かつて、同人ゲーム業界とそのファンに大きな衝撃を与えた作品がありました。その作品こそ、当時は同人サークルとして活動し、後にゲームブランドとして名を馳せた「TYPE-MOON」の初ゲーム作品『月姫』です。
体験版や『月姫~半月版~』といった、本作の一部を事前に展開し、2000年12月に完全版となる『月姫』をリリース。当時の同人ゲーム事情は、イベント会場か委託先の店舗で直接購入するケースが大半を占めており、現在のようなダウンロード販売はまだ一般化されていない時代でした。
このような状況ながら、確かな魅力と高い熱量が込められていた本作は、『月姫~半月版~』の時点でインターネットを中心に大きな話題を集めており、2000年12月のイベント参加で用意した800本の『月姫』完全版は瞬く間に頒布終了。驚くべきスタートダッシュを飾りました。
その後の発展も目覚ましく、委託店舗先に入荷されれば即完売。ちょっとしたおまけとして制作された『月姫PLUS-DISC』や、ファンディスク『歌月十夜』も好評を博し、『月姫』世界の輪が広がります。
さらに、2003年にはコミカライズやTVアニメ化なども実現。同人作品の商業化はまだ珍しい時代だったため、『月姫』は伝説的な同人作品としても語られるようになりました。
20年以上前に誕生し、以降何年にもわたるメディア展開が続いた『月姫』。その伝説的なADVゲームがフルリメイクされ、ニンテンドースイッチ/PS4ソフト『月姫 -A piece of blue glass moon-』(以後、リメイク版)として、2021年8月26日に発売されます。
このリメイク版が発表された際、喜びと驚きの声がネット上を駆けめぐりましたが、その際に「いよいよさっちんルートか?」「さつきシナリオ実装フラグ!?」といったコメントも複数飛び交いました。
オリジナル版の『月姫』(以後、同人版)を知らない方からすれば、メインヒロインでもないのになぜ盛り上がっているのか、そもそも誰なのか、多くの疑問が浮かぶことでしょう。
「さつきルート」が待望される背景は?
『月姫』および『月姫 -A piece of blue glass moon-』の主人公は、“物の死”が視える眼を持つ高校生「遠野志貴」。彼が、真祖と呼ばれる吸血鬼の「アルクェイド・ブリュンスタッド」と出会うことで、『月姫』の物語は動き出します。
この巡り逢いから始まる本筋と少なからず関わるものの、弓塚さつき自身の出番は、物語全体から見るとそれほど大きくはありません。同人版にはアルクを含む5人のヒロインが存在し、それぞれに専用のルートとエンディングが用意されていますが、さつきはその枠に入っておらず、一言で表現すればサブキャラという位置づけ。
しかし、志貴に対して密かな想いを抱く様子や、作中で勇気を出そうとする健気さなどがプレイヤーの心を打ち、その魅力に惹きつけられた方が続出。また、ネタバレになるため詳細は伏せますが、志貴の在り方に大きな影響を与えており、出番こそ少ないものの、志貴を主人公に据えた『月姫』を語る上で外せない重要な人物でもあります。
さつきを支持する人気度は、印象だけの話ではなく、結果としても明らかです。かつて行われた『月姫』関連キャラクターを対象とした人気投票では、第1回、第2回ともに、さつきは第6位にランクイン。上位5人は全員ヒロインなので、大健闘と言えるでしょう。
第3回の人気投票は、『歌月十夜』での活躍で一気に躍り出た「レン」が第5位に食い込んだため、さつきは第7位に後退。
専用のルートがあるヒロインは、魅力に触れる機会も自然と増えます。そのため人気を得やすい面がありますが、専用ルートのないハンデを背負いながらもヒロインたちに肉薄するさつきの人気ぶりは、『月姫』人気の一角をしっかりと担っていることが窺えます。
しかも、さつき専用ルートが待望される理由は、人気の面だけが理由ではありません。同人版の時点から彼女のシナリオは構想されており、「未だ封印中の月姫・さつきルート」といった発言など、2000年の発売から今日にかけて、制作サイドから幾度も「さつきルート」に触れるコメントが発せられています。
物語全体からすれば、出番はピンポイント。しかし影響力と印象深さは抜群で、“幸せになって欲しい度”はヒロイン格に匹敵する弓塚さつき。ファンが望んでいるのはもちろん、制作サイドからの言及もあるため、さつきの専用ルートに期待が集まるのも無理のない話と言えるでしょう。
ちなみに、月姫世界のifを描く2D格闘ゲーム『MELTY BLOOD』シリーズでは、さつきの後日談が描かれ、こちらも話題になりました。こうした派生作での展開にも刺激され、原点である『月姫』で新たな活躍が見たい──という切望にも繋がっている模様です。
リメイク版に「さつきルート」は収録されるの?
作中での人気ぶり、シナリオがあってもおかしくない立ち位置、構想やシナリオの存在に触れる制作側のコメントなど、様々な背景から「さつき専用ルート」への期待が高まっています。
現段階の時点では、少なくともリメイク版に「さつきルート」が収録されているとの明言はありません。また、同人版とは構成が異なっており、『月姫 -A piece of blue glass moon-』に収録されるのは、アルクルートの「月姫」、志貴の先輩「シエル」のルートにあたる「夜の虹」の2本となります。
これだけ見ると、5つのルートがあった同人版からボリュームが減ったように見えますが、「TYPE-MOONエース Vol.13」に掲載されたインタビューによれば、「単純なテキスト量は、同人版のほぼ倍くらい」「ボイスを全部聴きながらプレイすると、45時間程度」とのこと。比較して表現すると、同人版は広く浅く、リメイク版は狭く深くといった構成を取っていることが分かります。
今回のリメイク版に収録されていないヒロインたちのルートについては、「TYPE-MOONエース Vol.13」の記事内に、「残りのシナリオは、“月の裏側”を描く“もうひとつの月姫”で次回語られることになる」と明記。またインタビューの締めくくりでも、「残りのヒロインたちの物語は、もう少しだけお待ちください」と触れており、今後の展開を匂わせています。
こうした状況を踏まえた上で、「さつきルート」の有無については、いくつかの可能性があると考えられます。まずひとつは、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の隠しシナリオとして収録されている可能性です。この形で実現するならば、最速で8月26日にさつきルートが楽しめるかもしれません。
ですが、「月姫」と「夜の虹」だけでも相当なボリュームが予想されますし、事前に告知した方が商業的にも有利なため、可能性としては低めでしょう。
むしろ、言及のあった「“月の裏側”を描く“もうひとつの月姫”」に同時収録される可能性の方が高いかもしれません。
その場合、提供形式も気になるところ。『月姫 -A piece of blue glass moon-』に対応する形で、いわゆるB面のような単体作品としてリリースされるのか。それとも、当時は為し得なかったダウンロードコンテンツとして配信されるのか。
単体作品の発売であれば、それなりの開発期間が必要になるため、実際に遊べるのはもう少し先になりそうです。DLCの場合でも制作時間は必要ですが、1ルートずつ配信する手もあるので、少し早めに遊べるかもしれません。といっても、さつきルートの配信は最後に回される予感もしますが……!
そして、最も残念な可能性は、さつきルートが制作されずに終わること。ファンからすれば想像もしたくない状況ですが、可能性は決してゼロではありません。そもそも、残り3人のヒロインルートについても、具体的な発表はまだ何もなく、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の売上が著しく悪かった場合、リメイク展開が終了する可能性も出てきます。
この悲劇を直接覆す術はありませんが、ファンの立場から抗うとすれば、リメイク版を購入することが最大の貢献となるでしょう。ひとりひとりの積み重ねが結果に繋がることで、ファンと制作サイドが喜ぶ未来に近づくはず。
無理を押してまで手を出す必要はありませんが、十分価値があると思える方は、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の購入をご検討ください。
『月姫 -A piece of blue glass moon-』で幕を開けるリメイク化において、さつきルートが実装されるかどうか。現時点では、残念ながらまだ不明です。「リメイク版だからこそ、さつきルートを用意するはず」と期待する人もいれば、「同人版になかったんだから、今回もない」と考える方もいます。もちろん、どちらが正解という話ではありません。
果たして、志貴を一途に想い続けた弓塚さつきは、リメイク版でどのような立場となるのか。ファンの期待が現実のものとなるのか。『月姫 -A piece of blue glass moon-』と、その後に続くであろう展開を、期待と共に注目しましょう。
■参考資料
TYPE-MOONの軌跡(著 坂上秋成氏)
TYPE-MOONエース Vol.13
月姫読本(書籍版)
月姫読本(同人誌版)
体験版や『月姫~半月版~』といった、本作の一部を事前に展開し、2000年12月に完全版となる『月姫』をリリース。当時の同人ゲーム事情は、イベント会場か委託先の店舗で直接購入するケースが大半を占めており、現在のようなダウンロード販売はまだ一般化されていない時代でした。
このような状況ながら、確かな魅力と高い熱量が込められていた本作は、『月姫~半月版~』の時点でインターネットを中心に大きな話題を集めており、2000年12月のイベント参加で用意した800本の『月姫』完全版は瞬く間に頒布終了。驚くべきスタートダッシュを飾りました。
その後の発展も目覚ましく、委託店舗先に入荷されれば即完売。ちょっとしたおまけとして制作された『月姫PLUS-DISC』や、ファンディスク『歌月十夜』も好評を博し、『月姫』世界の輪が広がります。
さらに、2003年にはコミカライズやTVアニメ化なども実現。同人作品の商業化はまだ珍しい時代だったため、『月姫』は伝説的な同人作品としても語られるようになりました。
20年以上前に誕生し、以降何年にもわたるメディア展開が続いた『月姫』。その伝説的なADVゲームがフルリメイクされ、ニンテンドースイッチ/PS4ソフト『月姫 -A piece of blue glass moon-』(以後、リメイク版)として、2021年8月26日に発売されます。
このリメイク版が発表された際、喜びと驚きの声がネット上を駆けめぐりましたが、その際に「いよいよさっちんルートか?」「さつきシナリオ実装フラグ!?」といったコメントも複数飛び交いました。
オリジナル版の『月姫』(以後、同人版)を知らない方からすれば、メインヒロインでもないのになぜ盛り上がっているのか、そもそも誰なのか、多くの疑問が浮かぶことでしょう。
そこで今回は、さっちんこと「弓塚さつき」はどんな人物で、なぜファンから専用ルートが待望されているのか。新規ユーザーが疑問に思うであろう部分に迫りたいと思います。
「さつきルート」が待望される背景は?
『月姫』および『月姫 -A piece of blue glass moon-』の主人公は、“物の死”が視える眼を持つ高校生「遠野志貴」。彼が、真祖と呼ばれる吸血鬼の「アルクェイド・ブリュンスタッド」と出会うことで、『月姫』の物語は動き出します。
この巡り逢いから始まる本筋と少なからず関わるものの、弓塚さつき自身の出番は、物語全体から見るとそれほど大きくはありません。同人版にはアルクを含む5人のヒロインが存在し、それぞれに専用のルートとエンディングが用意されていますが、さつきはその枠に入っておらず、一言で表現すればサブキャラという位置づけ。
しかし、志貴に対して密かな想いを抱く様子や、作中で勇気を出そうとする健気さなどがプレイヤーの心を打ち、その魅力に惹きつけられた方が続出。また、ネタバレになるため詳細は伏せますが、志貴の在り方に大きな影響を与えており、出番こそ少ないものの、志貴を主人公に据えた『月姫』を語る上で外せない重要な人物でもあります。
さつきを支持する人気度は、印象だけの話ではなく、結果としても明らかです。かつて行われた『月姫』関連キャラクターを対象とした人気投票では、第1回、第2回ともに、さつきは第6位にランクイン。上位5人は全員ヒロインなので、大健闘と言えるでしょう。
第3回の人気投票は、『歌月十夜』での活躍で一気に躍り出た「レン」が第5位に食い込んだため、さつきは第7位に後退。
ですが、第4回では巻き返したどころか更に順位を上げて第5位に浮上。ヒロインの1人を抜き去り、ベスト5入りを果たしました。
専用のルートがあるヒロインは、魅力に触れる機会も自然と増えます。そのため人気を得やすい面がありますが、専用ルートのないハンデを背負いながらもヒロインたちに肉薄するさつきの人気ぶりは、『月姫』人気の一角をしっかりと担っていることが窺えます。
しかも、さつき専用ルートが待望される理由は、人気の面だけが理由ではありません。同人版の時点から彼女のシナリオは構想されており、「未だ封印中の月姫・さつきルート」といった発言など、2000年の発売から今日にかけて、制作サイドから幾度も「さつきルート」に触れるコメントが発せられています。
物語全体からすれば、出番はピンポイント。しかし影響力と印象深さは抜群で、“幸せになって欲しい度”はヒロイン格に匹敵する弓塚さつき。ファンが望んでいるのはもちろん、制作サイドからの言及もあるため、さつきの専用ルートに期待が集まるのも無理のない話と言えるでしょう。
ちなみに、月姫世界のifを描く2D格闘ゲーム『MELTY BLOOD』シリーズでは、さつきの後日談が描かれ、こちらも話題になりました。こうした派生作での展開にも刺激され、原点である『月姫』で新たな活躍が見たい──という切望にも繋がっている模様です。
リメイク版に「さつきルート」は収録されるの?
作中での人気ぶり、シナリオがあってもおかしくない立ち位置、構想やシナリオの存在に触れる制作側のコメントなど、様々な背景から「さつき専用ルート」への期待が高まっています。
ですが、20年の時を経てリメイクされる『月姫 -A piece of blue glass moon-』に、彼女の専用ルートは収録されているのでしょうか。
現段階の時点では、少なくともリメイク版に「さつきルート」が収録されているとの明言はありません。また、同人版とは構成が異なっており、『月姫 -A piece of blue glass moon-』に収録されるのは、アルクルートの「月姫」、志貴の先輩「シエル」のルートにあたる「夜の虹」の2本となります。
これだけ見ると、5つのルートがあった同人版からボリュームが減ったように見えますが、「TYPE-MOONエース Vol.13」に掲載されたインタビューによれば、「単純なテキスト量は、同人版のほぼ倍くらい」「ボイスを全部聴きながらプレイすると、45時間程度」とのこと。比較して表現すると、同人版は広く浅く、リメイク版は狭く深くといった構成を取っていることが分かります。
今回のリメイク版に収録されていないヒロインたちのルートについては、「TYPE-MOONエース Vol.13」の記事内に、「残りのシナリオは、“月の裏側”を描く“もうひとつの月姫”で次回語られることになる」と明記。またインタビューの締めくくりでも、「残りのヒロインたちの物語は、もう少しだけお待ちください」と触れており、今後の展開を匂わせています。
こうした状況を踏まえた上で、「さつきルート」の有無については、いくつかの可能性があると考えられます。まずひとつは、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の隠しシナリオとして収録されている可能性です。この形で実現するならば、最速で8月26日にさつきルートが楽しめるかもしれません。
ですが、「月姫」と「夜の虹」だけでも相当なボリュームが予想されますし、事前に告知した方が商業的にも有利なため、可能性としては低めでしょう。
むしろ、言及のあった「“月の裏側”を描く“もうひとつの月姫”」に同時収録される可能性の方が高いかもしれません。
残り3人のヒロインのうち、メイン級は1人、サブヒロインが2人なので、そこにさつきが加わってもなんら不思議ではありません。
その場合、提供形式も気になるところ。『月姫 -A piece of blue glass moon-』に対応する形で、いわゆるB面のような単体作品としてリリースされるのか。それとも、当時は為し得なかったダウンロードコンテンツとして配信されるのか。
単体作品の発売であれば、それなりの開発期間が必要になるため、実際に遊べるのはもう少し先になりそうです。DLCの場合でも制作時間は必要ですが、1ルートずつ配信する手もあるので、少し早めに遊べるかもしれません。といっても、さつきルートの配信は最後に回される予感もしますが……!
そして、最も残念な可能性は、さつきルートが制作されずに終わること。ファンからすれば想像もしたくない状況ですが、可能性は決してゼロではありません。そもそも、残り3人のヒロインルートについても、具体的な発表はまだ何もなく、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の売上が著しく悪かった場合、リメイク展開が終了する可能性も出てきます。
この悲劇を直接覆す術はありませんが、ファンの立場から抗うとすれば、リメイク版を購入することが最大の貢献となるでしょう。ひとりひとりの積み重ねが結果に繋がることで、ファンと制作サイドが喜ぶ未来に近づくはず。
無理を押してまで手を出す必要はありませんが、十分価値があると思える方は、『月姫 -A piece of blue glass moon-』の購入をご検討ください。
それが、さつきルートの実装に繋がる最も近い道かもしれません。
『月姫 -A piece of blue glass moon-』で幕を開けるリメイク化において、さつきルートが実装されるかどうか。現時点では、残念ながらまだ不明です。「リメイク版だからこそ、さつきルートを用意するはず」と期待する人もいれば、「同人版になかったんだから、今回もない」と考える方もいます。もちろん、どちらが正解という話ではありません。
果たして、志貴を一途に想い続けた弓塚さつきは、リメイク版でどのような立場となるのか。ファンの期待が現実のものとなるのか。『月姫 -A piece of blue glass moon-』と、その後に続くであろう展開を、期待と共に注目しましょう。
■参考資料
TYPE-MOONの軌跡(著 坂上秋成氏)
TYPE-MOONエース Vol.13
月姫読本(書籍版)
月姫読本(同人誌版)
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