さて、任天堂初の携帯ゲーム機として知られる「ゲーム&ウオッチ」ですが、何しろ約40年前の出来事です。操作キャラクターが『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズにファイターとして登場しているので、若い人も名前は知っているでしょうが、実際にプレイしたことがあるという人は多くないと思います。
そこで、今回の「ゲーム19XX~20XXX」は「ゲーム&ウオッチ」が発売された1980年のゲームにフォーカス。ゲーム黎明期に登場した歴史的名作の数々を紹介していきます。まずはいつものように1980年がどんな年だったか見ておきましょう。
【主なニュース・出来事】
◆大平首相が急逝、衆参同日選挙で自民党が大勝
自民党内の熾烈な派閥抗争により内閣不信任案が成立。大平透首相が衆議院を解散し、史上初となる参議院とのダブル選挙が行われました。世に言う「ハプニング解散」です。当初は分裂の危機にあった自民党の苦戦が予想されていましたが、選挙戦の最中に大平首相が急死。国民の同情を集めた自民党が圧勝する結果となりました。
◆山口百恵が引退、「百恵フィーバー」が巻き起こる
歌手の山口百恵が三浦友和との婚約と芸能界引退を発表。10月5日に日本武道館にてファイナルコンサートが行われました。
◆ルービックキューブが大流行
ハンガリーの建築学の教授エルノー・ルービックが考案した立体パズル「ルービックキューブ」がツクダオリジナル(現メガハウス)から発売。初年度だけで400万個を売り上げ、6面すべてを揃える手順を解説した書籍も発売されるなど一大ブームとなりました。
◆主な流行
ヒット曲:『異邦人』(久保田早紀)、『大都会』(クリスタルキング)、『贈る言葉』(海援隊)、『ダンシング・オールナイト』(もんた&ブラザーズ)、『「ヒゲ」のテーマ』(たかしまあきひこ&エレクトリック・シェーバーズ)※1
映画:『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』、『地獄の黙示録』、『シャイニング』、『影武者』、『ドラえもん のび太の恐竜』
テレビアニメ:『伝説巨神イデオン』、『あしたのジョー2』、『ニルスのふしぎな旅』、『宇宙戦艦ヤマトIII』、『おじゃまんが山田くん』
マンガ:『Dr.スランプ』(鳥山明)、『めぞん一刻』(高橋留美子)、『みゆき』(あだち充)、『童夢』(大友克洋)、『3年奇面組(ハイスクール!奇面組)』(新沢基栄)
※1:『異邦人』、『大都会』、『贈る言葉』のリリースは1979年
ルービックキューブは今の人たちにもおなじみでしょうし、見たり読んだりしたことがあるという映画やマンガもけっこうあるのではないでしょうか。それでは、1980年のゲームを振り返っていきましょう。
ゲーム&ウオッチ
発売日:1980年4月28日(※2)
機種:携帯機
販売元:任天堂
※2:1作目『ボール』の発売日
80年代に一大ブームを巻き起こした任天堂のLSIゲーム機です。時計機能を有する手の平サイズの携帯ゲーム機で、1980年4月28日にお手玉遊びを模した第1作目『ボール』が発売。続いて、表示される数字どおりにボタンを押していく『フラッグマン』、モグラ叩きゲーム『バーミン』、2人対戦も可能な『ジャッジ』、燃えているビルから落ちてくる人たちを救急車に運ぶ『ファイア』が発売されました。現在では、これら初期5作品は本体の色にちなんで「シルバー」と呼ばれています。
手軽に持ち運びできるLSIゲームはこの頃すでに存在していましたが、「ゲーム&ウオッチ」の人気は飛び抜けていました。もちろん、最大の要因はゲームとして面白かったことです。
ゲーム以外の要素も大きかったように思います。当時の小学生にとって憧れだったデジタル時計機能、ポケットにも入るコンパクトなサイズ、銀色を基調としたスタイリッシュなデザイン……いずれも魅力的で、子供たち(特に男の子)のハートを大いにくすぐりました。
その後も、背景を一部カラー化した「ゴールド」や画面を拡大した「ワイドスクリーン」など、さまざまなタイプが登場。特に、2画面の「マルチスクリーン」を採用した1982年発売の『ドンキーコング』は、のちのニンテンドーDSの原型ともいうべきマシンでインパクト絶大でした。十字ボタンが初めて採用された機体としても知られており、任天堂の先進性を象徴する名機として今に語り継がれています。
パックマン
発売日:1980年7月
機種:アーケード
販売元:ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)
伝説的ゲームクリエイター・岩谷徹が生み出したクラシックゲームの名作です。もちろん、日本でも大ヒットとなったのですが、アメリカでの人気はさらにすさまじく、10万台以上を出荷するという快挙を達成。さらに米ABCテレビが制作したアニメが高視聴率を記録し、パックマンをテーマにしたレコードも全米ヒットチャートの上位にランクインするなど、80年代を代表するゲームのひとつになりました。
4匹のモンスターから逃げながら、迷路上になっている通路の点(ドット)を食べていきます。パワーエサと呼ばれる大きな玉を食べるとパックマンとモンスターの立場が逆転。
ハイスコアを狙うには、モンスターたちの動きの特徴や左右のワープトンネルの活用法などを踏まえた攻略パターンを見つけ出す必要があります。しかし、まだネットはおろかゲーム雑誌や攻略本すらない時代です。当時の子供たちは、なけなしのお小遣いをムダにしないため、上手い人のプレイを後ろから見て攻略パターンを覚えたりしたものです。ずっと眺めていたら相手が不良のお兄さんで、「何見とんじゃ、コラ!」とスゴまれた、なんて経験を持つ人もいるのではないでしょうか。
非常にシンプルな本作ですが、入り組んだステージ内を動き回り、アイテムでパワーアップして敵に反撃するといった基本要素は、今時のゲームにもよく見られるものです。アクションゲームの原点というべき名作で、そのエッセンスは現代のゲームにも脈々と受け継がれています。
クレイジー・クライマー
発売日:1980年
機種:アーケード
販売元:日本物産
高層ビルをひたすらよじ登っていくアクションゲームです。当時はまだ珍しかった縦スクロールの手法を採用したゲームで、ビルを登るためのルートが細くなっている箇所があったり、主人公を妨害するさまざまな敵キャラクターが出現したりする変化に富んだ画像は、当時のプレイヤーに大きなインパクトを与えました。
特に面白いのが独特かつ直感的な操作方法です。2本のレバーが主人公の左右の腕に対応していて、レバーを交互に上下させることでビルを登っていくのです。
上から落ちてくる障害物に当たると、主人公が「イテッ」と発声するなどゲームの演出も秀逸でした。当時人気だった「しらけ鳥音頭」のテーマに乗って登場し、頭上からフンを落としてくるしらけコンドル、パンチで妨害してくる巨大なキングコングといったユニークな敵キャラクターの存在も面白く、何度もプレイしたくなる中毒性がありました。ハムスターの『アーケードアーカイブスシリーズ』にラインナップされているので、ぜひプレイしてみてください。
平安京エイリアン
発売日:1980年1月
機種:アーケード
販売元:電気音響
平安京をモチーフとした碁盤の目状のフィールドを舞台に、次々に現れるエイリアンを退治していくゲームです。開発を手掛けたのは東京大学の理論科学グループで、「現役の東大生が作ったゲーム」ということで話題となりました。
プレイヤーは主人公となる「検非違使(けびいし)」を操作して、平安京に現れたエイリアンを倒していきます。検非違使とは犯罪などの取り締まりを担当する官職のことで、平安時代の警察官のようなものです。舞台が平安京なので、このような名称を使ったのでしょうね。
ユニークなのがエイリアンの退治方法で、道に落とし穴を掘り、落ちたエイリアンを埋めることで倒すことができます。いかにワナを張り巡らせて敵をハメるかがポイントになるわけで、トラップを駆使するゲームの始祖的存在と言えるかもしれません。
必然的に「どこに穴を掘るか」が重要になります。自分の四方に穴を掘るという「待ち」の戦法が基本ですが、エイリアンは残り1、2匹になると、待っているだけではなかなか落ちてくれなくなります。さらに、あまり時間をかけすぎると、エイリアンが増殖してクリアが困難になるため、積極的に攻めにいく必要もあるなど奥の深いゲーム性がありました。いち早く2人協力プレイを取り入れたことでも有名で、ゲーム黎明期を代表する1本です。
Rogue(ローグ)
発表年:1980年
機種:PC
販売元:-(※3)
※3:最初のバージョンはUNIX用のフリーのアプリとして開発
UNIXというOS向けのアプリケーションとして開発されたダンジョン探索ゲームで、「ローグライクゲーム」の始祖として知られています。
地下深くに隠された「イェンダーの魔除け」というアイテムを入手すべく、さまざまなモンスターが巣くうダンジョンを探索していきます。ダンジョン内で手に入る武器、魔法の巻物、薬などのアイテムを、いかに駆使するかが攻略のポイントとなりますが、これらのアイテムは1回使ってみないと、どんな効果があるか分かりません(特定の巻物で調べることは可能)。ダンジョンの構成もランダムで、しかも倒されたらイチからやり直しとなるため、非常にスリリングで何度でも楽しめるようになっていました。
のちのゲームに多大な影響を与えたマイルストーンというべき1本ですが、かつては日本での知名度はかなり低く、一部のマニアだけが知る隠れた名作となっていました。しかし、本作のシステムをベースにした『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(チュンソフト:現スパイク・チュンソフト)がスマッシュヒットしたのをきっかけに、多くのゲームファンに、その名を知られるようになりました。
現在、1985年にEpyxがIBM PC向けに発売したバージョンがSteamにて配信中です。すべてが英字や記号などで構成された非常に原始的なゲームですが、今でも十分楽しめるだけの奥の深さがあります。
そのほか、アーケードでは3機のマシンをドッキングさせることでパワーアップしていくシューティングゲーム『ムーンクレスタ』(日本物産)がヒット。敵のマシンから逃げながらステージ内のフラッグを獲得していく『ラリーX』(ナムコ)も人気となりました。
アメリカではアップルII向けに発売された『ミステリーハウス』(シエラ・オンライン)が話題に。館を舞台にした謎解きゲームで、画像とテキストで構成されたアドベンチャーゲームの元祖と言われています。また、テキストだけでゲームを進めていく、テキストアドベンチャーの名作『ゾークI』も(インフォコム)も注目を集めました。
最後に、この時期に絶大な人気を誇っていた、すがやみつるの『ゲームセンターあらし』についても簡単に触れておきましょう。1978年より小学館の「コロコロコミック」にて掲載された人気マンガです。主人公の少年あらしがライバルたちとゲームで対戦する熱血マンガで、実在するさまざまな人気ゲームが登場。炎のコマ、月面宙返り(ムーンサルト)、エレクトリックサンダーなどのキテレツな必殺技の応酬も見応えたっぷりで、子供たちのバイブル的存在になりました。
もちろん、今回紹介した『ゲーム&ウオッチ』、『クレイジー・クライマー』、『平安京エイリアン』なども登場。ことに『パックマン』は何度も登場していて、当時の人気の高さがうかがえます。『あらし』を読んで作中のゲームに興味を持ったという子供も多く、その後のゲームの隆盛に果たした役割は絶大なものがありました。資料的価値も大きく、黎明期のゲームを語る上で欠かせない存在となっています。