……? と悩ませてくれるのです。

◆唯一の良心であるサリーも……?
このように劇場版『どうぶつの森』は奇妙なポイントが多いものの、そのなかでも良心的な存在が主人公の親友となるサリーです。
彼女は礼儀正しくきちんと挨拶もしてくれますし、そのうちアイと「チェリーパイ」という隠語を共有するようになるほど仲良しになります。

しかし、秋になるとサリーが急に引っ越してしまうのです。それもアイにだけ引っ越しすることを告げずに。ほかのどうぶつたちはみんな知っているようでしたし、喫茶店のマスターですら伝えられていた模様。そりゃ雨のなかズブ濡れになって泣くよね……という展開になります。

とはいえ、これは誤解でした。あとからアイのもとにサリーの手紙が届き、「別れの挨拶をすると泣いてしまうので黙って行った」ということがわかります。よくわかるようでまったくわからないですよね。

こっそり行くにしても、なぜアイにだけ黙っていたのでしょうか? いずれアイにバレて彼女がショックを受けるのは間違いないわけですから、むしろ真っ先に言うべき相手ではないでしょうか。

仮にアイにだけ言わないのが配慮だとするならば、別の友達であるブーケには別れを告げても問題なかったということになってしまいます。あるいは、どうぶつの考えることは人間とだいぶ違うのでしょうか……?

◆舞台は宇宙に広がる
ともあれ、ファッションデザイナーになるという夢を追って村を出たサリーにならい、アイも自分の夢を追いかけるようになります。それはいいのですが、実行することは海に流れ着いたメッセージボトルの手紙にあった「針葉樹を植えよ」という指示に従う、かなり不思議な行動です。


夢ってなんでしょう。お菓子屋さんになる、好きな仕事に就く、のんびり暮らすなどいろいろあると思うのですが、得体の知れない宇宙人の指示に従って針葉樹を植えるというのが夢になりうるのでしょうか。

しかも驚くべきことに、最終的に奇跡が起こって本当に地球外生命体が出てきます。もはや『どうぶつの森』ではなく『液体金属生命体の宇宙』にまでスケールアップし、劇場版『どうぶつの森』は終わりを迎えるのです。

この映画、いい話のようにまとめていますが、いろいろと無理がありかなり不思議な作品に仕上がっています。どうも、当時の児童向け劇場版アニメをベースに『どうぶつの森』の要素を加えて制作したという印象なんですよね。つまり、『どうぶつの森』をすごく大事にした映画かというと疑問なわけです。

最新作『あつまれ どうぶつの森』は世界で2200万本以上も売れており、もはや驚くべきタイトルになっています。その現状を考えるとIPとして大事にせねばならず、アニメ化も慎重にならざるをえず、こういった気軽な児童向けアニメになることは二度とないのかな、と切ないことを考えてしまいます。

いずれにせよ、劇場版『どうぶつの森』は見所のある作品です。ちょっと奇妙ですが出来が悪いわけではないので、児童向けアニメと考えれば悪くないはず。動画配信サービスなどでは見当たらず、DVDを買うかレンタルするのが基本になり見づらいのですが、シリーズファンであればぜひ目を通しておくべき作品といえるでしょう。


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