リンクモンスターの中でも、特に多くのデッキで使われてきたハリファイバー。発表当日にはTwitterのトレンドに入るなど、大きな話題になりました。
しかし「ハリファイバー禁止」というニュースの影で、ある1枚のカードが制限復帰を果たしました。
それが「魔導書の神判」(以下、「神判」)です。
『マスターデュエルから』遊戯王を始めた方は「何それ?」というカードでしょう。それも無理ありません。このカードが登場したのは2013年、しかもたった半年しか使えなかったのですから。
しかし当時を知るデュエリストならば、「神判」の復帰は、下手すれば「ハリファイバー禁止」より大きなインパクトを持っていたはず。今回はそんな「神判」を、2013年の遊戯王を思い返しつつ、紹介します。
◆激震を持って迎えられた「魔導書の神判」
「神判」は2013年2月16日に発売したパック「LORD OF THE TACHYON GALAXY」で登場しました。早速、その効果を見て見ましょう。
速攻魔法
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、このカードの発動後に自分または相手が発動した魔法カードの枚数分まで、自分のデッキから「魔導書の神判」以外の「魔導書」と名のついた魔法カードを手札に加える。
筆者は以前、シンクロモンスターの「フルール・ド・バロネス」を解説した際、「一切合財強いことしか書いてない」「文句なしの化け物カード」と書きました。『マスターデュエル』をプレイ済みの方なら、この点は納得していただけると思います。
が、「神判」の内包しているカードパワーは、下手すれば「バロネス」すら比較になりません。
「神判」は簡単にいうと、魔法カードを使うほど「魔導書を補充できる効果」と「魔法使い族モンスターをデッキから特殊召喚できる効果」を持っています。正直、片方だけでも十分禁止レベルの強さです。
◆アド取り能力だけならば歴代最高峰
遊戯王をしている人なら、「アドバンテージ」という言葉を耳にした事があるでしょう。「自分に有利なように盤面を動かす行為」とでも言うべき概念です。
例えば、今回の制限改定で制限となった「イーバ」は、墓地に送られた時、フィールドか墓地から天使族・光属性モンスターを除外して、レベル2以下の同モンスターを手札に加えます。
遊戯王では、これを「手札アド2枚」などと表します。またイーバ1枚の消費(厳密には墓地コストを払っていますが)で、2枚のカードを増やしたため、「1:2交換できた」などとも表現します。
これを踏まえて「神判」を見てます。まず「神判」を発動した後、「増援」「死者蘇生」「サイクロン」という3枚の魔法カードを使ったとします。
すると、これだけでエンドフェイズに「魔導書」の魔法カードを3枚サーチし、レベル3以下の魔法使い族を特殊召喚できます。「神判」1枚で4枚のアドバンテージ、つまり「1:4交換」を実現したのです。
もちろん「増援」や「死者蘇生」などの効果は問題なく使えます。そのため全体的なアドバンテージはそれ以上といえます。
さらに2013年は「ブラック・ホール」「激流葬」などの全体破壊カードが“状況によって”、“1枚だけで”、“モンスターを複数破壊できる”ので、規制を受けているような時代でした。
◆登場と同時に「魔導」が一瞬で環境に
遊戯王において、手札と場の充実度は基本的に反比例の関係にあります。特に2013年は、今ほど強力なカードは少なく、その傾向が顕著でした。
そのため盤面を大きく動かそうとすれば、その分手札のリソースは枯渇して当然です。逆に「毎ターン、展開しながらサーチやリクルート」のできる「水精鱗」「3軸炎星」などが強力テーマとして、Tier1扱いだったのです。
しかし、そんな時代に「神判」は“好きな時に発動でき”、“他の魔法カードをつかうだけで”、“複数のサーチと特殊召喚を行える”という、何をどう考えても狂気としか思えないカードパワーを持っていました。「デッキからカードを引く」というようなランダム性さえなく、もはやリストバンドにカードを仕込む行為さえ可愛く見えるほどです。
しかも「魔導」は飛び抜けてこそいませんが、「魔導書」をサーチする「グリモの魔導書」や、墓地コストを使ってカードを除外する「ゲーテの魔導書」といった、優秀なカードを多く持っています。
一応「神判」が初手に来ない可能性もありますが、「魔導」には「グリモの魔導書」に加え、召喚・リバース時に「魔導書」魔法カードをサーチする「魔導書士 バテル」もあり、先行1ターン目から「神判」をサーチできるカードを6枚も持っていました。ちなみに「灰流うらら」はまだありません。
この結果、「魔導」はほぼ1ターン目から、大量にモンスターや魔法・罠を展開しつつ、無尽蔵に手札を充実させるデッキへ変貌しました。当然こんなデッキが弱いわけがなく、パック発売初日の大会で即優勝。遊戯王のデッキを「魔導」と「それ以外」に分裂させました。
とはいえ「神判」のすさまじさは発売前から知れ渡っており、プレイヤーからは「やっぱりな……」という雰囲気さえ漂っていました。わからなかったのは「なぜこれが刷られたか」という点です。
しかしさらに驚きだったのは、同じパックに「魔導」と互角以上に戦える「征竜」がいたことでしょう。詳しい事は省きますが、「征竜」と名の付く8種類のカード全てが1度は禁止カードになっていると言えば、その恐ろしさが伝わるかと思います。
◆突如注目が集まった「トゥーンのもくじ」
発売後、そんな「征竜」に対抗するため、「神判」を活用する方法が研究されました。
個人的に一番面白かったのが、「トゥーン」カードをサーチできる「トゥーンのもくじ」を使い、「トゥーンのもくじ」から「トゥーンのもくじ」をサーチし魔法カードの使用回数を増やす方法です。このコンボによって、それまでほとんど需要のなかった「トゥーンのもくじ」が急にカードショップのケースに入って売られ始めました。
そして研究の結果、7月から新たに禁止となる「虚無空間」を内蔵したモンスター「昇霊術師 ジョウゲン」などを特殊召喚する戦法などが確立。もはや「征竜」以外のデッキでは何をしても無意味となり、遊戯王は「征竜魔導」環境と呼ばれる時代に突入しました。
無論、こんな状況が許されるはずもありません。「神判」は登場から197日後の制限改定で禁止指定を受けます。当時、制限改定は半年に1回しかなく、神判発売後の直近の制限改定は2週間後の3月1日だったため、考え得る限り最速での禁止カード行きとなりました。
また「征竜」からも4枚のカードが禁止となりました。そのため合計5枚の無制限カードがいきなり禁止になった事になります。相当の異常事態ですが、当時の環境は異常事態というレベルではなかったので、妥当というしかありません。
◆「魔導書の神判」はどうなる?
しかし、この規制後も2年近く環境に居座り続けた「征竜」に対し、魔導は「神判」のみの規制で、一瞬で環境から姿を消しました。
その後も、筆者は強力な新規カードを何枚も見てきましたが、「神判」ほどの衝撃を受けたカードは“ほぼ”ありません。
そういうわけで個人的に「神判」は、宿儺の指2,000本くらいの特級呪物であり、未来永劫禁止カードの中に閉じ込められてしかるべき1枚だったので、正直、制限復帰には困惑しています。
一応、近年の新規テーマのおかげで「魔導」のカードパワーは相対的に下がっており、1枚だけで環境に返り咲くのは、まず難しいと思います。今は「うらら」などの手札誘発もありますし、かなりの確率で妨害されるでしょう。
ただ、それでも全盛期の世紀末っぷりが目に焼き付いているだけに、「神判」を使えるという事態その物が信じられないんですよね……。実際、「神判」は「魔法使い族」サポートとしても十分使えると思うので、うまく「ドラグマ」や「召喚師アレイスター」と組み合わさった場合、何が起きるのか想像もしたくありません。
何はともあれ「魔導書の神判」、せめて10月の制限改定をクリアして、2022年を乗り切ってくれるのを切に願っています。