バストアップ主流のコスプレ撮影から脱却！“武器持ちのゲームキャラ”が人気な今こそ、広角レンズで全身を撮る絵作りが活きる【撮り比べあり】

コスプレ…今やアニメやゲーム、同人イベントなどで撮影エリアが用意されているのはもちろん、多くの企業がコスプレイヤーを起用する時代です。8月に開催された「コミックマーケット102」でも、躍動するコスプレイヤーを多くのカメラマンが追いかけました。良い写真を残したいのはコスプレイヤー、カメラマン双方同じ。しかし機材の制約が多いイベントでは、カメラやレンズの選定が良い結果を生むために大きな割合を占めます。中でも、絵作りに大きな変化をもたらすのがレンズの画角です。ただ、実際のコスプレイベントでは、中望遠レンズ（50mm～200mm）を使うカメラマンが大多数です。しかし、ここであえて広角レンズという選択肢があって良いのではないでしょうか。筆者はこれまで数多くのコスプレイベントを取材してきましたが、広角レンズだからこそ撮れる絵作りを何度も発見してきました。本稿では「コミックマーケット102」で撮影したモデルさんの写真を例に、広角レンズと中望遠レンズそれぞれの良さを比較しながらご紹介します。今後、イベントにおけるコスプレ撮影の参考になれば幸いです。協力してくれたのは、あおいさん（X：@_aoi_oi）です。※カメラマンごとの解釈で広角領域の判断は異なるのですが、本稿では24mmを広角、35mmを標準～広角、50mmを標準～中望遠という形で紹介します。◆中望遠レンズが選ばれる理由まずは、レンズの画角の広さについて説明します。レンズの画角はそのまま、被写体との距離に直結するため、数字が大きくなるほど全身を映すために被写体から離れる必要があります。つまり、広角レンズ（24mmや35mm）は被写体からさほど離れなくても全身を映すことができます。しかし、中望遠レンズ（50mm～）になれば被写体から離れなければいけません。被写体から距離を取るというデメリットがありますが、中望遠レンズは撮影した際に四隅が歪みにくく、背景をボカしたり、人物と背景を圧縮して一枚絵のように凝縮された絵作りができるため、好まれています。一方で、広角レンズは本来は風景や建築物など広い画角が必要な撮影で使われてきました。画角が広くなると四隅が歪むため、例えばバストアップを撮るのに不向きですし、背景があまりボケないので人物撮影では使われる頻度が少ないです。人物撮影なら35mmもしくは50mmのレンズを標準画角と考えるカメラマンが多いものの、「背景を取り入れた絵作りなら35mm、人物のバストアップで背景をボカしたいなら50mmという使い分け」が目立ちます。とくに、50mmは人間の視覚に近い画角と言われているので使い勝手が良い気がします。そのため、コミケイベントのよう撮影エリアで人の写り込みが避けられない場合は、背景がよりボケる写真のほうが向いていると考えられます。◆イベントで撮影した写真を発表する場は、SNSがメインイベントでは基本的に列に並んで順番に撮るため、コスプレイヤーの撮影時間が短い傾向にあります。短い時間で失敗が少ないと考えれば、中望遠レンズはどれも便利です。なぜなら、35mm～24mm、あるいはそれ以上の広角レンズだと歪みが発生するため、人物の足が短く見えたり、頭の形が歪んだりするといったリスクがありますし、背景もボケにくいからです。どうしても全身を写したいなら、歪みの発生が少なくて背景も十分ボケる50mmレンズで、被写体と離れすぎない距離で撮影ができます。また、イベントで撮影したコスプレ写真の発表の場は主にSNSです。フォトコンテストや写真の認定サイトなどに発表することはあまりないでしょう。そのため、SNSでのインプレッションをいかに獲得するかが重要視されがちです。その結果、コスプレイヤーさんのファンにもウケが良い、被写体の顔が大きく見える、背景がボケている、顔が盛れているバストアップ写真が選ばれるようになります。この点も中望遠レンズが好まれる理由ですし、実際に現在のイベントでのコスプレ撮影は、背景の映り込みを避けたい狙いもあって、バストアップが主流です。◆広角レンズでしか撮れない絵作りとはではなぜコスプレイヤーを広角レンズで撮るのか。それは、コスプレされるキャラが日常系作品だけでなく、武器を持ったアクションポーズが映える作品が多いからです。『Fate/Grand Order』や『原神』『勝利の女神:NIKKE』『ブルーアーカイブ』など人気ゲームのキャラクターは、その多くが剣や銃など長物の武器を所持しています。そういったキャラに扮するコスプレイヤーを撮影する際、デメリットだった広角レンズ特有の四隅の歪みはメリットに逆転します。長物やマントなどを四隅に向けて撮影することで、アニメや漫画でよく見られるデフォルメされたアクション演出が可能となるからです。さらに一歩進んで、角度をつけた撮影が可能となるので、動きに躍動感が見られる絵作りができます。これが50mmレンズ以上だと下から煽った撮影などで角度が付けられません。◆24mmと135mmで撮り比べ実際に両極端ではありますが、24mm（広角）と135mm（望遠）の単焦点レンズで撮り比べました。私の使い方としては24mmはアクションポーズの躍動感を、135mmはキャラにフォーカスしたワンシーンの切り抜きをイメージして使い分けています。24mmと135mmではレンズの口径の大きさも異なるので、光の捉え方も変わります。同じバストアップでも写真が違ってきます。24mmでは動きを付けた絵作りを意識し、135mmでは作品の中からキャラの静止画を切り抜くことを意識します。135mmはボケがとても大きいことが評価されていますが、それ以上に背景と被写体の圧縮感が抜群のレンズです。絵画のような一瞬を切り取ったような絵作りをすることに向いています。135mmだからといって、F値フル開放でボカしたり、バストアップを撮ったりするだけでなく、背景も活かした全身を撮ってほしいです。ともすれば、ズームレンズを使って撮影するカメラマンの中には、被写体との距離感の調整のために画角を変えているだけだと考える人もいるかもしれません。しかし、キャラに合わせて絵作りを変えるのが大前提で、そのために画角を選ぶんだと意識するだけで写真は変わるはずです。この考えが最高の一枚を追い求めるヒントになれば幸いです。モデル：あおいさん（X：@_aoi_oi）撮影：乃木章（X：@Osefly）