ちょうど35年前、1988年10月29日に家庭用ゲーム機「メガドライブ」(以下、メガドラ)が発売されました。発売直後はファミコンやPCエンジンのライバルとして台頭し、後に登場したスーパーファミコンとも肩を並べ、数々の名作を生み出しました。


メガドラはアーケードゲームの移植も多く、『ゴールデンアックス』や『大魔界村』、『ストライダー飛竜』など、通好みのラインナップでコアなファンを獲得。また、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』をはじめとするヒット作も飛び出し、メガドラ市場は活気づいていきました。

35周年という記念すべき節目を迎えた今日、この名機や人気の高かったメガドラソフトを多くの方が語ることでしょう。ですが、有名な作品だけがメガドラを支えたわけではありません。

熱烈なメガドラファンは別として、当時の一般的なユーザーにはあまり知られていなかった作品も少なからずあります。そこで本記事では、かつてゲーム友達に語っても話が通じなかった特にマイナーな作品を振り返り、メガドラ史の中でもめくられにくい1ページを紐解かせていただきます。


今や個人でも、SNSで世界中に情報を発信できる時代です。メガドラの人気作や隠れた名作について語る機会は個々人にお任せし、この記事では「これを知ってたらかなり通かも!?」な作品4本をセレクトしてお届けします。

なおマイナー度の判定は、筆者が当時感じた周囲からの反応を元にしており、一般的な認識と異なる場合があるかもしれません。その点、なにとぞご了承ください。

■『アローフラッシュ』
当時はシューティングゲームの人気も高く、硬派な作品から個性的なものまで、その方向性も様々でした。多彩な作品の海に埋もれないよう、それぞれがユーザーの目に留まる工夫を凝らしてきましたが、そのひとつの施策が「美少女」です。


例えば『武者アレスタ』はパッケージに美少女を押し出しましたが、ゲームとしての完成度も高く、見た目と中身を両立させた名作として知られています。また、強烈な世界観との合わせ技でコアな層に響いた『バトルマニア』『バトルマニア大吟醸』も、かなり印象深いSTGです。

こうした「美少女+STG」の中で、残念ながら存在感が薄かったのは、1990年にセガが放った『アローフラッシュ』です。

横スクロールSTGの『アローフラッシュ』は、全体的にアニメ寄りのグラフィックで描かれており、CGによるアニメーションで構成されたOPはなかなかの力作。またステージ1では、背景で宇宙ステーションが落下するシーンを描写するなど、作品の随所でこだわりの演出を見ることができます。

またゲーム性も、戦闘機形態とロボット形態を任意で切り替え可能だったり、「アローフラッシュ」と呼ばれる必殺技的なスペシャルアタックなど、プレイを単調にしないようにといった工夫が感じられます。


ちなみに「アローフラッシュ」は、戦闘機形態とロボット形態でそれぞれ効果が異なっており、そのこだわりぶりもまた良し。切り札が作品のタイトルになっている点も、なかなか心をくすぐってくれます。

こうした特徴を持つゲームですが、敵を倒した時の爽快感がやや薄かったり、敵の攻撃が単調に感じる時もあるなど、STGとしての練度が少し甘かった面もありました。その辺りが影響したのか、あまり広く知られることはなかった模様です。

ただし、小説「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」の挿絵などでも知られている赤石沢貴士氏による美少女が本作のパッケージを飾っています。かなり印象的なので、遊んだことはなくともそのビジュアルを見たことはある、という人は多いと思います。
当時ゲームユーザーだった方はぜひ、「アローフラッシュ パッケージ」で画像検索をしてみてください……!

■『ヴィクセン357』
「ロボットもの+SLG」と聞けば、多くの方は『スーパーロボット大戦』を思い出すことでしょう。その始まりは1991年まで遡りますが、翌年の1992年に発売された『ヴィクセン357』も、「ロボットもの+SLG」のジャンルに登場しました。

こちらもOPはCGアニメで、動きこそ少な目ですが、一人ずつ姿を見せては消してを繰り返したり、最初にキャラを大きく見せた後に枠を出して収めるといった、こちらが自然と目を向けてしまう構成が光る映像です。

ゲームシステムは、マス目で区切られたマップを舞台に、ターン制で戦くポピュラーな形。ただし、パイロットと機体は自由に組み合わせることができ、エース級の機体を女性パイロットに任せるといったプレイも可能です。

また、機体によっては武装も選択できるので、射程の長い武装を揃えて遠距離戦主体で挑んだり、ダメージ重視で構成したりと、自分好みの編成で攻略する楽しみがありました。


そして特徴的だったのが、やられたパイロットや機体は、そのままロストする点です。やられる=死亡と言えば『ファイアーエムブレム』シリーズが有名ですが、『ヴィクセン357』でも同じような緊張感を味わいました。

このように個性をしっかりと持った作品だったのですが、まず難易度が高めで、爽快感よりも手間が上回るゲームバランスでした。戦闘シーンにおける機体の動きも乏しく、せっかくカッコいい機体に乗っていても盛り上がりに欠けてしまいます。

力の入れようを感じる部分はあるものの、ゲーム部分が万人に向けたものとは言い難く、やられる=ロストの厳しさも手伝って、本作の存在はどうしても埋もれがちでした。

ちなみに『ヴィクセン357』は、1990年に発売された『飛装騎兵カイザード』と同じ世界観を持つ続編的な作品でしたが、『飛装騎兵カイザード』はPCエンジンのゲーム。
対するこちらは、メガドライブ向けでした。関連性はあるのに、機種をまたいでの展開だったのが、あまり知られなかった要因のひとつかもしれません。

■『ソーサルキングダム』
ここまで、マイナーな作品として2本をチョイスしましたが、それでも『アローフラッシュ』は魅力的なパッケージで、『ヴィクセン357』は『飛装騎兵カイザード』とのつながりで、ある程度の人が覚えているかもしれません。

ですが、RPGジャンルのマイナーゲームとして今回ピックアップした『ソーサルキングダム』は、そうした“目立つポイント”に恵まれておらず、見た目の地味さも手伝ってあまり知られることのない作品でした。

当時、RPGは非常に人気が高く、ヒット作が次々と生まれていきます。しかし、必然的に競争相手も多く、注目される作品がある一方で、その影に隠れてしまうものも少なくありません。この『ソーサルキングダム』も、そちら側に回ってしまったゲームです。

しかし、 1992年の発売から30年以上の時を経て伝えたいのは、『ソーサルキングダム』が持つ素晴らしい点の数々です。特に分かりやすいのがバトル回りのシステムで、本作はシンボルエンカウント制のターンRPGですが、敵と接触して戦闘に突入しても画面は切り替わりません。

本作におけるバトルは、フィールドがそのまま戦いの舞台になります。戦闘前は自由に移動できますが、戦闘が始まるとマス目を移動するタクティカルバトルへとシームレスに移行。敵の後ろに回りこんだり、味方同士で挟んだりしながら、隣接して接近攻撃を加えたり、遠距離から魔法を繰り出してダメージを与えます。

フィールドがそのままバトルの舞台になるシステムは、前例がないわけではありませんが、当時のRPGは移動とバトルを切り離すことが多く、この体験は刺激的でした。

また、経験値の概念がなく、主人公や仲間は冒険の過程で徐々に強くなっていきます。戦闘の結果でステータスが伸びることもありますが、いわゆる「レベル上げ」の必要性がない気ままさも嬉しいポイントのひとつです。

戦闘以外のシステムでは、プレイヤーへの気配りを感じる箇所が多く、まずキャラクターの歩く速度は速めで移動に関するストレスはありません。そして住人に話しかける時は、接触するだけでOK。一般的なRPGにある「ボタンを押して話しかける」という手間がないので、情報収集も実にスムーズです。

ありふれたものではないバトルシステムや、遊びやすいシステム周りなど、感心する点が多い『ソーサルキングダム』。そんなゲームがなぜ、知られなかったのか……と嘆きたいところですが、ストーリーの弱さが大きな要因だったと推測しています。

特に大きな問題がある、というわけではないものの、RPGにおいてストーリーの重要性は問うまでもないほど。それは今も昔も変わらないので、嘆きとしては「もっと盛り上がる物語だったら……」という思いの方が強い作品でした。

■『ボールジャックス』
最後に紹介したいのが、ユニークな対戦アクション『ボールジャックス』です。本作の発売元は、バンダイと合併する前のナムコ。同社は当時、名作と名高い『レッスルボール』や、可愛らしいビジュアルも好評だった『マーベルランド』、美少女+奥スクロールSTGの『バーニングフォース』など、様々なタイトルをメガドラ向けにリリースしていました。

こうした作品と比べると、『ボールジャックス』の名は知られておらず、ナムコ作品だという認識していた方も少なかったかもしれません。しかし決して悪い作品ではなく、むしろゲーム性はしっかりしており、対戦ツールとして高い完成度に達していました。

『ボールジャックス』は向かい合ったカニ型のメカ同士が、相手の陣地にあるボールを奪い合って勝敗を決めます。最初は互いに2つずつボールを持ち、4つ全てを自陣に置いたまま一定時間が過ぎると勝利。勝敗を左右するボールの奪い合いが、本作のカギとなるのです。

ボールを奪うには、まず左右の爪(ロケットハンド)を飛ばしてキャッチします。うまく掴んだら、ゆっくりとこちらに向かって飛んできますが、その間に敵の爪が当たると奪い返されてしまうので、狙われないよう動かしながら戻ってくる時間を稼ぎます。

爪を飛ばす速度は、早くもなく遅くもない程度で、その絶妙な塩梅が重要です。例えば、ボールを奪われた直後なら距離が近いので奪い返しやすいものの、相手の陣地に近づくほど距離が離れ、狙っても届くまでタイムラグが生じます。その時間差があればあるほど、相手は交わしやすくなるという寸法です。

「じゃあ、奪われたらボールのそばにすぐ行こう」と考えがちですが、相手が掴んで移動中のボールに触れると、自機はダメージを受けてしまいます。そして4回ダメージを受けると爪を失い、ボールの奪い合いが一切できなくなる状態に。幸い修理が可能ですが、直している間もゲームは進むのでボールは奪われ放題、非常に危険な状態に陥ってしまいます。

爪の速度と距離を見越したボールキャッチ、隙を狙って相手にダメージを与える立ち回り、奪われたボールを取り返す瞬発力と判断力など、息つく暇もないほど濃密な対戦が味わえる『ボールジャックス』。独特かつ完成度の高いゲーム性は、高く評価されて然るべき出来映えだったと今も思っています。

……思ってはいますが、同時に知名度が伸び悩んだ理由も分かる気はします。その独自性の高さがゆえに、ぱっと見で遊び方が分からず、そのルールを学ぶのにまず一山を超えなければなりません。

また、緊迫感のあるバトルを用意したかったのだと思いますが、最初の敵ですらAIが手ごわく、慣れていないと一方的にやられて終わることもしばしば。仮に興味を持って触れたとしても、最初の敵にすら勝てなかったらプレイは続きません。難易度の高さが「壁」となったのも、『ボールジャックス』の広がりを阻んだひとつの要因でしょう。

今回取り上げた4本だけでなくゲーム作品全般に言えますが、作品の知名度を左右するのは遊んだ人から伝わる口コミです。面白いゲームと感じた人が多ければ、それだけ他の人に伝わりやすくなります。特に当時は、今のように使えるインターネットはないため、雑誌以外では友達同士の口コミが貴重な情報源でした。

様々な理由から、有名な人気作品にはなれなかった今回の4作品。ですが、どのような作品でも、完全に忘れ去られることもまたないのでしょう。メガドラにとって大事な節目に、有名な人気や知られなかったメガドラソフトを語り合い、この良き日を楽しみましょう。