PS2の名作ホラーゲーム『SIREN』。今なおファンの多い同作ですが、なぜこれほどまでに高い人気を誇っているのでしょうか?その秘密は、「ループ」というキーワードにあるのかもしれません…。


『SIREN』は2003年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたアクションADV。屍人(しびと)と呼ばれる怪物から逃げ回りつつ、赤い海に囲まれ異界となってしまった羽生蛇村を抜け出そうとする人々を操作するホラーゲームです。主人公の須田恭也は、「一人の村民による全住民の大虐殺」 が羽生蛇村で起こったという噂をネット掲示板で見たことをきっかけに来村し、事件に巻き込まれていきます。

『SIREN』の魅力といえば、真っ先に話題になるのがグロテスクな風貌の屍人に象徴される恐怖演出。また、“視界ジャック”と呼ばれる敵の視界を覗き見することができるシステムを駆使したステルス・アクションでも高い評価を得ています。

しかし、実は『SIREN』が人々の心を捉え続けている理由がもう一つあります。それは、このゲームが非常に完成度の高いループ構造を持つ「ループもの」だということ。

『SIREN』が持つ“どうあがいても絶望”なループ構造とは!?
今ではゲームの世界でもすっかりおなじみとなった「ループもの」。何度も同じ時間を繰り返しながら、主人公の行動によって“世界線”が変化していく…という構造は、失敗を繰り返しながらクリアを目指すゲームというコンテンツにピッタリの題材です。

日本のゲームで「ループもの」といえば、2009年に発売された『STEINS;GATE』が有名ですよね。“世界線”という言葉も、この作品を通じて一般に広まりました。しかし『SIREN』は『シュタゲ』より6年も早く、「ループ」を設定の根幹に据えた作品として登場していたのです。


『SIREN』では、時間軸に沿ってストーリーが展開する一般的なシステムではなく、ザッピングシステムを採用。各時間帯において、そのキャラクターが何をしていたのか…を追体験するようなシステムになっていました。そのため、あるキャラクターが取得したアイテムや動かした仕掛けが、他のキャラクターのシナリオに影響していくのです。

そして各キャラクターのシナリオをクリアすると表示される「Continue to next loop...」という意味深な文字。直訳すると「次のループに続く…」という意味です。ここで暗示されているのが『SIREN』が「ループもの」だという事実。主人公たちは羽生蛇村という場所だけではなく、時間的にもループに閉じ込められているのです。

では、主人公たちは一生羽生蛇村の中に閉じ込められたままなのでしょうか。実は、『SIREN』には2種類のエンディングが存在します。そのどちらにも共通しているのが、「主人公である須田恭也が、異界で複数の屍人と戦う」という描写がある点。

前述の「一人の村民による全住民の大虐殺」という噂は、この須田恭也が複数の屍人と戦う姿が元になっているのではないか、という説があるのです。羽生蛇村は異界を通じて27年前の羽生蛇村とも繋がっているため、時間的・因果的な問題もありません。


つまり、『SIREN』におけるエンディングとは、「須田恭也が異界で複数の屍人と戦う」ことによって「一人の村民による全住民の大虐殺」という噂が発生し、須田恭也が村に来ることになる世界線へ到達すること。そう考えると、確かにループが成立していますね。須田恭也が屍人に殺されてしまったり、他の登場人物の行動に影響され「異界で複数の屍人と戦う」ことがなかった場合、噂も発生せず須田恭也が羽生蛇村に現れないことになります。

「ループもの」では、主人公が望んだ世界線、ハッピーエンドの世界線を目指す作品が多いもの。しかし『SIREN』においては、物語の最初に須田恭也が羽生蛇村に来村した時点で「主人公である須田恭也が、異界で複数の屍人と戦う」世界線が正しいことが確定しており、プレイヤーはその正しい世界線を目指してループを繰り返す、という構造になっているわけです。

異界で屍人と戦い続けるというエンディングは、須田恭也にとって決してハッピーエンドではありません。何か救いがあってほしい…というプレイヤーも多いはずですが、まさかその可能性が物語開始時点で絶たれているとは…。『SIREN』の発売時のキャッチコピーは「どうあがいても、絶望。」というもの。このコピーに相応しい、正に絶望的なループ構造と言えるでしょう。

残念ながら『SIREN』はPS2とPS3でのみプレイ可能。いつか最新機でリメイクされたら、ぜひプレイしてみて下さい!
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