初代『サイレントヒル』や『SIREN』を手がけた外山圭一郎氏の最新作にして、自身の手で立ち上げたゲーム開発会社「Bokeh Game Studio」のデビュー作でもあります。
『野狗子: Slitterhead』の魅力は、NPCに憑依するゲームシステムです。これは、憑鬼が九龍の住人たち(NPC)や「稀少体」と呼ばれる味方の人間に乗り移ることで、キャラクターの移動・戦闘が可能になるというもの。
本作が発売されてから、SNSなどでは憑依システムを評価する声を多く見受けられました印象でした。特定の人物ではなく、モブキャラクターを操作できる点は、昨今のアクションアドベンチャーゲームにおいて珍しいですよね。
筆者も本作をプレイしてみたところ、“あること”に気づきました。そこで本稿では、『野狗子: Slitterhead』の憑依システムにフォーカスし、筆者が感じた面白さについて解説していきます。
■憑依システムの面白さは「ロールプレイ」にあり!
憑依システムを駆使した戦闘や探索も面白いのですが、筆者が感じた特徴であり魅力は「ロールプレイ」の要素です。
ゲームは「九龍を探索して野狗子を見つけ出し、討伐する」という流れで進行します。そして、ターゲットとなる野狗子の発見・討伐には、九龍の住人ならびに稀少体の協力が必要です。
野狗子との戦闘では、住人たちの協力が不可欠です。プレイヤーは複数のNPCに乗り移りながら、敵にダメージを与えていきます。
なかでも、戦闘能力も体力も高い稀少体が便利なのですが、やられそうになったら近くの住人に憑依したり、住人を囮にしたりするなど、多彩な戦い方も可能です。
しかし筆者は、主役っぽい稀少体たちではなく、あえて九龍の住人でボスに挑んでみるという唯一無二の楽しみ方を見出しました。SNSでも話題になりましたが、パンツ一丁のおっさんやつっかけサンダルを履いたおばちゃんなど、個性豊かな住人たちを操作して強敵に挑める点が本作の面白いところです。
脇役だろうと、この瞬間だけゲームの主役になれるわけです。憑依できるキャラクターは、全員主役の資質があると言っても過言ではありません。
そんなこんなで、九龍の住人たちをかっこよく魅せるために憑依を続けた結果、彼らに愛着が湧くようになりました。外見も性別も異なる住人たちを操作していると、いつしか彼らと一体化したような気分になるのです。憑依を重ねれば重ねるほど、九龍の住人らしく振る舞おうという意識が芽生えてきました。
こうした憑依システムの面白さに気づいてからは、探索がさらに楽しくなりました。住人になりきって街を探索していると、まるで思い出深い故郷に戻ってきた気分に浸れるからです。ただ単に憑依するだけでなく、ひとりひとりの背景を想像するとより没入感が増すのでおすすめです。
このように、憑依システムは『野狗子: Slitterhead』の世界に没入させる役割を果たしていると言っても良いでしょう。九龍の住人たちになりきることで、深みのある体験が味わえるようになるので、ぜひどっぷり浸って遊んでみてください。
<cms-pagelink data-page="2" data-class="center">モブを救いたくて……聖人プレイを開始!</cms-pagelink>
■九龍の住人たちを救いたくて聖人プレイを始めました
『野狗子: Slitterhead』に登場する住人たちは、基本的に「使い捨て」とされています。しかし、先述のとおり九龍の住民に愛着が湧きまくってしまった筆者は、犠牲者をひとりも出さない「聖人プレイ」に徹していました(一部のイベントを除く)。
戦闘中であろうと、瀕死状態の住人を見つけたら救助を優先します。放置しても問題ないのですが、もうこの世界の一部と化していたのでどうしても見捨てられず……。
探索中、下に降りるのが面倒なのでビルの屋上から飛び降りるというケースがありました。屋上から飛び降りたタイミングで下にいる住人に憑依すれば、即死ダメージを受けずに済みます(NPCに憑依した状態で3回やられるとゲームオーバー)。ただし、飛び降りた住人は瀕死状態になってしまうのです。
聖人プレイに徹しているので、犠牲者は見つけ次第即救助が鉄則です。「ごめんね」と心の中で詫びながら、瀕死状態の住人を助けます。彼らは使い捨て要員とはいえ、ロールプレイにハマってからは申し訳ない気持ちが……。
なお、稀少体である「ジュリー(JULEE)」は、自身と味方NPCの体力を回復させるアクティブスキル「リバイブオール」を持っています。RPGでよく見かける「全体回復魔法」に近いですね。
これを使えば、複数の味方NPCたちをまとめて回復させられるので、聖人プレイ縛りに挑む際は、必ずジュリーをミッションに同行させましょう。
本作は「倫理観が皆無」と評価されていますが、ロールプレイの面白さに気づいたら九龍の住人たちを助けてあげたくなるはず。倫理観と利便性の間で葛藤しながら、聖人プレイ縛りで挑んでみるのも悪くないかもしれません。
■まとめ
以上、『野狗子: Slitterhead』の憑依システムにフォーカスして魅力をお伝えしました。NPCを使い捨てながら戦う仕様は確かに斬新です。しかし筆者としては、九龍の住人になりきれるロールプレイ体験に魅力を感じました。
モブキャラになりきってボスを討伐する、九龍の住人たちに愛着が湧く、瀕死状態の住人を助けたくなる。本作ならではの没入度のあるゲーム体験が、憑依システムによって実現されていると感じました。
そして憑依システムはもちろん、緊張感たっぷりの戦闘や先が気になるストーリーも『野狗子: Slitterhead』の魅力です。独特、もしくは癖が強いゲームではありますが、食指が動いたら本作の世界に引き込まれることでしょう。本稿がそのきっかけになれば幸いです。
©2021 Bokeh Game Studio Inc.