かつてのシミュレーションゲームは、その大半が生産可能なユニットを用いる戦術ゲームでした。同じ役割のユニットに個体差はなく、いずれも同じ性能。
消耗しても替えの利く存在がほとんどでした。

その流れに大きな一石を投じたのが、『ファイアーエムブレム』(以下、FE)シリーズです。同じ兵種でもステータスの初期値や成長率に違いがあり、ユニットは「キャラクター」として個性を持っていました。成長要素も大きく、本シリーズの登場によって「シミュレーションRPG」というジャンルが広まっていきます。

本シリーズの人気は今も高く、メインとなるシミュレーションRPGシリーズ以外にも多彩な展開を遂げました。ドラマCDやコミカライズはもちろん、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズへの参戦も躍進のひとつ。また、一騎当千の爽快感が楽しめる『無双』シリーズとコラボレーションし、新たな体験を提供した点にも注目が集まっています。

しかも『無双』とのコラボは、2017年発売の『ファイアーエムブレム無双』のみならず、第2弾となる『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』が、本日6月24日にリリースされました。

『FE無双』はいわゆるオールスター的な切り口で、本来あり得ないはずの出会いを描くクロスオーバーが楽しめる1作でした。ですが『FE無双 風花雪月』は、2019年7月に発売された『ファイアーエムブレム 風花雪月』のみの単独で、『無双』とのコラボを果たしています。

独立して『無双』とタッグを組む理由はいくつも考えられますが、何よりもその人気の高さが最大の理由でしょう。3年近く前に発売された作品ながら、DLC展開や主人公の『スマブラ』参戦、そして今回の『無双』コラボと、いずれも大きな話題を呼びました。


すでに体験済みの方は『FE 風花雪月』の魅力を実感しており、この人気の高さも納得の一言。ですが、『無双』とのコラボで興味を持った未経験者にとっては、どんな理由で『FE 風花雪月』がプレイヤーを魅了したのか、気になる人もいることでしょう。

『FE』シリーズの特徴を継承した一方で、本作にしかないポイントで多くの方々を虜とした『FE 風花雪月』。今回は、人気を博した本作ならではの独自要素について、ネタバレなしで紹介します。この記事で興味を持った方は、ぜひ『FE 風花雪月』を遊んでみてください。

■幕開けから特徴的! 学び舎での日常を、教師と生徒の関係性で描く
『FE』シリーズにおける主人公の立場は様々ですが、『FE 風花雪月』の場合、これまでになかった「教師」という立場に就きます。また、主人公と共に戦う面々は、教えを請う「生徒」が中心。その舞台となる学び舎「ガルグ=マク大修道院」にて、物語の幕が本格的に上がります。

本シリーズの場合、既に動乱が始まっていたり、その先駆けとしての戦いからスタートする場合がほとんど。ですが本作の場合、戦乱の火種はあるとはいえ、当面は落ち着いている状態から始まり、訓練の日々をしっかりと描きました。

訓練から始まる作品と言えば、『新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』も当てはまりますが、こちらはプロローグ的な役割だったのに対し、『FE 風花雪月』では第1部に相当。全体的には2部構成になることから、占める割合の大きさが分かります。


学びの期間、言い換えるなら「戦乱ではない日常」を描く期間を設けたことで、当然様々なメリットが生まれました。訓練を通して腰を据えて育成できるといったゲーム上のメリットもありますが、キャラクター同士の交流や関係性の描写をより濃密に行えるようになったのです。

教師と生徒という立場柄、関わる機会も自然と増え、そうした交流の中で人となりが見えてくると、愛着も湧いて気持ちが入りやすくなります。また、主人公との関係だけなく、生徒同士の繋がりを垣間見るのも楽しいもの。『FE』で味わう学園生活といった新たな切り口は、これまでにない刺激を見出しました。

■本作の2部構成は、かつての生徒同士が刃を向け合う過酷な展開に
修道院での日常が第1部ならば、第2部には何が訪れるのか。斬新な幕開けを迎えたとはいえ本作も『FE』なので、やはり戦争が始まります。ネタバレ回避のため、ストーリーや詳しい経緯には触れませんが、他のシリーズ作に負けないほど過酷で厳しい状況です。

2部構成という点だけ見ると、『FE』には数多くの2部作があります。初代『暗黒竜と光の剣』は後に出た『紋章の謎』で2部構成になり、そのリメイク版も2部構成を引き継ぎました。『封印の剣』の過去を描いた『烈火の剣』も2部構成と言えますし、『蒼炎の軌跡』と『暁の女神』はハードの壁を越えて2部構成を展開しました。

ですが、こうした2部構成と本作が異なる点のひとつは、同じ学び舎で育った者同士が刃を交えること。
親しかった個々人が陣営を違えて対立することはありましたが、クラス単位の人数がそれぞれ対立する規模は、本作が初となります。

かつて同じ場所で短くない時間を過ごし、言葉を交わした思い出を持つ者同士が、戦場で対峙するという理不尽。好感や尊敬をも塗りつぶす「戦争」という行為の非情さが、これ以上ないほど明確な形で描かれています。

非情な2部作といえば、親世代から子世代に受け継がれる『聖戦の系譜』もかなりのインパクトがありましたが、方向性がまた異なるため、『FE 風花雪月』の厳しさも決して負けておりません。

■どのルートを選んでも、先に待つのは凄惨な戦い……!
学び舎の教師として始まる『FE 風花雪月』は、最初に担当する学級を選びます。出身によって分けられた「黒鷲の学級(アドラークラッセ)」、「青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)」、「金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)」の3つから選択可能。

この選択は、導く生徒=第2部で共に戦う仲間を誰にするか、といった意味もありますが、「展開する物語の変化」も意味します。つまり、選んだ学級によって物語が変わり、たどり着く結末も異なります。いわゆる「ルート分岐」が、本作には用意されているのです。

『FE』シリーズのルート分岐といえば、『if』を思い出す方が多いでしょう。あちらも、物語やエンディングが異なるルートが複数ありました。そのため、ルート分岐そのものは本作独自の要素とは言えません。


しかしその内容について、『if』とは大きく異なる点があります。それは、協力し合うルートがないこと。『if』の場合、白夜王国側で戦うか、暗夜王国側で戦うかといった選択のほかに、透魔王国と戦うルートがDLCで追加(限定版には内包)されました。

透魔王国との戦いでは、暗夜と白夜、それぞれの陣営にいた面々が仲間に加わり、同じ目的のために手を取り合います。他のルートでは戦場で戦うしかなかった相手同士が力を合わせる展開は、プレイヤーにとって胸が熱くなるばかり。

一方、『FE 風花雪月』のルート分岐はどれも、それぞれの道を歩く姿を描くもの。どれを選んでも、帝国、王国、諸侯同盟の戦いは避けられません。プレイヤーの選択次第で仲間になる相手と、どうあがいても戦わなければなわない現実。この厳しさを突きつける点も、『FE 風花雪月』の特徴と言えるでしょう。

ちなみに、本作でも新たなルートはDLCで登場しましたが、『if』のDLCとは方向性がやはり異なっています。

■気に入った生徒と共に戦える「スカウト」に潜む業の深さ
出身によって陣営が分かれ、同じ学び舎で過ごした者同士が戦う。その過酷さは『FE 風花雪月』の基本軸ですが、個人に限ってみれば、必ずも当てはまるわけではありません。
それを可能にするのが、本作に用意されたシステム「スカウト」です。

学び舎にいる間、特定の条件を満たすことで、他学級の生徒をスカウトすることができます。スカウトに成功した生徒は、自分の学級に編入するだけでなく、第2部では自軍に参加。お気に入りの生徒がいた場合、学級が違っていてもスカウトさえできれば、全編を通して共に戦えます。

各学級の級長や一部の生徒はスカウトできませんが、可能なキャラの方が明らかに多く、編成の組み合わせは多岐にのぼります。が、それはあくまでシステム面の話。作中の状況としては、引き抜いた生徒を出身国と戦わせる、といった一面が確固として存在します。

スカウトというシステム自体は、それこそ初代の頃からありました。しかしこれまでは、戦闘中に事情を話し、こちらに属するという判断を相手が下す流れが大半です。しかし『FE 風花雪月』の場合は、「生徒の人生」を大きく変える意味合いも含まれます。

プレイヤーが気に入ったキャラと対立せず、仲間にできる「スカウト」。それは嬉しい機能でありながら、生徒の未来を大きく変える業の深さも併せ持つ形になりました。
同じ出身国同士の人間が、「スカウト」によって戦い合う。そんな世界の過酷さに、プレイヤー自身すら加担してしまう……『FE 風花雪月』は、本当に恐るべきゲームです。

厳しい世界と現実を、妥協なく綴る『ファイアーエムブレム 風花雪月』。その姿勢は、間口を広く取る昨今の流れとは風向きが異なります。その意味では、人を選ぶ部分もありますが、だからこそ惹かれる方がいるのでしょう。

シリーズの中でも目立った個性を放つ本作を、今からプレイしてみるのも一興です。また、本日発売の『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』から遊んでみるのも、面白い試みかもしれません。アクションとSLG、その両面から『風花雪月』をご堪能ください!
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