横スクロール型の広大なマップを舞台に、探索やギミック攻略、数々のボスとの戦いを楽しめる作品群を、多くの人が「メトロイドヴァニア」と呼んでいます。

メトロイドヴァニア作品は、探索を通じて強い武具やスキルを見つけたり、敵を倒してレベルアップするといった、いわゆるRPG的な要素を持つ作品が多数あります。
そのため、アクション面で腕を磨きつつ、育成でステータスを強化し、プレイヤーとキャラクターがそれぞれ強くなるのが定番です。

しかし、徐々にメトロイドヴァニア作品の高難易度化が顕著になり、一定以上のテクニックが必要でトライ&エラーが前提な、いわゆる「死にゲー」とも呼ばれるような作品が増えていきました。もちろん、全ての作品が高難易度化したわけではありませんが、黎明期と比べるとその差は明らかです。

メトロイドヴァニアの新作が出るたびに、「これは高難易度なのか?」と確認する人も少なからずおり、難しさを乗り越える達成感を提供する作品が年々増えてきました。

そんな折に登場した『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』(以下、エンダーマグノリア)は、こうした流れに乗ることなく、「死にゲー」と決別したメトロイドヴァニア作品として登場し、注目を集めます。

「何でも死にゲーにするのはやめませんか」(ファミ通.comインタビューの発言から抜粋)という発言をきっかけに、高難易度以外の切り口でプレイ体験の充実を目指した『エンダーマグノリア』には、どのような調整や挑戦が盛り込まれていたのでしょうか。

■『エンダーマグノリア』が見せた「探索」「道中の戦闘」「ボス戦」の魅力と挑戦
探索アクションとして多くのファンを虜としたメトロイドヴァニアの中には、『Hollow Knight』や『Salt and Sanctuary』など、ソウルライク要素を取り入れたものも多く、プレイヤーたちはトライ&エラーを繰り返しました。

また近年の例では『九日ナインソール』が非常に手ごわく、心を折られた経験を持つ人もいることでしょう。もちろん、難易度の高さとゲームの良し悪しに直接的な関係はなく、この3作品はいずれも高く評価されています。

しかし、難易度の高い作品は達成感が得られる反面、初心者にとって厳しい体験になりがちです。ゲーム体験で得られる「楽しい」をどの部分に置くかはゲームそれぞれで異なりますが、高い壁の向こうに「楽しい」を設計するゲームは、どうしても間口が狭まりやすくなります。

この問題に様々な作品が試行錯誤する中、『エンダーマグノリア』がどんな形で「楽しさ」と「難しさ」の両立に挑んだのか。
「探索」「道中の戦闘」「ボス戦」という3要素+αに分けて迫ります。

■「探索」の意欲を途切れさせない、丁寧なマップ機能
未知のステージに進み、その先にある発見と巡り合う「探索」は、メトロイドヴァニアの楽しさを支える重要な要素です。強い武器を見つければ戦闘が楽しくなり、アクションの幅が広がるスキルを獲得すれば、これまで行けなかった場所に到達し、「探索」の幅をさらに広げられます。

『エンダーマグノリア』にも「探索」の楽しさがたっぷりと詰め込まれています。キャラの強化に繋がる様々なアイテムの取得、ストーリーを補強する物語の断片との出会い、隠し通路の発見、初見では行けなかった場所に後々辿り着く手応えなど、こうした「小さな驚き」の積み重ねがプレイ意欲を大いに高めてくれます。

本作はこうした「探索」の基本がしっかりと練られている上に、「探索」そのものをサポートする機能が非常に優れており、同ジャンルの作品と比べてもトップクラスと言ってもいいほど。

例えば、辿り着いたフィールドの全景を表示するマップ機能は、メトロイドヴァニアの基本ともいえるシステムですが、『エンダーマグノリア』のマップは、全て調べ尽くしたエリアを色付きで表示します。色がつけば、そのエリアで探索する必要がなくなるため、“発見があるかないか分からない場所を探し続ける”という不安と無縁でいられます。

マップの色付き機能自体は、前作に当たる『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』(以下、エンダーリリーズ)にも搭載されていましたが、『エンダーリリーズ』のマップはどのフィールドもブロック状の四角形で表示されています。

フィールドの形状に合わせて、縦長や横長などサイズに違いはありますが、マップ画面だけでは各フィールドの繋がりが分かる程度に留まるものでした。ちなみに、この表示は『エンダーリリーズ』が特に簡素というわけではなく、メトロイドヴァニア作品の中では標準的か、むしろ良い部類に入る作りにはなっています。

しかし『エンダーマグノリア』のマップは、フィールドのシルエットをそのまま縮小しており、マップを眺めるだけでどんなフィールドなのか一目瞭然。
また、辿り着いた時点で通行できない箇所には、“何が行く手を阻んでいるか”が表示され、それを超えられるアイテムを手に入れた時、どこに行けばいいのかマップ画面を見るだけで分かります。

このほかにも、発見はしたがまだ取得していないアイテムの有無もマップ上に表示されたり、フィールドのどこにいてもマップ上から発見済みの中継地点にファストトラベルできたりと、その細やかな気配りに驚かされるばかりです。

一見しただけでは分かりませんし、地味といえば地味な部分。そのため話題になりにくいのですが、機能が充実したマップ機能の恩恵はゲームプレイにも大きな利点を生みます。無駄な試行錯誤が減り、フットワークの向上にも繋がるこのマップ機能のおかげで、「探索」の楽しさが途切れることなく続くのです。

■手ごわい「道中の敵」には、特徴的なスキルで対処
「探索」を行うエリアのほとんどに、数多くの敵が待ち構えています。こうした「道中の戦闘」は、「探索」を楽しむためにも避けて通れません。

高難易度のメトロイドヴァニア作品は、「道中の戦闘」も手ごわい場合がほとんどです。次の中継地点に辿り着くどころか、その途中で何度も倒れ、雑魚のはずなのに苦戦を繰り返す……なんて経験を持つ人もいることでしょう。無論筆者も、様々な作品でその苦みをたっぷり味わいました。

対して『エンダーマグノリア』はどうかと聞かれれば、個人的な体験が元になりますが、まず序盤にかなり手こずらされました。本作の道中にいる敵は、強さ(与ダメージ量など)もさることながら、遠距離攻撃を持つ者も多く、中には誘導性のある弾を放つ敵もいました。


そんな敵が1体だけでも厄介なのに、複数体いる場合も多く、その辛辣な幕開けに一抹の不安も感じなかったかと言えば嘘になります。しかし、その印象はゲーム進行と共に変化していきました。

本作ではゲームが進むとホムンクルスが仲間になり、彼らは「スキル」という形で主人公(とプレイヤー)を手助けします。最序盤は“コンボが可能な斬り”というベーシックかつ汎用性の高いスキルだけですが、「突進攻撃」「強力なカウンター」「射程の長い遠距離攻撃」といったスキルが手に入るたびに戦闘時の選択肢が増え、敵との戦いに活路が見えてきます。

魔法段を連射する遠距離攻撃があれば、空中を飛ぶ小さな敵も狙い撃ちしやすく、厄介な場所に陣取る相手の対処もかなり楽です。地上にいる強めの雑魚は、突進攻撃で先手を打つも良し、カウンターを狙って叩き伏せるもよしです。

スキルはいずれも特徴的で、だからこそハマる活用を見つければ、道中の戦いが格段に楽になります。高難易度アクションに多く見られる「使えるものを全て駆使して挑む」というヒリつく戦いではなく、「立ち回りとスキルを組み合わせて有利に制する」といった戦いを、この『エンダーマグノリア』で満喫できます。

アクションゲームなのでもちろんプレイヤーの力量も大事ですが、スキルのチョイスや活用で厄介な雑魚が対処しやすくなるため、最序盤に感じた「手ごわさ」は「スキルの試行錯誤」で超えられます。そのおかげで、筆者が本作に抱いた難易度の不安は、ゲーム進行と共に解消されていきました。

■「ボス戦」が厄介? そんな時は「リピートスキル」を使いつつ回避に専念
マップの各地で挑む「ボス戦」は、かなり手応えのある戦いが待ち受けています。ただし、スキルの充実に伴って対処法が増え、戦いやすくなっていくのは「ボス戦」も同じです。


「道中の戦い」と「ボス戦」の最も大きな違いは、長期戦になることでしょう。攻撃を当てることも重要ですが、瞬間的な爆発力だけでは到底倒しきれないため、長く戦うための実力が問われます。

「死にゲー」と呼ばれる作品は、長期的に戦う能力を問われる場合が多く、攻撃だけでなく的確な回避も非常に重要です。一般的なアクションゲーム全般でも回避は重要ですが、よりシビアに、より長時間求められる傾向にあります。

『エンダーマグノリア』も、ボスのHPはかなり多く、速攻で終わることはほとんどありません。そのため、いかにボスの攻撃を回避するかが鍵となりますが、敵に攻撃している時は意識がそちらに集中してしまい、回避が疎かになることも少なくありません。

序盤から長く使ってきたメインスキル(コンボ攻撃)は十分有用ですが、攻撃のモーションを通して敵にダメージを与えるため、必然的に足が止まりますし、攻撃中は無防備なので反撃を食らう恐れもあります。結果的にHPの削り合いに終始し、結局押し負けてしまう……という敗北も、この手のゲームの「あるある」です。

そんな時に役立つのが、「リピートスキル」です。スキルにはいくつかのカテゴリーがあり、コンボ系のメインスキルのほか、クールタイムを挟むが強力な「リキャストスキル」、自動的に攻撃してくれる「オートスキル」、そしてボタンを押している間は連射状態で攻撃を繰り出す「リピートスキル」があります。

「リピートスキル」はボタン長押しでずっと攻撃判定が出続けるので、タイミングを狙う必要がほとんどありません。また、これが大きな特徴なのですが、メインスキルと違って「リピートスキル」は、発動中も主人公が自由に動けます。


さらに「リピートスキル」は硬直もなく、主人公の動きに制限も課しません。また、回数制限やクールタイムもないので、出しっぱなしで問題なし。意識の大半を回避に集中して戦えるため、ボスの攻撃もかなり避けやすくなります。

攻撃と回避の両方を行うのは一苦労ですが、片方の操作だけに絞れば、負担はかなり少なくなります。便利スキルにありがちな「与えるダメージは低め」といった調整もないので、攻撃手段としても上々。硬直なしで回避に専念できる「リピートスキル」は、手ごわいボスに悩むプレイヤーの救世主とも言える存在です。

「リピートスキル」があまりにも便利だったため、代表的に取り上げましたが、呼び出すだけであとは操作不要の「オートスキル」も負担なく攻撃手段が増えて便利ですし、「リピートスキル」や「オートスキル」の合間に「リキャストスキル」を混ぜる余裕があれば、ボスとの戦いはさらに捗ることでしょう。

■「難しい」「易しい」だけじゃない、ユニークな難易度調整
便利なスキルを使っても、どうしても勝てない……そんな場合は、難易度を調整するという手もあります。

「死にゲー」の脱却で難易度調整を持ちだすのは邪道では、と考える人もいるかもしれません。確かに、「難易度は高いけど、設定で易しくできます」という手法は、「死にゲー」の脱却という観点から見るとあまりにシンプルな手段でしょう。

しかし、『エンダーマグノリア』における難易度調整は“単なるパラメーターの上げ下げ”に留まっておらず、見るべき価値のある提案となっています。

「イージー」「ノーマル」「ハード」といったプリセットな難易度設定もありますが、これらとは別に、細かく設定可能な「カスタマイズ」が可能です。
具体的には、敵の「HP」「攻撃力」「行動頻度」「ダウン・異常状態耐性」などが項目別に分かれており、それぞれを個別に調整することができるのです。

ダメージが大きくて辛いなら「攻撃力」だけ下げるのもアリ。また、ちゃんと避けて戦いたいけど、攻撃が矢継ぎ早なので慌ててしまう……という人は、「行動頻度」を調整すれば、自分の許容範囲内で戦うことができるのでお勧めです。

単に下げるだけでなく、「敵の攻撃力は増やしつつ、ダウン・異常状態耐性を下げて、一撃が怖いけど絡め手で倒せるようにする」といった調整もできます。ただ易しくするだけでなく、最も気持ち良く戦えるように設定する楽しさもあるのが、『エンダーマグノリア』流の難易度設定です。

「難易度をカスタマイズして遊ぶ」というユニークな提案は、「死にゲー」からの脱却を目指したことで生まれた新たな切り口なのかもしれません。

「死にゲー」にも独自の楽しさや爽快感がありますが、その大部分を味わえるのは一定のハードルを越えた後の話です。しかし、無闇に難易度を下げただけのゲームでは、プレイは単調で味気ない体験になります。

こうした難しさのバランスに挑んだ『エンダーマグノリア』は、マップ機能の充実で「探索」の楽しさを継続させ、厄介な「道中の敵」には特徴的なスキルで対抗させてくれます。また「ボス戦」は、リピートスキルやオートスキルを活用すれば回避に専念しやすくなり、敵の弱体化ではなく操作の負荷を下げるという手法でプレイヤーを助けました。

さらに、難易度調整を細分化し、自分好みの「難しさ」にカスタマイズする遊び方もあり、「死にゲー」から離れたことで『エンダーマグノリア』は新たな自由を手に入れたのかもしれません。

難し過ぎることもなく、簡単でもない。そんなゲームを作るのは、典型的な「言うは易く行うは難し」に他なりません。しかし、成功例がここにあります。
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