本作は、カプコン独自の「RE ENGINE」による美しいグラフィックや、「ドライブシステム」という新たな仕組みによって、肝となる“格闘ゲーム”が大幅パワーアップ!まるで大会に参加しているかのような雰囲気が味わえる「自動実況機能」や、コマンド操作無しで必殺技が繰り出せる操作形態「モダンタイプ」も追加され、これまでにない魅力も感じさせてくれます。
そして、従来の格闘ゲームが楽しめるコンテンツ以外に、オリジナルアバターを作り広大なフィールドを自由に歩き回れる1人用の「ワールドツアー」や、ユーザー間のコミュニティを繋げる「バトルハブ」という大型モードの存在も明らかになりました。
シリーズ35周年を迎え、新たに進化し続ける『ストリートファイター6』。その開発陣は、いったいどんな未来を見据えて本作に向き合っているのか。機会を得た編集部は、さっそくインタビューを行ってきました。
新機能を加えた意図はもちろん、どんな想いで今の格闘ゲームシーンを見ているのかまで多岐に渡る内容になっています。ぜひ、ご一読ください。
なおインサイドでは、別記事にて『ストリートファイター6』のプレイレビューも掲載。こちらを読んでからインタビューを読むと、より深く内容が伝わるかと思います。
◆「ストリートファイター」の世界観が、より広がることを目指す
―『ストリートファイター6』のプロジェクト自体は、いつ頃から動き始めていたのですか?
プロデューサー・松本 脩平氏(以後、松本P):もう3年ほど前でしょうか。『ストリートファイターV』を作りながらでしたよね。
ディレクター・中山 貴之氏(以後、中山D):そうですね。一番最初に企画書を書いたのが、2018年ぐらいです。
―2018年というと、『V』では「シーズン3」開幕あたりでしょうか。そのあたりから、『6』の構想が動き始めていたと。
中山D:そうですね。いったん自分のほうで「こういうことをしたい」という概要や、遊ばれているユーザーさんの動向を見て、改善したい点やチャレンジしたい点を書き出していました。
―『V』と並行していたとのことですが、開発チームは『V』のメンバーが継続して『6』に携わっているのですか?
中山D:もちろん『V』担当もいますが、新たなメンバーもかなり入れています。混合というか、『V』と『6』両方やっている人もいます。
―『6』はどういったコンセプトで作られたのでしょう。
中山D:端的に言えば、「ストリートファイター」の世界を広げたかったというのがコンセプトになります。
対戦ツールとしての「ストリートファイター」を担保しつつ、今まで同シリーズが生み出してきた世界観を体験できる作品であること。そして、格闘ゲームが上手くなっていったり、他のユーザーとコミュニケーションを取る面白さを知ってもらったりするための、道筋にもなればと考えています。
松本P:従来の対戦格闘はもちろん、新たな要素をたくさん用意しています。現役バリバリのプレイヤー、過去作はプレイしていたけどご無沙汰の方、対戦は苦手だけどストリートファイターの世界観やキャラクターが好きな方、そして新たに「ストリートファイター6」から初めていただける方!それぞれに楽しんでもらいたいし、「ストリートファイター」に触れて欲しいという気持ちがありますね。
―『V』はラウンド後半に使える強力な「Vトリガー」によって、試合展開が大きく変わる作りが印象的でした。『6』では新たに「ドライブシステム」が採用されますが、どんな狙いで新システムを採用し、どういった点が『V』と違うのか教えてください。
中山D:まず『V』の「Vシステム」に関しては、当初「試合の後半が盛り上がるようにしてほしい」というカプコンUSA側のアイディアがあり、それをベースに日本サイドでも色々な調整を加える形で作っていました。「特殊なコマンド入力を必要とせず、そのキャラクターの一番の強みをトリガーボタンのみで出せるように」を意識しつつ、ライトユーザーでも使えて、追い詰められても反撃できるチャンスを生み出せるようにしたのが、Vシステムです。
一方、『6』の「ドライブシステム」は、キャラクターの個性を伸ばすのはもちろん、新たにドライブゲージを採用し、さらに「ドライブインパクト」「ドライブパリィ」「ドライブラッシュ」という新機能を、難易度別に分けたギミックをイメージして取り入れました。
まずドライブインパクトは開発当初、「(これを出せば)何とかなる攻撃」なんて呼んでました。ゲージを使えば、格闘ゲームが得意じゃないユーザーでも強い行動ができるように、という狙いで取り入れています。
そこから少し格闘ゲームに慣れている人や、そういった攻撃を防御したい人向けにドライブパリィを用意しました。これは発動タイミングやテクニックを意識するようになった、中級者以上の方に使ってほしいなと思っています。最後のドライブラッシュは、慣性が乗った攻撃や特殊なコンボができるようになるので、上級者が楽しんでもらえる仕組みとして入れています。
このように各システムに難易度を設けているので、段階的に慣れてほしいと思っています。それとドライブインパクトを加えることで、起き上がりの攻防に新たな選択肢を増やしたかったという理由もありますね。
―ドライブインパクトを当てた際、派手でカラフルな演出が印象的でした。こういったビビッドな表現は「ストリートファイター」シリーズでは珍しいですよね。
中山D:全体的なアートスタイルや音楽スタイルも見直したいなとは思っていました。そこで『6』ではゲームのUIや画面の専門チームを立ち上げ、新規ユーザーが喜び、かつ格闘ゲームとして「攻撃が当たった」「今がチャンスだ」といった大切な情報が分かりやすいデザインを目指しました。その中で、各キャラクターの個性がより活きるような、ペイントのような演出に至った形です。
―本日のプレイでは、ドライブシステムに必要なドライブゲージがマックスの状態から試合が始まりました。これにより試合がラウンド前半から大きく動くことが想定されますが、どういった流れを想定しているのですか?
中山D:ゲージ消費のタイミングを、ユーザー側に委ねたいという理由でマックスにしました。これにより、プレイヤーのスタイルや使用キャラクターによって、ゲージの消費方法やタイミングが大きく変わってくるだろうと考えています。
例えば「ルーク」の場合、「オーバードライブ」(前作の「EX必殺技」に相当)を駆使して序盤からガンガン攻めていけますが、これに頼りすぎちゃうとゲージが枯渇して立ち回りが大変になります。一方、防御行動が強いキャラクターはドライブパリィでゲージを維持しつつ、ジリジリと立ち回るということもできるでしょう。
―そのオーバードライブですが、前作のEX必殺技がドライブシステムに組み込まれた形となります。
中山D:ここは当初、『V』と同じようにする考えもありました。『V』はEX必殺技を使うとクリティカルアーツ(CA)が出せないという、ジレンマと言いますか、どちらにゲージを使うかという選択肢がありました。これはこれで良いと思ってはいますが、CAを狙ってゲージを温存したまま倒されちゃうという、シューティングゲームでいうボムの“抱え落ち”みたいなことは避けたくて。
オーバードライブでガンガン攻めつつ、スーパーアーツも使うという、派手な感じにしたかったんです。
―実際に遊ばせてもらった際、攻めてる側が面白いといいますか。そこに重きを置かれたのかなって感じました。
中山D:そうですね。画面が動いて殴り合いできたほうが楽しいですし。それに対して強力なドライブパリィもありますから、うまく戦ってもらいたいです。
◆『6』の主人公は? 改めて見直した「飛ばせて落とす」というシリーズの基本
―『6』のPVには、『V』のゼネラルストーリーで春麗が助けた少女であるリーフェンが出ていました。彼女は『ストリートファイターIII 3rd Strike』のOPで描かれた姿よりも成長しているように見えます。『6』の時系列は、『III』よりも後になるのでしょうか。
中山D:はい、その通りです。時系列として最新になりますね。『III』自体も1st、2nd、3rdで1年ずつ時間が経っていますが、それよりさらに間を開けた時代が『6』です。
―新キャラ「ジェイミー」のコンセプトはなんでしょう?
中山D:まず最初に、「ストリートファイター」シリーズに登場していない酔拳のキャラクターを作りたいというのがありました。ただ、それだけだと個性が弱いというか、他のキャラクターと比べると埋没しちゃうなとも感じたので、ブレイクダンスと酔拳を組み合わせたスタイルになっています。
―『6』における「ルーク」の立ち位置も気になっています。彼は『V』参戦の際に、「ストリートファイターの”未来”を担う」と紹介されており、『6』発表時のムービーでも「リュウ」と共に登場していました。今回の主人公は、ルークになるのでしょうか?
中山D:「ストリートファイター」シリーズにおいて、全てのキャラクターが主人公とは言いたいのですが…。言葉を濁して言うと、初期カーソルはルークになります(笑)。
松本P:キーキャラクターといいますか。
―なるほど。シリーズの看板キャラは相変わらず「リュウ」だとは思うのですが、世代交代というか新陳代謝というか、そういった側面もあるのでしょうか。
中山D:そうですね。「ストリートファイター」における全ての遊びの要素が入っているのはリュウですし、入り口として最初に触れるのもリュウが適切だとは考えています。ただそれと同時に、「弾を打って、相手を飛ばせて落とす」という、本シリーズの基本と言われてきた動きを、これからの新規ユーザーに求めるべきなのかという疑問も開発側で生まれまして。
―従来の波動拳と昇龍拳を用いた、「飛ばせて落とす」を変えたかったと。
中山D:それを難しいと捉える方は、絶対にいるなと感じていました。もう少し間口を広げて、「ボタンを押せば前に出て殴ってくれる」キャラも作りたい。それが、リュウより横押しが強いルークを実装した狙いです。
ルークも「飛ばせて落とす」は出来るのですが、「相手に近づいて殴る」という格闘ゲームの根幹を、まずは体験してもらいたいと考えました。
―新規ユーザーに喜んでもらうという考え方は、「自動実況機能」にも通じていそうですね。
中山D:そうですね。プロゲーマーや上級者が出るような大会への参加者だけでなく、多くの人に「自分のプレイが実況されるのってこんなに嬉しいんだ」という喜びが少しでも伝わればと思って、取り入れました。
それと「実況を担当するアールさんが興奮しているから、凄いことが起きてるんだな」といった具合に、新規ユーザーでも対戦中に何が起こっているのか、より分かりやすくなればとも思っています。
―そういえば先ほど遊んだ際、ゲーム内に「解説」という項目もあったんですが…?
中山D:えっと…、お楽しみに(笑)
松本P:公式Twitterに投稿した通り、今後も追加予定があります。続報を楽しみにお待ち頂ければと!
◆上手くなるための“導線”を、しっかりとゲーム内に用意する
―『6』では従来の格闘ゲームが楽しめる「ファイティンググランド」以外に、大きなモードが2つあると発表されています。そのうちの1つ、街中を自由に動ける「ワールドツアー」について現時点でお話できることがあれば、教えてください。
中山D:どこまで話してよいか…止めないと全部話してしまう(笑)
松本P:基本的には、現時点で公式サイトに出ている情報が全てにはなりますが(笑)。
「ワールドツアー」はオリジナルアバターを作ってプレイヤー自らを操作できます。「ストリートファイター」は、そのキャラクターや世界観が好きだと言って頂けるファンの方も多くて。作中の世界に入れるという体験は、凄く需要があるだろうなと思い、それを実現するために作ったのが「ワールドツアー」です。
―もう一つの「バトルハブ」についてもお伺いします。格闘ゲームは非常に楽しいコンテンツですが、どうしても初心者や新規ユーザーがその魅力に気付くまでのハードルが高いなとも感じています。
それは『V』でも同様で、初心者や新規ユーザーが上達するための導線やコンテンツがゲーム内にはなく、どうしても「上手いプレイヤーの配信を見る」「SNSで友達を募集してラウンジに集まる」といった、ゲーム外のコミュニティに支えられている印象を受けました。
中山D:はい、そこは正にその通りで。我々が作ってユーザーさんに遊んでもらっているモノって、本来ならエンドコンテンツに当たるんだろうとは、常日頃思っていました。
そこに至るまでの体験や導線を公式側で用意していないのはちょっと、本当に申し訳ないなと。そこを解決するために「ワールドツアー」と「バトルハブ」を作ったんです。
―「バトルハブ」実装には、どのような背景があるのでしょう?
中山D:おっしゃって頂いた通り、格闘ゲームはより上手くなるためにユーザー間のコミュニティに入っていくという特殊なゲームです。その導線は作りたくて、「バトルハブ」が他のユーザーとの交流の場だったり、ランクマッチが怖いと感じている方々のクッションになればと考えています。
逆に、「ワールドツアーだけ遊ぶ」という人がいても良いですし、「バトルハブで交流を中心に楽しむ」なんて人もいるでしょう。そうした導線を公式側で用意するという、今まで「ストリートファイター」シリーズや私が携わってきたタイトルの中で出来てなかった部分を丁寧にやりたいと思っています。
―ところでPVの最後、「バトルハブ」が紹介された最後にピロリンと音が鳴ってますが、これ、筐体の『ストリートファイターII』に100円入れた時の効果音ですよね?
中山D:な…何があるんだろうなあー(笑)。
―あとPVと言えば、『IV』に参戦した「ハカン」が手掛ける「ハカンオイル」の宣伝もありました。一部では『6』に参戦するのではないかと噂が…(笑)。
松本P:あのPVは色々と思いを巡らしてほしくて、小ネタが詰め込まれています。じっくり見てもらえると嬉しいです(笑)。
◆“ワンボタン波動”は決して、初心者向けではない。やり込みにもしっかり応えてくれる「モダンタイプ」
―『6』では従来の6ボタン操作となる「クラシックタイプ」とは別に、ワンボタンで必殺技が出せる「モダンタイプ」も実装されました。これはどんな理由で実装されたのですか?
中山D:まず、色々なユーザーさんに遊んで頂きたいというのが根底にあります。その上で、アケコンで遊ぶ方はクラシックタイプが向いているとは思いますが、パッドを使われている方や、ゲーム機本体に最初から付属しているコントローラーでも遊びやすい方法は何かと突き詰めた結果、モダンタイプの実装に至りました。
ただ、いわゆる“イージーモード”のような、いかにも「初心者向けに用意しました」というものではありません。モダンタイプを本流にしたって良いんだよ、というチャレンジになります。
今はアケコンやパッド以外に、レーバーレスコントローラーやキーボードで遊ばれている方もいますけども、その全てを許容したいんですよね。『6』発表直後なのにアレですが、『7』や『8』といった次の作品が出た時にモダンタイプが残っているかもしれません。そんな分岐点となるような、操作方法を目指しています。
松本P:特に最近はパッドのプレイヤーが多くて、逆にアケコンが少なくなっているという状況もあり、そういった面をカバーして、より遊びやすくしたいなと。それと新規ユーザーが『6』に興味を持ってくれた際、従来の“ゲーム機を買ってソフトを買ってアケコンまで買って”…という、初期投資的なハードルを下げたいという理由もありました。
それと繰り返しになりますが、「モダンだから初心者」とは思っていません。『6』が発売された後の大会で、モダンタイプを使ったプレイヤーが優勝したって良いんです。『6』は操作タイプに限らず、色々なことを許容して改めて提供したいというのが根底にあって。そんな世界になれば、「ストリートファイター」の今後も拓けるんじゃないかなと思いますね。
―『6』は、今後のシリーズの分岐点にもなりえる大事な作品なんですね。
松本P:そうですね。もちろん『6』は非常に大事ではあるんですが、『6』を出した後のことも考えないと、「ストリートファイター」自体が死んでしまうのではないかと。それは避けなければいけませんし、現状のままだと先細りする危機感も覚えていたので、『6』では操作方法しかり格闘ゲーム以外のモードだったり、しっかり手を入れています。
中山D :『6』は、「ストリートファイター」シリーズの分岐点であることはもちろん、ゲームクリエイター人生を掛けてのチャレンジでもあります。この先、「『7』作るやつは困ったらいい。超えられるもんなら超えてみろ(笑)」という気持ちで、メンバーも全力を尽くしています。
―モダンタイプについて、「おっ」って思ったのが、アシストボタンの要素です。昨今の格闘ゲームでは、攻撃ボタン連打でコンボになるというのがポピュラーかと思うのですが、『6』ではアシストボタンを押しながら攻撃ボタンの連打でコンボが出る仕様でした。ここにはどんな理由があるのでしょう?
中山D:「ボタン連打で最大ダメージのコンボは出るけど、意図せずにゲージを消費してしまう」という状況を避けたかった、というのが正直な理由です。使い分けができるように、ですね。
―なるほど。モダンタイプも初心者がやがて卒業するのではなく、ずっと使っていけるように考えられているんですね。
中山D:そうですね、あの…みんなで頑張って考えてます(笑)。方向キーとボタンで特殊技も出せます。なるべく出せる攻撃の要素は削らないようにしつつ、各キャラクターの魅力がモダンタイプでも十分楽しめて、上達したらそのまま大会に出てもらえるような未来を期待しています。
―モダンタイプは、攻撃ボタンが「弱」「中」「強」の3つに分かれています。従来の6ボタン操作と比較して、攻撃のバリエーションが減ってしまうのでは?
中山D:これはマニアックな話になりますが、攻撃ボタンが6つあると、打点や発生等の使用用途が近い通常攻撃が、どうしても被ってしまう事があります。そういった部分を整理したものがモダンタイプだと思って頂ければ。
「モダンだからあの技が無くて困る」なんてことも、極力無いようにチャレンジしています。アシストボタンと攻撃ボタンの組み合わせでも出る技が違ったりしますので、色々ためしていただけると。
◆「基本プレイ無料」はどう見ている?
―eスポーツという分野において、人口は非常に重要な要素となります。今後も「ストリートファイター」が発展していくために、『6』は従来ファンはもちろん、初心者や新規ユーザーもしっかり気に掛けているなと感じました。
一方、昨今のeスポーツ業界では、特にFPS等の他ジャンルで「基本プレイ無料タイトル」が賑わっています。「ストリートファイター」チームは基本プレイ無料というモデルを、どのような視点で見ているのでしょう。
松本P:確かに基本プレイ無料にすると人口は増えます。ただし、無料のFPSは大体2~3年ぐらいで周期が流れており、新しいトレンドが出たらそっちに流れちゃうという傾向が、どうしてもありますよね。
一方、「ストリートファイター」は、ユーザーさんに長く遊んでもらっているというのが一番の強みです。無料にしたら人口が増えるのは、みなさん分かっていると思います。ただ、それよりも深いところがあると思っていて。長く「ストリートファイター6」を遊んでいただくようにしっかりとサポートしていきたいと考えています。
―楽しみにしています…!本日はありがとうございました!